【完結】やらかし兄は勇者の腕の中で幸せに。それくらいがちょうど良いのです

鏑木 うりこ

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8 その棍棒的な何かについての謝罪を

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「本当に! 申し訳ございませんでしたぁ!」
「重ね重ね、本当に申し訳ございません……!」

 俺とリンは殿下ご一行を村まで案内したその足で俺達の工房に迎え入れ……工房の隅っこで、埃を被っていた例の失敗作をお見せしていた。

「だ、だって錆びた変な棒にしか見えなかったんで、なら良いかな~って思って」
「こ、これは……」

 殿下の目の前に変な棍棒みたいになった鉄っぽい何かの塊を捧げる。勿論俺達は殿下の目の前で謝罪の正座です。

「何度打っても武器の形にはならなくて……棍棒が精一杯で……あんまりにも出来が酷いので置いておいたんです……」

 本当に、本当に申し訳ない! 殿下は棍棒を絶望した目で見てから手に取った。

「聖剣が……棍棒に……しかし、台座に刺さっていたはずでは」
「ひっぱったら取れました。錆びてましたからねー、台座も壊れかけてたのかもしれないですね」
「……抜けた、んですね? レンさんが?」
「リンは武器に興味ないですからねー、俺です」
「なるほど……」

 殿下は棍棒を手にぶつぶつと独り言を繰り返している。多分、頭の中を整理するのに自己問答を繰り返しているんだろう……俺とリンは足がビリビリ痺れて来たけれど、ぐっと堪えて待っていた……本当にそんなつもりじゃなかったんです! ごめんなさい……。
 しばらくして、自分の中で答えが出たのか、殿下は顔をこちらに向けた。怒っているのか……? ちょっと確認するのが怖くって目を合わせられない! なんせ、勇者の武器を壊しちゃったんだから……。

「とりあえず、夕飯の時間になって来ました。レンさんのお料理はとても美味しかった。夕飯もご馳走して頂けますか? 愛情たっぷりの奴を」

 そうして、凄く素敵な笑顔でにっこり笑った。こ、これは許して貰えたかも!

「も、もちろんです! これでもかってくらい愛情たっぷりの奴を作らせていただきまーす!!」
「お願いしますね」
「喜んでーー!」

 よーし、お兄ちゃん、秘蔵のブラックバイソンのスネ肉出して煮込んじゃうぞーっ!

「じゃあ、すぐ準備を始めますね! うわぁっ!」
「おっと」

 急いで立ちあがろうとすると、思いっきり前につんのめった。そうだ、俺とリンの足は思いっきり痺れてたんだ、立てるわけがない。
 溺れる者は藁をも掴む。転けそうになったら何にでも捕まる。俺は目の前にいた殿下の腕にしがみついてしまった。

「あ……」

 ひ、ひんやり……冷たい鎧の腕パーツ……これは何だろう……ああ、叩きたい! サラマンダーが熱した炉の中に突っ込んでドロドロに溶かしてから打ちたい!これは凄く良い素材だ、間違いなく!

「凄く……良い……」 
「?!」
「兄ちゃんっ!」
「あっ! すみませんっ」

 しがみついていた鎧からパッと離れる。危ない危ない、リンの声がなかったら思わず撫で回していたかもしれないっ! 折角許して貰えそうなのに、不敬を働いたらまた怒られそうだ。それは避けたい。

「い、行って来まーすっ」

 痺れた足で何とかその場を離れた。本当に気をつけないとなぁ。


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