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20 その船は助ける為なのか
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「どこにも……何もない……」
とぼとぼと朝靄の中ぼろぼろの屋敷に帰り着くタティオとリルファ。
「お前達!自分達だけどこに泊まってきたのだ!ハンナも戻らんし、あの平民出の女は閉じこもって出て来ぬ!こんな屈辱、耐えきれん!」
トレントと恫喝も疲れ切ったタティオにはあまり効果がなかった。
「衛兵の詰所の牢ですよ……辻馬車にすら払うお金がなくて……」
「なっ!公爵家の人間が……ろ、牢だと?!この恥さらしがっ!」
トレントは殴ろうと腕を振り上げるが、タティオはそれを避ける気力もない。ただぼんやりと見て
「これは夢だ、こんなのある訳がない」
と、呟いていた。
「くそっ!」
振り上げた腕を振り抜く事なく、トレントは項垂れる。
「誰か金を貸してくれる者はおらんのか?!」
「……誰も、心当たりがありません……」
タティオに友人はほぼいない。貴族の付き合い、社交界も全てアンゼリカに任せていた為だ。
しかし、アンゼリカが王太子に嫁いでしまったら、ザザーラン家は誰が社交界で顔を繋いで行くつもりだったのか。
沈黙が降りる親子の後ろから声をかける者があった。
「おやおや、相当お困りのようですな?」
「だ、誰だ!お前は」
怪しい男は声を荒げたトレントに向かって小さく礼をする。
「私は商人です、ドノバン商会取締役のドノバンと申します。どうも私に手助けできる事がありそうなので、お声をかけさせて頂きました。宜しければ、朝食などご一緒にいかがですか?」
怪しい以外何者でもないのに、ザザーラン家の面々は朝食と言う誘惑に勝てる事は無かった。
「ふざけるな!」
ドノバンの提案はザザーラン家全員を憤慨させたが、当人は薄く笑ったままだった。
「では、どうするおつもりで?この朝食代は私が持ちましょう。その後は?誰か頼る先がおありで??」
「そ、そうだ!ハンナ、ハンナの実家に!」
「トラム家は全員領地に引き上げており今、王都に誰もいませんよ」
「は?!ハンナはどうした!昨日から姿が見えん!」
流石にそれは私にも分かりませんが?とドノバンはお手上げのポーズを取る。
「食えぬ爵位より、お金が必要なのでは?どうもそちらの娘さんは王様達からも嫌われて居るとか?」
「そ、そんな事ないわ!!」
黙って食べていたリルファは行儀悪く立ち上がりガチャンと食器が音を立てる。
「こう見えても私は王宮にも品物を届けていますからね。部下が見てたんですよ。そのお嬢さんが王太子にフラれて王様やら王妃様、新しい王太子様に凄い目で睨まれている所を。きっと貴族達にもこの話は広まってますよ、皆から後ろ指を指されるでしょうね」
「ほ、本当なのか!?タティオ!」
沈黙は是と、目を伏せたまままともな食べ物を口に詰め込む息子を見て、トレントはドノバンが選んだ少し高級な店の椅子に腰を下ろした。
「平民出のマナーもなっていない娘が……王太子妃になどなれる訳はないと思ってはいたが、嫌われる?嫌われるとはどういう事だ?現王は気弱ともとれるほどに優しい男。それが嫌うとは一体何をやらかしたんだ?この小娘は」
「わ、私は……私は悪くなんてないわ!」
それこそマナーも何もない大声で叫ぶリルファを躾のなっていない動物を見るような目で見てから、息子の方を向くも気まずそうに視線を彷徨わせる。返答を得られないとあきらめたトレントは仕方がなく、目の前の怪しい男を見た。
「その娘に唆された王太子がアンゼリカ・ザザーランとの婚約を破棄したんだ。しかもたくさんの貴族の前でね」
「は……?アンゼリカは何かマルセル様に婚約を破棄されるほど酷い失態を犯したのか?あのアンゼリカが?」
「王太子はアンゼリカに虐げられ、その娘に助けを求めたみたいな理由だったけど?」
「アンゼリカがいなければ、その日の昼食のメニューも決められないようなボンクラが平民出の娘に助けを?冗談にしても笑えもせんぞ」
「冗談なら良かったのにね」
2度目のお手上げポーズをするドノバンを見て、トレントはゆっくりリルファとタティオを見る。
「マ、マルセル様はボンクラじゃないわ!素敵な王太子様よ!」
この娘は王太子と言う肩書きしかみえていない。マルセル殿下が凡庸以下なのは貴族なら誰でも知っている事実。
「……」
未だに食い物を口に突っ込んでいるタティオ。トレントの視線から出来るだけ身を隠すように、見ないように食べることに集中しているフリをしている。社交界にザザーラン家の居場所はない、気が付いてしまった。
