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動物に異様に好かれる手
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「シロウ」
「はい」
「シロウ、こっち」
「はい」
ネズミ獣人のチュタは手先がとても器用だ。力も強くないし、戦闘もまあまあ程度であるが、武器の手入れや料理などなんでも器用にこなすので重宝されていた。
人質として国外へ出向いたミシェル王女のたっての願いのため、人間を迎えに行く旅に同行したのだが……
「や、やめて下さい、レジール様。やめて、んっ!」
「ふふ、良いではないか。別に減るものではあるまいよ」
とりあえずとんでもない物を見なかった振りをする。あの人間嫌いで有名なミシェルの弟のレジールが人間の少年を膝の上から離さないのだ。
「や、やめて下さい、んんっ!くすぐったいです」
「気のせいだろ?」
楽しげにシロウと言う少年を後ろから抱えて、撫で回している。楽しそうに尻尾がパタパタと揺れていた。
「ひゃあ!や、止めて下さいよ」
「んー?」
時折、ざらついた大きな舌でうなじを舐め上げる……もう噛む寸前じゃないですか!チュタは武器の手入れをするふりをして見ていない風を装うが、この狭い馬車では無理だ。
ああ!もう飛び出して、ラビアの座る御者台の隣に避難したい!でもそんな事をしたら完全にレジール様はこの狭い馬車の中でシロウと致してしまうだろう!
……それはそれでシロウが可哀想だとチュタは気配を殺しつつ、気配を漂わせるという訳の分からない事を強要されているのだ。
「や、やめて、やめて下さいぃ、レジール様ぁチュタさんだっているんですからぁ!」
「チュタ、どっか行け」
「あんまりですよぉ!レジール様ぁ!」
シロウには悪いと思うが、自分ではレジール様を止められないよ!と情けなくヒゲを萎らせた。
「そ、それにレオニー坊ちゃんとのお約束はどうするおうもりで?」
「あー?シロウを無事に我が国まで連れて帰る途中だろ?なぁ?シロウ」
「え?あ、はい。お願いします」
ガタゴトと揺れる馬車は確かにレジールやミシェルの故国、ジェスト獣人国家に向かっている。
「や、そうですけどぉー」
レオニー様はそのシロウを迎えに行くと言っておられたじゃないですか。つまりは大きくなったら、シロウをつがいにしたいと言っていたんですよね?
口に出しては何かと問題がありそうでチュタは視線だけで訴えるが、無情にも跳ね返された。
「なら、問題ねぇだろ?それに、手放さざるを得ないとはいえ、離してしまえばそれまでだ」
「……そうっすけどぉ……」
「や、やめ、あううぅ……」
レジール様の腕の中で、もがもがともがいているシロウの目は完全に助けを求めているのだが、ネズミのチュタと獅子のレジールでは、まずチュタに勝ち目はない。
「分かりました。最後に一言だけ言わせて欲しいっす。シロウ、無理!ごめん、諦めて?」
「うわぁ!チュタさん!助けて下さいよー!」
「だから無理だってー!ごめんね!優しくして貰ってぇーー!」
馬車は走っていたが、後ろからヒョイっと飛び出て、幌の上に駆け上がってしまった。
「あれ?チュタ。どうした?」
手綱を握るラビアの隣にすとんと座り、チュタはため息をついた。
「あーんなに他人に執着するレジール様を初めてみたよ。追い出されちゃった」
「あー……シロウ可愛いもんな」
熊のラビアも空を見上げる。
「うん、可愛いのは俺も分かるよ。シロウは特別で、可愛いと思う」
あの手に撫でてもらいたい、あの目に見つめてもらいたい。じわじわと心の底から湧き上がってくる親愛の情。
なぜ?と思う前に獣の本能がそれを求めるのだから、仕方がない。
「上から順番だよなー」
「そうなんだよなぁー!」
明確な実力差の社会である獣人達は、強き者に一番を譲らねばならなかった。
「しゃーないさ。落ち着いたらブラシくらいかけてくれるだろ」
「あーでもそれ嬉しいなー!俺、シロウにブラシかけてもらうの大好き!」
「ばっか、獣人なら皆好きだよ!メロメロだぜー」
「そだなー!国についたらシロウ、ブラシ屋とか開いてくれないかなー毎日行くよ」
「「無理だなー国に着いたらレジール様の嫁だろうなー。あのレジール様が手を離すとは思えないなー」」
ラビアとチュタは思わず声を揃えてしまった。
空は青くて良い天気だが、馬車の中でどうなっているか、考えない事にした。
「はい」
「シロウ、こっち」
「はい」
ネズミ獣人のチュタは手先がとても器用だ。力も強くないし、戦闘もまあまあ程度であるが、武器の手入れや料理などなんでも器用にこなすので重宝されていた。
人質として国外へ出向いたミシェル王女のたっての願いのため、人間を迎えに行く旅に同行したのだが……
「や、やめて下さい、レジール様。やめて、んっ!」
「ふふ、良いではないか。別に減るものではあるまいよ」
とりあえずとんでもない物を見なかった振りをする。あの人間嫌いで有名なミシェルの弟のレジールが人間の少年を膝の上から離さないのだ。
「や、やめて下さい、んんっ!くすぐったいです」
「気のせいだろ?」
楽しげにシロウと言う少年を後ろから抱えて、撫で回している。楽しそうに尻尾がパタパタと揺れていた。
「ひゃあ!や、止めて下さいよ」
「んー?」
時折、ざらついた大きな舌でうなじを舐め上げる……もう噛む寸前じゃないですか!チュタは武器の手入れをするふりをして見ていない風を装うが、この狭い馬車では無理だ。
ああ!もう飛び出して、ラビアの座る御者台の隣に避難したい!でもそんな事をしたら完全にレジール様はこの狭い馬車の中でシロウと致してしまうだろう!
