52 / 80
動物に異様に好かれる手
52 ゼリア
しおりを挟む
「どうして、どうしてこんな事に……」
ゼリアは第一側妃の息子だ。ゼリアの母はなかなか世継ぎが生まれぬ王の為に、家臣が無理矢理嫁がせてきた三人の側妃の一番最初の女だった。
しかし、彼女達がやってきてすぐさま正妃は妊娠し、第一王子を産んだ。今まで三人の側妃の手の者が正妃に薬を盛り、子供ができなくしていたのではないか?と噂されるほどだった。
世継ぎが出来たからといって側妃達は出て行く事もなく、彼女達の父親が有力貴族であることから、王も邪険には扱えず……ゼリアは第二王子として生まれた。
「貴方はあの正妃の第一王子より賢くなければなりません!」
それが、母から常に言われてきた事だった。
「そしてあの第一王子より強くなければなりません」
とにかくゼリアは第一王子の上にいなければならなかった。母からは愛情より厳しさしか感じられなかった。
そんなゼリアの憂さ晴らしの先は、人質として嫁いできたミシェルの子、レオニーだった。
「ふん!あの獣人風情が!」
母は常にミシェルのことを馬鹿にしていた。だからゼリアも習った。しかも相手は人間じゃない、獣だ。
そしてゼリアとレオニーの歳の差は4歳。子供のうちの4歳差は覆すことが出来ない力の差だった。
隙を見計らって、ゼリアはレオニーを虐めた。母は叱らなかったし、他の側妃も正妃も何も言わない。
父王ですら、何も言わなかったのでゼリアはレオニーの事を格下と確定した。あれは虐めてもいい物と認識したのだ。
最初はよかった。何をしても泣くだけだったし、とても気分が良かった。そしてレオニーが生死を彷徨う怪我をし、生き残った後から全てが変わった。
あの泣いて俯くだけのレオニーが、冷たい目で見下してくる様になったのだ。
「け、獣のくせに!」
いつも通り殴ってやろうと飛びかかるとあっさり避けられ、触る事すら出来なかった。しまいには
「これだから劣っている人間は、弱い」
足をかけられ床に転ぶゼリアにレオニーは吐き捨てた。
「このぉー!!だれか!」
衛兵を呼んでも
「ゼリア殿下が一人で転ばれたのです。どうやら一人では起き上がれぬよう。助けて欲しいそうですよ、10歳にもなって」
そう鼻で笑われる。
「レオニーの癖に!レオニーの癖に!」
そしてレオニーの弱味を握ろうと忍んだミシェルの離宮で楽しそうにシロウと笑い合い、母親のミシェルに甘え、侍女達と楽しそうに過ごすレオニーを見たのだ。
「どうして」
ゼリアの母は第一王子に勝つことしか言わない。ゼリアを抱きしめる事もない。笑って過ごせる侍女もいないし、どこに行くにも手を繋いでついて来てくれる侍従もいない。
「どうして、あいつだけ!」
ある日堪らずレオニーの前に飛び出ると、レオニーと一緒にいた弱そうな男はガタガタと震え出した。
その怯えようはゼリアの自尊心をくすぐったが、その後すぐに牙を剥いたレオニーに打ち砕かれた。しかも恐怖のあまり、腰が抜けて立てなくなり、失禁までして騎士達に助けられる情けないおまけ付きで。
「くそっ!あいつらが大事にしてるあのよわっちい奴を取り上げてやれば、あいつらもまた大人しくなるのか……?!」
「ゼリア、なんの話です?」
自分の失態は告げず、ミシェルの離宮にいた弱そうな使用人のことを母親に教えてやった。
「ふ、使えそうな話ね?」
こんな話しなければ良かったと、ゼリアが後悔したのは、母を含め三人の側妃が毒杯を賜ったのを知った時だった。
「貴方が!貴方が余計な事を言わなければーーー!」
それが母親の最後の言葉で、ゼリアは連れ出された。次に会った時、母の顔は白く、棺の中で眠っていた。
それからと言うもの、ゼリアの後ろ盾となるべき人物はことごとくミシェルに狩り尽くされた。先に手を出したのはゼリアの母の親族であったが、ミシェルとレオニーを亡き者としようとしたのに返り討ちにあい、首謀者まで割り出される。
毒杯を賜るもの、首を落とされるもの。ゼリアを守ってくれるものは何も無くなった。以前にも増して父王はゼリアを見なくなる。
父が愛しているのは、正妃とその息子の第一王子だけだと皆知っていた。
レオニーも父王には愛されていない。だが、レオニーには強く優しいミシェルがいたし、親身に世話をしてくれる侍女達もいる。ゼリアには何もなかった。侍女は仕方がなしにゼリアを生かしているだけだった。
そして病はゼリアにも襲いかかった。このレザントの王宮は市井に比べれば病気のものは少ないらしいが、それでも日に何人も死んでいた。
「ごほっ、ごほっ!苦しい……」
誰もゼリアに優しい言葉をかけてくれない。移る事を恐れて最小限の侍女が嫌そうに素早く食事を運んで来るだけだった。
誰も、誰もゼリアを見ない。
「誰か……誰か……ごほっ、ごほっ!」
まだ大人になっていないゼリアは一人涙を流す。
ゼリアは第一側妃の息子だ。ゼリアの母はなかなか世継ぎが生まれぬ王の為に、家臣が無理矢理嫁がせてきた三人の側妃の一番最初の女だった。
しかし、彼女達がやってきてすぐさま正妃は妊娠し、第一王子を産んだ。今まで三人の側妃の手の者が正妃に薬を盛り、子供ができなくしていたのではないか?と噂されるほどだった。
