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60 クソ喰らえ、なんだ

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 敗国の生き残りが、勝国の跡継ぎにする態度。それは貧民街に生まれて育ったリーヤに受け入れられるものでなかった、あの絶望に歪んだ顔を見てやっと気がついたなんて。

「リーヤはリーヤだったのに。私が勝手にリーヤを皇帝の息子として扱った……」

 そしてリーヤは姿を隠し、弁解する事も出来なかった。

「出来なかったんじゃない、しなかったんだ……いつでもリーヤを追いかける事が出来たのに……私はリーヤを好きだと言いながら、しなかったんだ」

 ライードとレフィリーとこれから立て直して行く国の事を考える必要があった。帝国に支援を求めたり、本当にやる事だらけでリーヤを優先出来なかった。

「リーヤが拐われた時、追いかけた……しかし、私達も途中で戻って来てしまった。リグロイ隊長の言葉、虎獣人のティーリーの真摯な態度……リーヤの手紙。全部自分の良いように信じた」

 リグロイの言葉には歴戦の勇士らしく、重みがある。沢山の人間を安堵させ、信じさせる事が出来る、信じたくなる声音と態度。

「言われたよ、ライードとレフィリーに。追いましょう、クォンツまで行きましょうと。でも私は信じると言ってしまったんだ……何を信じた?自分の常識だ。リーヤの気持ちを丸々無視して、自分の中の貴族の常識を信じたんだ」

 私の常識はリーヤの常識じゃなかったのに。

「それに……希いながら、リーヤとは結ばれてはいけないと……心の何処かで思っていた。リーヤは私の子供を産めないから、私がこの血脈を切る訳には行かないと……思えば何て下らない事なんだ」

 隣に座り込んで、リュンは静かに聞いていた。子供には難しい話だろうに、遮る事もなくただ静かに。

「そうしたら、ははは。リーヤのお腹の中には子供が居るんだって……意味が分からないよ」

「男の人も赤ちゃんが産めるのは他の国にはナイショなのよ。他の国のひとが産めるようになったら、家にとじこめて、ぜったいに外にださないのがオキテなの。でもレン兄ちゃまはやぶったわ。爺ちゃまと婆ちゃまは反対したけど、と父ちゃまも母ちゃまも兄妹もみんな、さんせいしたの」

「……他の国の人には内緒にしたかったんだね。でもどうしてリーヤは出して貰えたの?」

 相手が小さな子供だからだろう、私は聞き返す事ができた。

「リーヤ兄ちゃまは恩人だわ。リュンのおてても治してくれたのよ……それにみんなリーヤ兄ちゃまの事大好きだわ。兄ちゃまのためなら、オキテなんてくそくらえなんだわ」

「……そうか、くそくらえなんだ」

 私の常識もクソ喰らえなんだな。

「そうよ!だって大好きなんだもん!リーヤ兄ちゃまもレン兄ちゃまも!……フランちゃんはちょっと駄目ね!」

「かなり駄目じゃないかい?」

 こんな所で蹲って、子供相手にぐちぐちと未練を語っているなんて。

「ばかねぇ!りっぱなしゅくじょは、だんせいをやたらとおとしめたりしないものなのよ?しらないの?フランちゃん!」

 これは立派な淑女様に失礼な事を言ったようだ。
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