……それはそれでシロウが可哀想だとチュタは気配を殺しつつ、気配を漂わせるという訳の分からない事を強要されているのだ。
「や、やめて、やめて下さいぃ、レジール様ぁチュタさんだっているんですからぁ!」
「チュタ、どっか行け」
「あんまりですよぉ!レジール様ぁ!」
シロウには悪いと思うが、自分ではレジール様を止められないよ!と情けなくヒゲを萎らせた。
「そ、それにレオニー坊ちゃんとのお約束はどうするおうもりで?」
「あー?シロウを無事に我が国まで連れて帰る途中だろ?なぁ?シロウ」
「え?あ、はい。お願いします」
ガタゴトと揺れる馬車は確かにレジールやミシェルの故国、ジェスト獣人国家に向かっている。
「や、そうですけどぉー」
レオニー様はそのシロウを迎えに行くと言っておられたじゃないですか。つまりは大きくなったら、シロウをつがいにしたいと言っていたんですよね?
口に出しては何かと問題がありそうでチュタは視線だけで訴えるが、無情にも跳ね返された。
「なら、問題ねぇだろ?それに、手放さざるを得ないとはいえ、離してしまえばそれまでだ」
「……そうっすけどぉ……」
「や、やめ、あううぅ……」
レジール様の腕の中で、もがもがともがいているシロウの目は完全に助けを求めているのだが、ネズミのチュタと獅子のレジールでは、まずチュタに勝ち目はない。
「分かりました。最後に一言だけ言わせて欲しいっす。シロウ、無理!ごめん、諦めて?」
「うわぁ!チュタさん!助けて下さいよー!」
「だから無理だってー!ごめんね!優しくして貰ってぇーー!」
馬車は走っていたが、後ろからヒョイっと飛び出て、幌の上に駆け上がってしまった。
「あれ?チュタ。どうした?」
手綱を握るラビアの隣にすとんと座り、チュタはため息をついた。
「あーんなに他人に執着するレジール様を初めてみたよ。追い出されちゃった」
「あー……シロウ可愛いもんな」
熊のラビアも空を見上げる。
「うん、可愛いのは俺も分かるよ。シロウは特別で、可愛いと思う」
あの手に撫でてもらいたい、あの目に見つめてもらいたい。じわじわと心の底から湧き上がってくる親愛の情。
なぜ?と思う前に獣の本能がそれを求めるのだから、仕方がない。
「上から順番だよなー」
「そうなんだよなぁー!」
明確な実力差の社会である獣人達は、強き者に一番を譲らねばならなかった。
「しゃーないさ。落ち着いたらブラシくらいかけてくれるだろ」
「あーでもそれ嬉しいなー!俺、シロウにブラシかけてもらうの大好き!」
「ばっか、獣人なら皆好きだよ!メロメロだぜー」
「そだなー!国についたらシロウ、ブラシ屋とか開いてくれないかなー毎日行くよ」
「「無理だなー国に着いたらレジール様の嫁だろうなー。あのレジール様が手を離すとは思えないなー」」
ラビアとチュタは思わず声を揃えてしまった。
空は青くて良い天気だが、馬車の中でどうなっているか、考えない事にした。
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