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9 アンセルの父
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「ち、父上! 私、大きくなったらユールと結婚します!」
フェルム公爵はため息をつきながらも、致し方ないと笑うしかなかった。いつの日だったからか正確には思い出せないが、ユール・ステファンの息子への態度が明らかに異常な物へと変わっていた事に。友人から保護者……いや、庇護や献身に近いそれは公爵でも引くほどの姿だが、息子アンセルへの敵意や害意は全く見えずにまるで祖父が孫を見るような……いや、神がいとし子を見るような慈愛に満ち溢れている。
ともかく絶対に同世代の少年から向けられる物とは違う大きな愛情を注がれている事に気が付いていた。そしてアンセル自身もそのかなり異常な愛情を感じ取っており……それを「大好き」だと勘違いしてしまっている。
勘違いだと思っていたが、公爵は息子の気持ちを読み間違えた。
「父上……私はユールとずっと一緒にいたい。ユールの事が好きなんです、愛しているです!」
「……ユールはステファン子爵家の跡取りだ」
「弟がいるじゃないですか! 私はユールと結婚したい!」
息子アンセルの目に籠る熱が異常なのに少しだけ恐怖を覚える。
「もしかしたら、ステファン子爵はそれを許すかもしれない。だがそれはユールが望んだ時だ」
「ユールは私が頼めばそうしてくれます!」
多分、そうなるだろう。しかし公爵はそれが正しいのか判断がつかない。ユールの理解出来ない献身。それはユールの本当の望みなのか?実は違うのではないか、と。長く一緒に過ごして来たユールの幸せも公爵は望んでいる。ユールの不思議な能力や異常な献身に助けられた事も多い。
答えを出せずに保留するしかなかった。
「ではアンセルには遠くの国に婚約者がいる事にしよう。流石に公爵家の跡取りに婚約者がいないのは外聞が悪過ぎる」
「私はユール以外と結婚しませんからね!」
「……アンセル。ユールは男だよ? 跡取りはどうするんだ?」
「では私が公爵を継ぐのをやめます」
「ユールはアンセルが公爵になる事を望んでいるようだが??」
「それは……では養子を取ります!」
「……」
これは何を言っても駄目だと公爵は溜息をつくしかない。アンセルは外見よりずっと頑固で、思い込んだら絶対に引かない性格なのを父親は理解していた。
息子が部屋から出て行ってからもう一度溜息をつく。
「すまんがステファン子爵を呼んでくれないか?」
チリンチリンと呼び鈴を鳴らして執事を呼び、なにかと世話になっている隣家の子爵家当主を呼んでもらうことにする。この問題は子爵家も完全に巻き込んでいるので、一人で決める訳には行かない。
しかしステファン子爵も間違いなくアンセルを優先させるだろう。まず爵位の差という物がある。ステファン家単独で何かするより公爵家の庇護下で何かするほうが良い事が多いだろう。
だからアンセルがユールを花嫁に迎えたいと言えば悩みながらも子爵は首を縦に振る。
暫くして扉がノックされ、ステファン子爵本人が現れる。
「すまないね、急に呼び立てて」
「いえ、なんの問題もありませんよ。一体どうなさったのです? ユールがアンセル様に無礼でも働きましたか??」
いつでもステファン子爵はアンセルを思い遣ってくれている。
「逆なんだ、ステファン子爵。アンセルがとんでもない事を言い出してね。どうして良いか君の気持ちも聞きたくて」
「逆、ですか……?」
素直にステファン子爵にアンセルがユールを好いている事を聞かせる。「ユールは男ですが」「分かっているのだが、全く言う事を聞かない」そんな基本的な会話もこなし、結局は予想通りの答えが返ってきてしまう。
「ユール自身の答えを大切にしたいと思いますが……ステファン家の跡取りは弟のユアンに継がせますのでそちらは問題ありません」
「ユールが継ぐのではなかったのか?」
少しだけ思った事と違う答えが返って来て公爵は聞き返す。それに苦笑気味にステファン子爵は返事をした。
「ユールは……公爵様のお陰でかなり勉強をさせて頂きました。その御恩はアンセル様を支える事で返させて頂くつもりでしたので、元々アンセル様の部下として働く予定でした」
「それに関しては気にせずとも」
ユールが居ればアンセルの勉強が捗った、だから一緒にいて貰ったのに。
「いえ! 妹のユリアナやユアンの学費まで頂いておりますし」
その辺りはユールの献身に報いたつもりだった。
「愛しているや、妻に、と言う所に戸惑いは感じておりますがお側に置いていただく事になんの問題もありません」
「しかし! それでは」
「ユールが望んだのです。何故かは何度聞いても答えてはくれませんが、自分は生涯アンセル様を支えて生きて行く、ステファン家は継がないと。だから私達はユールの意志を尊重したい」
ユールがステファン子爵家を継がず、生涯アンセルに仕えると言うのはステファン家でもう確定した事なのだろう。強い意志で言葉を紡ぐステファン子爵には沢山の葛藤があっただろうが、それを越えてなおユールの想いを受け入れた。
ならばそれを他人である公爵がどうこう言うべきではない、という事だ。
「そうか……すまないね、アンセルがわがままで」
苦笑し、話を終わらせた。後はユールがどこまでアンセルを許すのか、それだけだろう。嫌がってアンセルから離れたいと言ったなら全力で支援してやらなければ。きっと公爵ができる事はそれくらいだ。
「いえいえ。ユールもとんだわがまま者ですよ。お互い様です」
