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アナスタシアはりんごの皮を剥くのが上手い。するするとりんごを回して切れる事なく全ての皮を一本に繋げたまま剥いてしまう。
「何度見ても手際が良いな」
「慣れていますから」
ささっと食べやすい大きさに切って皿に並べる。ベッドの上の私はあーんと大きく口を開けた。
仕方がない、とフォークでりんごを一つ刺してその口の中に運ぶ。しゃりしゃりと良い咀嚼音が響く。
「美味い」
「良かったです」
また口を開けて次のりんごを入れてもらう。美味い、素材以上の味が引き出されている気がする。
結果的に言えば私の怪我は大した事は無かった。血は出たが、所詮パルスェットの腕力では大して刺さらなかったのである。
パルスェットは流石に牢に入れられた。王族を傷つけたのは、弁解のしようも、かばい立ても出来ない。
しかし、少し大袈裟にルイフトはベッドに寝ていた。アナスタシアは後悔で看病を申し出、私は嬉々として受け入れた。
「……私がルイフト様の盾になるべき所でしたのに……申し訳ございません」
「アナスタシアにそんな事はさせられない!」
少しは鍛えていた私だから、ナイフは余り通らなかったのかもしれない。これが女性の柔肌なら?
そう考えてぶるりと私は身震いする。それに大した事はないとは言え、怪我の跡は残るだろうと言われている。
庇って良かったと胸を撫で下ろした。
「だって、私のせいで」
泣きそうなアナスタシアに私は笑いかける。
「アナスタシアが好きなんだ」
「え?」
「私は君のことが大好きなんだ。ずっと前から。だから、私の婚約者でいて欲しいし、結婚して欲しいんだ」
「あの、何を。だってそういう遊びの婚約者なのでしょう?」
「違うよ。こんな卑怯な手を使って申し訳ないと思っているけれど、私は本当に君の事が好きなんだ」
からん、アナスタシアが持っていたフォークが床に転がった。目を丸くしている。想像もしていなかったことを言われて驚いてるいる顔だ。
「ご冗談を」
「冗談ではないよ、本気さ。最初は学園を卒業したら、アナスタシアと一緒に北のりんご農家について行こうと思っていた」
「え?困ります」
はは!アナスタシアは容赦がない!こう言う所は頑固だよなと、私は笑う。
「いてて……」
「ルイフトさま?!」
笑うと傷に響くらしい。心配してもらえるのは嬉しいが、心配をかけたい訳じゃない。
「そうしたらね、フィリッツ兄上が言うんだ。もっとこの王都でりんご農家の為にできる事があるって。りんご農家の為ならアナスタシアも手伝ってくれるだろう?ってね」
「え?確かにりんご農家の為に出来る事があるなら、私はお手伝いしたいですが」
よく意味がわかっていないようだが「りんご農家の為」という魔法の言葉の前にアナスタシアは手伝うことを了承してしまった。
『何で私よりフィリッツ兄上とスチュアート兄上の方がアナスタシアの事をわかってるんだ?!おかしくないか?!』
そんなセリフは口の中で揉み消して、私は続ける。
「それがどんな仕事か実は私も聞いていないんだ。幸い私たちはまだ学園の一年生だろう?学園を卒業するまでに色々分かってきて、その為の勉強もあると思う」
アナスタシアに嘘は良くない。わからなければわからないと言った方が良い。アナスタシアは結構頑固者だ。
「なるほど……りんご農家の為にこちらで出来る事ですね」
「う、うん」
「りんご農家の為に」のせいでルイフトの「好きだ」と言う告白は消されてしまっている気がする。
「なるほど……頑張ります」
「あ、うん。よろしくお願いします」
一番アナスタシアに伝えたかった事がいまいち伝わっていない。おかしいこんなはずじゃなかったのに。
『でもまあ、これで暫くは私の婚約者を続けてくれるだろう』
その間に、なんとかアナスタシアの気持ちを完全につかんでおかなくては。なんだかんだで、アナスタシアの決定がいろいろな物事を決めている気がする。
「あれ、もしかして私達は……」
本人は全くそんな気はないのだろうけど、アナスタシアに弄ばれてないか?
そのうちアナスタシアの方から「婚約破棄よ!」と高々に叫ばれるかもしれない。あり得そうな未来で私の背筋が寒くなる。
りんご令嬢は婚約破棄だと王子に弄ばれるのではなくて、王子がりんご令嬢に弄ばれているのでは?
「うーん……」
唸っても答えは出るはずもなく。
「どうしました?もう一つ剥きましょうか?」
などと言われ、ああ、頼むとうやむやのままにおわってしまうのであった。
答えはきっと真っ赤なりんごの中に隠されているに違いない。私達が答えに辿り着くのはまだまだ先に違いない。
終わり
「何度見ても手際が良いな」
「慣れていますから」
ささっと食べやすい大きさに切って皿に並べる。ベッドの上の私はあーんと大きく口を開けた。
仕方がない、とフォークでりんごを一つ刺してその口の中に運ぶ。しゃりしゃりと良い咀嚼音が響く。
「美味い」
「良かったです」
また口を開けて次のりんごを入れてもらう。美味い、素材以上の味が引き出されている気がする。
結果的に言えば私の怪我は大した事は無かった。血は出たが、所詮パルスェットの腕力では大して刺さらなかったのである。
パルスェットは流石に牢に入れられた。王族を傷つけたのは、弁解のしようも、かばい立ても出来ない。
しかし、少し大袈裟にルイフトはベッドに寝ていた。アナスタシアは後悔で看病を申し出、私は嬉々として受け入れた。
「……私がルイフト様の盾になるべき所でしたのに……申し訳ございません」
「アナスタシアにそんな事はさせられない!」
少しは鍛えていた私だから、ナイフは余り通らなかったのかもしれない。これが女性の柔肌なら?
そう考えてぶるりと私は身震いする。それに大した事はないとは言え、怪我の跡は残るだろうと言われている。
庇って良かったと胸を撫で下ろした。
「だって、私のせいで」
泣きそうなアナスタシアに私は笑いかける。
「アナスタシアが好きなんだ」
「え?」
「私は君のことが大好きなんだ。ずっと前から。だから、私の婚約者でいて欲しいし、結婚して欲しいんだ」
「あの、何を。だってそういう遊びの婚約者なのでしょう?」
「違うよ。こんな卑怯な手を使って申し訳ないと思っているけれど、私は本当に君の事が好きなんだ」
からん、アナスタシアが持っていたフォークが床に転がった。目を丸くしている。想像もしていなかったことを言われて驚いてるいる顔だ。
「ご冗談を」
「冗談ではないよ、本気さ。最初は学園を卒業したら、アナスタシアと一緒に北のりんご農家について行こうと思っていた」
「え?困ります」
はは!アナスタシアは容赦がない!こう言う所は頑固だよなと、私は笑う。
「いてて……」
「ルイフトさま?!」
笑うと傷に響くらしい。心配してもらえるのは嬉しいが、心配をかけたい訳じゃない。
「そうしたらね、フィリッツ兄上が言うんだ。もっとこの王都でりんご農家の為にできる事があるって。りんご農家の為ならアナスタシアも手伝ってくれるだろう?ってね」
「え?確かにりんご農家の為に出来る事があるなら、私はお手伝いしたいですが」
よく意味がわかっていないようだが「りんご農家の為」という魔法の言葉の前にアナスタシアは手伝うことを了承してしまった。
『何で私よりフィリッツ兄上とスチュアート兄上の方がアナスタシアの事をわかってるんだ?!おかしくないか?!』
そんなセリフは口の中で揉み消して、私は続ける。
「それがどんな仕事か実は私も聞いていないんだ。幸い私たちはまだ学園の一年生だろう?学園を卒業するまでに色々分かってきて、その為の勉強もあると思う」
アナスタシアに嘘は良くない。わからなければわからないと言った方が良い。アナスタシアは結構頑固者だ。
「なるほど……りんご農家の為にこちらで出来る事ですね」
「う、うん」
「りんご農家の為に」のせいでルイフトの「好きだ」と言う告白は消されてしまっている気がする。
「なるほど……頑張ります」
「あ、うん。よろしくお願いします」
一番アナスタシアに伝えたかった事がいまいち伝わっていない。おかしいこんなはずじゃなかったのに。
『でもまあ、これで暫くは私の婚約者を続けてくれるだろう』
その間に、なんとかアナスタシアの気持ちを完全につかんでおかなくては。なんだかんだで、アナスタシアの決定がいろいろな物事を決めている気がする。
「あれ、もしかして私達は……」
本人は全くそんな気はないのだろうけど、アナスタシアに弄ばれてないか?
そのうちアナスタシアの方から「婚約破棄よ!」と高々に叫ばれるかもしれない。あり得そうな未来で私の背筋が寒くなる。
りんご令嬢は婚約破棄だと王子に弄ばれるのではなくて、王子がりんご令嬢に弄ばれているのでは?
「うーん……」
唸っても答えは出るはずもなく。
「どうしました?もう一つ剥きましょうか?」
などと言われ、ああ、頼むとうやむやのままにおわってしまうのであった。
答えはきっと真っ赤なりんごの中に隠されているに違いない。私達が答えに辿り着くのはまだまだ先に違いない。
終わり
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