世継ぎが出来たからといって側妃達は出て行く事もなく、彼女達の父親が有力貴族であることから、王も邪険には扱えず……ゼリアは第二王子として生まれた。
「貴方はあの正妃の第一王子より賢くなければなりません!」
それが、母から常に言われてきた事だった。
「そしてあの第一王子より強くなければなりません」
とにかくゼリアは第一王子の上にいなければならなかった。母からは愛情より厳しさしか感じられなかった。
そんなゼリアの憂さ晴らしの先は、人質として嫁いできたミシェルの子、レオニーだった。
「ふん!あの獣人風情が!」
母は常にミシェルのことを馬鹿にしていた。だからゼリアも習った。しかも相手は人間じゃない、獣だ。
そしてゼリアとレオニーの歳の差は4歳。子供のうちの4歳差は覆すことが出来ない力の差だった。
隙を見計らって、ゼリアはレオニーを虐めた。母は叱らなかったし、他の側妃も正妃も何も言わない。
父王ですら、何も言わなかったのでゼリアはレオニーの事を格下と確定した。あれは虐めてもいい物と認識したのだ。
最初はよかった。何をしても泣くだけだったし、とても気分が良かった。そしてレオニーが生死を彷徨う怪我をし、生き残った後から全てが変わった。
あの泣いて俯くだけのレオニーが、冷たい目で見下してくる様になったのだ。
「け、獣のくせに!」
いつも通り殴ってやろうと飛びかかるとあっさり避けられ、触る事すら出来なかった。しまいには
「これだから劣っている人間は、弱い」
足をかけられ床に転ぶゼリアにレオニーは吐き捨てた。
「このぉー!!だれか!」
衛兵を呼んでも
「ゼリア殿下が一人で転ばれたのです。どうやら一人では起き上がれぬよう。助けて欲しいそうですよ、10歳にもなって」
そう鼻で笑われる。
「レオニーの癖に!レオニーの癖に!」
そしてレオニーの弱味を握ろうと忍んだミシェルの離宮で楽しそうにシロウと笑い合い、母親のミシェルに甘え、侍女達と楽しそうに過ごすレオニーを見たのだ。
「どうして」
ゼリアの母は第一王子に勝つことしか言わない。ゼリアを抱きしめる事もない。笑って過ごせる侍女もいないし、どこに行くにも手を繋いでついて来てくれる侍従もいない。
「どうして、あいつだけ!」
ある日堪らずレオニーの前に飛び出ると、レオニーと一緒にいた弱そうな男はガタガタと震え出した。
その怯えようはゼリアの自尊心をくすぐったが、その後すぐに牙を剥いたレオニーに打ち砕かれた。しかも恐怖のあまり、腰が抜けて立てなくなり、失禁までして騎士達に助けられる情けないおまけ付きで。
「くそっ!あいつらが大事にしてるあのよわっちい奴を取り上げてやれば、あいつらもまた大人しくなるのか……?!」
「ゼリア、なんの話です?」
自分の失態は告げず、ミシェルの離宮にいた弱そうな使用人のことを母親に教えてやった。
「ふ、使えそうな話ね?」
こんな話しなければ良かったと、ゼリアが後悔したのは、母を含め三人の側妃が毒杯を賜ったのを知った時だった。
「貴方が!貴方が余計な事を言わなければーーー!」
それが母親の最後の言葉で、ゼリアは連れ出された。次に会った時、母の顔は白く、棺の中で眠っていた。
それからと言うもの、ゼリアの後ろ盾となるべき人物はことごとくミシェルに狩り尽くされた。先に手を出したのはゼリアの母の親族であったが、ミシェルとレオニーを亡き者としようとしたのに返り討ちにあい、首謀者まで割り出される。
毒杯を賜るもの、首を落とされるもの。ゼリアを守ってくれるものは何も無くなった。以前にも増して父王はゼリアを見なくなる。
父が愛しているのは、正妃とその息子の第一王子だけだと皆知っていた。
レオニーも父王には愛されていない。だが、レオニーには強く優しいミシェルがいたし、親身に世話をしてくれる侍女達もいる。ゼリアには何もなかった。侍女は仕方がなしにゼリアを生かしているだけだった。
そして病はゼリアにも襲いかかった。このレザントの王宮は市井に比べれば病気のものは少ないらしいが、それでも日に何人も死んでいた。
「ごほっ、ごほっ!苦しい……」
誰もゼリアに優しい言葉をかけてくれない。移る事を恐れて最小限の侍女が嫌そうに素早く食事を運んで来るだけだった。
誰も、誰もゼリアを見ない。
「誰か……誰か……ごほっ、ごほっ!」
まだ大人になっていないゼリアは一人涙を流す。
34
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません
月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください
東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。
突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。
貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。
お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。
やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる