【完結】妹ざまぁ小説の主人公に転生した。徹底的にやって差し上げます。

鏑木 うりこ

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19 虐めもしないが諌めもしなかった

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 戻ってこないタティオとリルファを廃墟となったザザーラン邸でリルファの母ドロシーとトレント、そしてトレントの妻ハンナはイライラと待っていた。

「遅い!喉が乾いた!茶を出せ!」

「……」

 トレントが叫ぶが昨日までいたメイドは一人もいない。トレントの矛先はドロシーに向かう。

「お前!何か飲み物を持ってこい!」

「え?」

 ドロシーにしてみればずっと領地に篭ってほぼ出てこないトレントは数回見た事があるだけの爺さんに過ぎない。その爺さんに命令される。
 ただの平民ならまだしも、貴族としての贅沢が身についてきたドロシーはその言葉にはいそうですか、と従う事は出来なかった。

「何もないんですが?カップ一つもありませんけど?」

「うるさい!何とかしろっ!」

 ちっ!ドロシーは舌打ちをして自分の部屋に消えた。勿論、飲み物を探すためではない。あの部屋なら中から鍵がかかるから、うるさい爺さんの小言を聞かなくて済むから、それだけだ。
 出てこなくなったドロシー。トレントの苛立ちは更に募り、今度はブルブルと震えるしか出来ない妻のハンナに当たり始める。

「井戸で水でも汲んで来い!このうすのろが!!」

「ひい!」

 トレントの妻であるハンナも伯爵家の出の立派な貴族だ。井戸から水を汲むなんてした事はなかった。
 それでも怒鳴り散らす夫が恐ろしく、長いスカートの裾を摘んで庭へ出た。無論どこに井戸があるかさえ知る由もない。

「い、井戸……そんなの知らないわ……」

 それでも夫の怒りは恐ろしく、キョロキョロとどこかにあるはずだと辺りを見回す。

「叔母上!叔母上……っ!」

「えっ……?レイジー?」

 庭の植え込みの影に男が一人身を潜めていて、小さく手招きをしている。ハンナの実家であるトラム家の現当主であるレイジーが一人隠れていた。
 レイジーはハンナの兄の息子で、よくも悪くもない普通の貴族だ。

「叔母上!行きましょう。叔母上一人なら連れ出せます、アンゼリカ嬢からお目溢しを頂いています!逃げますよ!」

「えっ……でも夫は……?」

「馬鹿を仰いますな!トレント様をアンゼリカ嬢が許すはずがない!ひっそりと叔母上だけを逃すならといってくださったのに!」

 ハンナは事態が飲み込めず、目を白黒させる。私一人を逃がす?どういう事だ、と。

「分かりませんか?!アンゼリカ嬢の復讐が始まっているんですよ!叔母上はアントワーヌ様を虐めはしなかった、だから!」

「あ、アントワーヌ?アンゼリカの母の……?えっ、我が領が人手に渡りそうなのはアンゼリカのせいなの??」

「直接的に悪いのはタティオ殿でしょうが……今を逃せば叔母上も一緒に沈みます!早くこちらへ!」

「あっ!」

 甥に手を引かれ、ハンナは植え込みの奥の隠し通路に進んだ。

「でも……」

「でもも何もありませんよ!早く逃げるんです!馬車に乗り、トラム領で大人しくしていて下さい!叔母上はアントワーヌ様を虐めなかったが、助けもしなかった。アンゼリカ嬢がザザーラン家で酷い扱いをされていたのに、諫めもしなった……それでも復讐対象からギリギリ外しても良いと判断されたんです」

 植え込みを抜け、レイジーはハンナにすっぽり身を覆うようなストールを被せる。これなら遠目に少し見えても、ハンナだとは気がつく者は少ないだろう。

「走って!ザザーラン邸から見えない場所に馬車を止めてあります」

「え?ええ……」

 何とかハンナは無事に馬車に乗り込み、ザザーラン邸を後にした。そして馬車の中で孫であるはずのアンゼリカの強い思いと怒りに驚くのだった。


 
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