とぼとぼと朝靄の中ぼろぼろの屋敷に帰り着くタティオとリルファ。
「お前達!自分達だけどこに泊まってきたのだ!ハンナも戻らんし、あの平民出の女は閉じこもって出て来ぬ!こんな屈辱、耐えきれん!」
トレントと恫喝も疲れ切ったタティオにはあまり効果がなかった。
「衛兵の詰所の牢ですよ……辻馬車にすら払うお金がなくて……」
「なっ!公爵家の人間が……ろ、牢だと?!この恥さらしがっ!」
トレントは殴ろうと腕を振り上げるが、タティオはそれを避ける気力もない。ただぼんやりと見て
「これは夢だ、こんなのある訳がない」
と、呟いていた。
「くそっ!」
振り上げた腕を振り抜く事なく、トレントは項垂れる。
「誰か金を貸してくれる者はおらんのか?!」
「……誰も、心当たりがありません……」
タティオに友人はほぼいない。貴族の付き合い、社交界も全てアンゼリカに任せていた為だ。
しかし、アンゼリカが王太子に嫁いでしまったら、ザザーラン家は誰が社交界で顔を繋いで行くつもりだったのか。
沈黙が降りる親子の後ろから声をかける者があった。
「おやおや、相当お困りのようですな?」
「だ、誰だ!お前は」
怪しい男は声を荒げたトレントに向かって小さく礼をする。
「私は商人です、ドノバン商会取締役のドノバンと申します。どうも私に手助けできる事がありそうなので、お声をかけさせて頂きました。宜しければ、朝食などご一緒にいかがですか?」
怪しい以外何者でもないのに、ザザーラン家の面々は朝食と言う誘惑に勝てる事は無かった。
「ふざけるな!」
ドノバンの提案はザザーラン家全員を憤慨させたが、当人は薄く笑ったままだった。
「では、どうするおつもりで?この朝食代は私が持ちましょう。その後は?誰か頼る先がおありで??」
「そ、そうだ!ハンナ、ハンナの実家に!」
「トラム家は全員領地に引き上げており今、王都に誰もいませんよ」
「は?!ハンナはどうした!昨日から姿が見えん!」
流石にそれは私にも分かりませんが?とドノバンはお手上げのポーズを取る。
「食えぬ爵位より、お金が必要なのでは?どうもそちらの娘さんは王様達からも嫌われて居るとか?」
「そ、そんな事ないわ!!」
黙って食べていたリルファは行儀悪く立ち上がりガチャンと食器が音を立てる。
「こう見えても私は王宮にも品物を届けていますからね。部下が見てたんですよ。そのお嬢さんが王太子にフラれて王様やら王妃様、新しい王太子様に凄い目で睨まれている所を。きっと貴族達にもこの話は広まってますよ、皆から後ろ指を指されるでしょうね」
「ほ、本当なのか!?タティオ!」
沈黙は是と、目を伏せたまままともな食べ物を口に詰め込む息子を見て、トレントはドノバンが選んだ少し高級な店の椅子に腰を下ろした。
「平民出のマナーもなっていない娘が……王太子妃になどなれる訳はないと思ってはいたが、嫌われる?嫌われるとはどういう事だ?現王は気弱ともとれるほどに優しい男。それが嫌うとは一体何をやらかしたんだ?この小娘は」
「わ、私は……私は悪くなんてないわ!」
それこそマナーも何もない大声で叫ぶリルファを躾のなっていない動物を見るような目で見てから、息子の方を向くも気まずそうに視線を彷徨わせる。返答を得られないとあきらめたトレントは仕方がなく、目の前の怪しい男を見た。
「その娘に唆された王太子がアンゼリカ・ザザーランとの婚約を破棄したんだ。しかもたくさんの貴族の前でね」
「は……?アンゼリカは何かマルセル様に婚約を破棄されるほど酷い失態を犯したのか?あのアンゼリカが?」
「王太子はアンゼリカに虐げられ、その娘に助けを求めたみたいな理由だったけど?」
「アンゼリカがいなければ、その日の昼食のメニューも決められないようなボンクラが平民出の娘に助けを?冗談にしても笑えもせんぞ」
「冗談なら良かったのにね」
2度目のお手上げポーズをするドノバンを見て、トレントはゆっくりリルファとタティオを見る。
「マ、マルセル様はボンクラじゃないわ!素敵な王太子様よ!」
この娘は王太子と言う肩書きしかみえていない。マルセル殿下が凡庸以下なのは貴族なら誰でも知っている事実。
「……」
未だに食い物を口に突っ込んでいるタティオ。トレントの視線から出来るだけ身を隠すように、見ないように食べることに集中しているフリをしている。社交界にザザーラン家の居場所はない、気が付いてしまった。
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