「ははっ! そうだな」
誰も泣かない未来が来て欲しい、そう二人は思う。
フェルム公爵はため息をつきながらも、致し方ないと笑うしかなかった。いつの日だったからか正確には思い出せないが、ユール・ステファンの息子への態度が明らかに異常な物へと変わっていた事に。友人から保護者……いや、庇護や献身に近いそれは公爵でも引くほどの姿だが、息子アンセルへの敵意や害意は全く見えずにまるで祖父が孫を見るような……いや、神がいとし子を見るような慈愛に満ち溢れている。
ともかく絶対に同世代の少年から向けられる物とは違う大きな愛情を注がれている事に気が付いていた。そしてアンセル自身もそのかなり異常な愛情を感じ取っており……それを「大好き」だと勘違いしてしまっている。
勘違いだと思っていたが、公爵は息子の気持ちを読み間違えた。
「父上……私はユールとずっと一緒にいたい。ユールの事が好きなんです、愛しているです!」
「……ユールはステファン子爵家の跡取りだ」
「弟がいるじゃないですか! 私はユールと結婚したい!」
息子アンセルの目に籠る熱が異常なのに少しだけ恐怖を覚える。
「もしかしたら、ステファン子爵はそれを許すかもしれない。だがそれはユールが望んだ時だ」
「ユールは私が頼めばそうしてくれます!」
多分、そうなるだろう。しかし公爵はそれが正しいのか判断がつかない。ユールの理解出来ない献身。それはユールの本当の望みなのか?実は違うのではないか、と。長く一緒に過ごして来たユールの幸せも公爵は望んでいる。ユールの不思議な能力や異常な献身に助けられた事も多い。
答えを出せずに保留するしかなかった。
「ではアンセルには遠くの国に婚約者がいる事にしよう。流石に公爵家の跡取りに婚約者がいないのは外聞が悪過ぎる」
「私はユール以外と結婚しませんからね!」
「……アンセル。ユールは男だよ? 跡取りはどうするんだ?」
「では私が公爵を継ぐのをやめます」
「ユールはアンセルが公爵になる事を望んでいるようだが??」
「それは……では養子を取ります!」
「……」
これは何を言っても駄目だと公爵は溜息をつくしかない。アンセルは外見よりずっと頑固で、思い込んだら絶対に引かない性格なのを父親は理解していた。
息子が部屋から出て行ってからもう一度溜息をつく。
「すまんがステファン子爵を呼んでくれないか?」
チリンチリンと呼び鈴を鳴らして執事を呼び、なにかと世話になっている隣家の子爵家当主を呼んでもらうことにする。この問題は子爵家も完全に巻き込んでいるので、一人で決める訳には行かない。
しかしステファン子爵も間違いなくアンセルを優先させるだろう。まず爵位の差という物がある。ステファン家単独で何かするより公爵家の庇護下で何かするほうが良い事が多いだろう。
だからアンセルがユールを花嫁に迎えたいと言えば悩みながらも子爵は首を縦に振る。
暫くして扉がノックされ、ステファン子爵本人が現れる。
「すまないね、急に呼び立てて」
「いえ、なんの問題もありませんよ。一体どうなさったのです? ユールがアンセル様に無礼でも働きましたか??」
いつでもステファン子爵はアンセルを思い遣ってくれている。
「逆なんだ、ステファン子爵。アンセルがとんでもない事を言い出してね。どうして良いか君の気持ちも聞きたくて」
「逆、ですか……?」
素直にステファン子爵にアンセルがユールを好いている事を聞かせる。「ユールは男ですが」「分かっているのだが、全く言う事を聞かない」そんな基本的な会話もこなし、結局は予想通りの答えが返ってきてしまう。
「ユール自身の答えを大切にしたいと思いますが……ステファン家の跡取りは弟のユアンに継がせますのでそちらは問題ありません」
「ユールが継ぐのではなかったのか?」
少しだけ思った事と違う答えが返って来て公爵は聞き返す。それに苦笑気味にステファン子爵は返事をした。
「ユールは……公爵様のお陰でかなり勉強をさせて頂きました。その御恩はアンセル様を支える事で返させて頂くつもりでしたので、元々アンセル様の部下として働く予定でした」
「それに関しては気にせずとも」
ユールが居ればアンセルの勉強が捗った、だから一緒にいて貰ったのに。
「いえ! 妹のユリアナやユアンの学費まで頂いておりますし」
その辺りはユールの献身に報いたつもりだった。
「愛しているや、妻に、と言う所に戸惑いは感じておりますがお側に置いていただく事になんの問題もありません」
「しかし! それでは」
「ユールが望んだのです。何故かは何度聞いても答えてはくれませんが、自分は生涯アンセル様を支えて生きて行く、ステファン家は継がないと。だから私達はユールの意志を尊重したい」
ユールがステファン子爵家を継がず、生涯アンセルに仕えると言うのはステファン家でもう確定した事なのだろう。強い意志で言葉を紡ぐステファン子爵には沢山の葛藤があっただろうが、それを越えてなおユールの想いを受け入れた。
ならばそれを他人である公爵がどうこう言うべきではない、という事だ。
「そうか……すまないね、アンセルがわがままで」
苦笑し、話を終わらせた。後はユールがどこまでアンセルを許すのか、それだけだろう。嫌がってアンセルから離れたいと言ったなら全力で支援してやらなければ。きっと公爵ができる事はそれくらいだ。
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誰も泣かない未来が来て欲しい、そう二人は思う。
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