【完結】この手なんの手、気になる手!

鏑木 うりこ

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動物に異様に好かれる手

52 ゼリア

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「どうして、どうしてこんな事に……」

 ゼリアは第一側妃の息子だ。ゼリアの母はなかなか世継ぎが生まれぬ王の為に、家臣が無理矢理嫁がせてきた三人の側妃の一番最初の女だった。
 しかし、彼女達がやってきてすぐさま正妃は妊娠し、第一王子を産んだ。今まで三人の側妃の手の者が正妃に薬を盛り、子供ができなくしていたのではないか?と噂されるほどだった。
 世継ぎが出来たからといって側妃達は出て行く事もなく、彼女達の父親が有力貴族であることから、王も邪険には扱えず……ゼリアは第二王子として生まれた。

「貴方はあの正妃の第一王子より賢くなければなりません!」

 それが、母から常に言われてきた事だった。

「そしてあの第一王子より強くなければなりません」

 とにかくゼリアは第一王子の上にいなければならなかった。母からは愛情より厳しさしか感じられなかった。

 そんなゼリアの憂さ晴らしの先は、人質として嫁いできたミシェルの子、レオニーだった。

「ふん!あの獣人風情が!」

 母は常にミシェルのことを馬鹿にしていた。だからゼリアも習った。しかも相手は人間じゃない、獣だ。
 そしてゼリアとレオニーの歳の差は4歳。子供のうちの4歳差は覆すことが出来ない力の差だった。

 隙を見計らって、ゼリアはレオニーを虐めた。母は叱らなかったし、他の側妃も正妃も何も言わない。
 父王ですら、何も言わなかったのでゼリアはレオニーの事を格下と確定した。あれは虐めてもいい物と認識したのだ。

 最初はよかった。何をしても泣くだけだったし、とても気分が良かった。そしてレオニーが生死を彷徨う怪我をし、生き残った後から全てが変わった。

 あの泣いて俯くだけのレオニーが、冷たい目で見下してくる様になったのだ。

「け、獣のくせに!」

 いつも通り殴ってやろうと飛びかかるとあっさり避けられ、触る事すら出来なかった。しまいには

「これだから劣っている人間は、弱い」

 足をかけられ床に転ぶゼリアにレオニーは吐き捨てた。

「このぉー!!だれか!」

 衛兵を呼んでも

「ゼリア殿下が一人で転ばれたのです。どうやら一人では起き上がれぬよう。助けて欲しいそうですよ、10歳にもなって」

 そう鼻で笑われる。

「レオニーの癖に!レオニーの癖に!」

 そしてレオニーの弱味を握ろうと忍んだミシェルの離宮で楽しそうにシロウと笑い合い、母親のミシェルに甘え、侍女達と楽しそうに過ごすレオニーを見たのだ。

「どうして」

 ゼリアの母は第一王子に勝つことしか言わない。ゼリアを抱きしめる事もない。笑って過ごせる侍女もいないし、どこに行くにも手を繋いでついて来てくれる侍従もいない。

「どうして、あいつだけ!」

 ある日堪らずレオニーの前に飛び出ると、レオニーと一緒にいた弱そうな男はガタガタと震え出した。
 その怯えようはゼリアの自尊心をくすぐったが、その後すぐに牙を剥いたレオニーに打ち砕かれた。しかも恐怖のあまり、腰が抜けて立てなくなり、失禁までして騎士達に助けられる情けないおまけ付きで。

「くそっ!あいつらが大事にしてるあのよわっちい奴を取り上げてやれば、あいつらもまた大人しくなるのか……?!」

「ゼリア、なんの話です?」

 自分の失態は告げず、ミシェルの離宮にいた弱そうな使用人のことを母親に教えてやった。

「ふ、使えそうな話ね?」

 こんな話しなければ良かったと、ゼリアが後悔したのは、母を含め三人の側妃が毒杯を賜ったのを知った時だった。

「貴方が!貴方が余計な事を言わなければーーー!」

 それが母親の最後の言葉で、ゼリアは連れ出された。次に会った時、母の顔は白く、棺の中で眠っていた。
 それからと言うもの、ゼリアの後ろ盾となるべき人物はことごとくミシェルに狩り尽くされた。先に手を出したのはゼリアの母の親族であったが、ミシェルとレオニーを亡き者としようとしたのに返り討ちにあい、首謀者まで割り出される。
 毒杯を賜るもの、首を落とされるもの。ゼリアを守ってくれるものは何も無くなった。以前にも増して父王はゼリアを見なくなる。
 父が愛しているのは、正妃とその息子の第一王子だけだと皆知っていた。
 レオニーも父王には愛されていない。だが、レオニーには強く優しいミシェルがいたし、親身に世話をしてくれる侍女達もいる。ゼリアには何もなかった。侍女は仕方がなしにゼリアを生かしているだけだった。

 そして病はゼリアにも襲いかかった。このレザントの王宮は市井に比べれば病気のものは少ないらしいが、それでも日に何人も死んでいた。

「ごほっ、ごほっ!苦しい……」

 誰もゼリアに優しい言葉をかけてくれない。移る事を恐れて最小限の侍女が嫌そうに素早く食事を運んで来るだけだった。

 誰も、誰もゼリアを見ない。

「誰か……誰か……ごほっ、ごほっ!」

 まだ大人になっていないゼリアは一人涙を流す。



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