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44 もう駄目だ

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 誠子は夜のウォーキングを諦めた。

「頼むから!夜はやめてくれ!」

「近所だけだから!」

「だめだ!」

 大福が、小さな体を張って扉の前に立ち塞がるし、外に出れば

「おい、ガサツ女。どこ行くんだよ」

 何せ外階段は201号室の前を歩かないとつけない。201の前を通ると必ずザジィ君が顔を出す。

「俺が一緒に行ってやっか?」

 夜のお仕事がない日はクロがくっついて来るが、アパートの敷地から出る前に猫の大群に囲まれて、全猫が満足するまで撫で回したりブラシをかけるまで動けないという状況にされる。

「……ごめーん。なんかみんな撫でられたいって言うもんで」

「お前が撫でろ!」

「人間に撫でて貰いたいんだよぉー」

「何が違うんだ!」

 必死でブラッシングしても運動する時間など無くなる。


「無理だ」

「心配なんだ」

 全くいつも通勤に使っている道と変わらないのに、何を心配する事があるんだ??

「痩せるんならコレだろ」

 ザジィ君がブートキャンプを送ってよこす。

「ハード過ぎるだろ!」

「へっざまぁ!」

「なにをぉ?!」

 下の階のじーちゃんには悪いが、しばらくどったんばったんやらせて貰った。

「ふはは!運動不足のヒョロ男など、一撃で倒してやる!」

「んだとコラァ?!」

「わーい、俺も俺もー」

 3人で隊長のしごきを受けたがクロだけぴんぴんしていた。

「誠子もザジィも体力なさすぎだろ」

「「うるさいわ」」

「大福もな」

「ううう……隊長とは鬼の一族なのか……?」

 大福もテーブルの上で伸びていた。私とザジィ君が隊長に敗北宣言をして、DVDの封印を決める頃には世間は12月に突入していた。

「誠子、はっきり言う!一生のお願いといっても過言ではない!」

 クロがおでこを床に擦り付けて、拝み倒してくる。

「だから、なんで私の所なんだ?」

「頼むー!頼むからー!」

「分かったよ、仕方がないな」

「誠子様!!」

 なんでそこまで頼むのか知らないか、早速私の部屋に、立派なお値段の炬燵が搬入された。

「ったく何でだよ」

 しかし、電源を入れるともう、ダメだった。

「しぇいこよ……極楽浄土とは案外近くにあるものなのだな……」

「大福?!死にかけてる?!?!」

 慌てて水を飲ませてこの世に呼び戻した。

「ぬはー!ぬはー!ぬはわー!さいっこうー!」

 黒猫になったクロがゴロゴロと炬燵の中で蕩けている。

「やっぱりさー!家族が入ってる炬燵の中がいいんだよー!一人で炬燵を独占してもつまんないんだよー!こうやって、中で蹴られるのが最高に良いんだよーあーー!」

 変態かな??クロはじーちゃんの部屋にも同じ炬燵を入れたらしい。今年は鍋を囲む機会が増えそうだ。

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