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動物に異様に好かれる手

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 レオニーはけして弱い訳ではなかった。ただ、それは6歳にしてはというだけだ。いくら獣人の血を濃く引いた獅子の子でも何人もの大人に囲まれては太刀打ちはできなかった。殴られ、蹴られても立ちあがったが、とうとうレオニーの目の前でシロウは連れ去られた。

「お母様!」

 マナーも何もなく、レオニーが王城の廊下でほかの側妃とにらみ合っていたミシェルの元に飛び込んでいく。尋常でない様子に、ミシェルは察した。祖国からの護衛は今日の午後には到着する予定だったのに!

「リッテ。レオニー。私の名において許可します。犯人を殺しなさい。地の果てまで追いつめて、恐怖に打ち震わせたのち、四肢を引き裂いておやり」

「分かりました。ミシェル様」

 リッテは狼獣人の侍女だ。深々と礼をし、顔を上げた時にはすでに剣呑な光を放つ目に変わっている。

「レオニー、シロウが何者かに連れ去られた、そうですね?」

「はい、私達の離宮の庭に、男が5人忍んできました」

 わかりました、ミシェルはそういい

「レオニー、あなたも探しなさい。そして今度は負けてはなりません。貴方には牙も爪もあるのですから」

「はい、母上!」

 リッテとレオニーは静かにその場を去った。しかし来た時よりうんと落ち着いて。それでいて全身に殺気をみなぎらせながら。

「フルー。警備にあたっていた騎士を全員処刑します。それから外に国からの商人がついているはずです。賊が一歩でも城から出たら、捕まえてすべてを吐かせるように伝えておいで」

「かしこまりました、ミシェル様」

 フルーはアライグマの獣人の侍女。素早い動きで命令を実行に移す。

「……首謀者は誰かしらね。まさかこんなことをしでかして首が胴体と繋がっていられると思っているのかしら?必ず殺してあげるから、覚悟して待つことね」

 いつも束になって蔑んでくる3人の側妃をギロリと見下す。

「ヒッ!」

「獅子の尾を踏むだけでは飽き足らず、このような暴挙。貴方たちの命だけで済めばいいわね?」

 ぺたんと座り込み、失禁をするものもいる。側妃たちの侍女も立っていられたものは一人もいない。この国の、この城の人間は獣人を甘く見過ぎたのだ。



「汚い奴隷を一匹、下町に捨ててきてくれないかしら?」

 簡単な依頼だと思った。さる高貴な方よりの依頼で、金払いもいい。依頼主の名前は伏せられていたが、なんと王城の離宮の一つに忍び込み、汚い奴隷を一人拉致してこい、それだけだった。
 しかも王城には手引する者がいて、簡単に入れる。入っても罪には問われない、口には出さなかったが、場所が場所だけに良くない噂のある側妃達の諍いだな、と雇われた男たちは思った。

 そして簡単に入ることが出来た。例の奴隷は子供と楽しそうに遊んでいた。膝の上に獣人の子供を乗せ、緑の芝生の上で歌を歌っている。
 仕事は簡単だった。無理やりに腕をつかんだだけで、奴隷はあっさり気を失い、とびかかって来たのも子供だったから、殴って蹴ってやればうずくまった。奴隷を確保したら長居は無用。男たちは指定された道を通り逃げ出した。

 簡単な依頼だったはずなのに

「グワッ!!た、たすけ……ギャアアアアア!」

 一番後ろを走っていた仲間が追いすがられた。絶叫と血の匂い。ゴキリ!ブチッ!何かを引きちぎる音。

「汚い人間ッ!」

 喋ったが、それは人間の形をしていなかった。美しくしなやかな狼の姿で、引き倒した男の上に乗っている。口の周りと前足は真っ赤に染まっている。何をかみ砕いたか、想像したくない。

「レオニー様!」

「シロウを返せッ!」

「うわっ」

 もう一人賊を引き倒す。しかしシロウが詰め込まれているであろう大きな袋を担いだ男には届かなかった。

「レオニー様!確実に仕留めるのです!その男は殺してしまって構いません!」

 まだ小さなライオンであったが、レオニーはその男の喉にかみつき、引きちぎった。

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