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IF編 闇へ
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魔王レジール様の力は強かった。パキパキと全てが凍って行き、あの街から逃げ延びた生き物は、ミシェル様、レオニー様とその侍女2名だけだったようだ。
レジール様の城はとても寒い。
「暑いとシロウの体が傷んでしまう」
魔力で保護しているから、そんな事はないのだろうけど、レジール様がそう思ったのだから、そうなったのだ。
元神殿から程近い元王宮には、ミエ様のご遺体を安置している巨大な氷塔がそびえている。
「寒い……寒い。一人では寒いよシロウ」
レジール様の冷気で、この世界の上半分は寄れば全てを凍りつかす極寒の土地となった。
生き物が住めるレンテドール様の土地との境にはレジール様の冷気に触れて氷に閉じ込められた人々が何千年も飾りつけられるだろう。
その生きる物がいない世界で、レジール様は膝にシロウの遺体を乗せ、ずっと存在感し続ける。
一方南はレンテドール様の支配下だ。こちらは生き物が暮らせる土地なので、僅かに生き残った者たちは全てこちらに住んでいた。
「ライツ」
「はい、レンテドール様」
レンテドール様は魔王になった瞬間に変わった。もともとシロウに対して異常なほどの敬愛を向ける人だった。レンテドール様のすべてはシロウの為。いや、俺たちもそうだったんだけれども、レンテドール様は俺たちから見ても異常だった。シロウの為にならないものは全て排除し、シロウの為になるなら、身を切る事もすべてやってのけた。
魔王になり、その異常性が増した。すがすがしいほどに。
「シロウの魂を捜す」
「魂、ですか?」
「ああ」
レンテドール様の心からの笑顔を久しぶりに見た。
「シロウは神を弑した。いや、正確には神殺しの片棒を担いだのだが、殺した神が自分が頂くべき神であった。大罪も良いところだ。シロウの魂は正常な輪廻の輪に戻れるはずがない」
楽しくて楽しくてしょうがない、そんな無邪気な笑顔でレンテドール様は続ける。
「シロウの魂はこの世を彷徨い、懺悔の日々を送るはず。多分、俺たちが堕としたあの女神の傍で。探すんだ、ライツ。あのクソ女を、そしてシロウの魂を私のものにする……体はレジール殿にくれてやったが、魂くらいは私がもらっても良かろう?」
レンテドール様にも欲はある。ただ、それをすべて封印して投げ捨てて、シロウに尽くしてきた。その封印が解けた。
「私だってシロウを傍に置きたい。可愛いシロウ!レジール殿なんかよりもっともっと可愛がってあげよう」
俺たちだってシロウの傍に居たい。でもそんな資格はないと思ってた。だから影からどんな手を使ってもシロウを助ける。そう決めて生きていた。
「お前たちも私の力の一端を受け取るんだ。そうじゃなければこの魔王の瘴気の中で死んでしまうからね。そして私と一緒にずっと生きようじゃないか。シロウもね」
「はい!レンテドール様!」
ああ!なんて素晴らしいんだろう!頼りがいのある主と優しいシロウと一緒にずっとずっと生きていけるなんて!俺たちは各地に散らばってあの元女神のクソ女を捜した。
なかなか見つからなかったが、生き物が住む地は全てレンテドール様の物。探し出すことが出来た。俺たちは様子をうかがう。女は既に年を取り始めている。
「ティリス、あのクソ女。ずいぶんくたびれちゃってるけど、子供とか産めるの?」
「ギリギリまだいけるって感じね」
ティリスは兎獣人の女で医術が得意だ。魔王レンテドール様の眷属となった俺たちの中でも、特に生き生きしている。頭のおかしさに磨きがかかり、人間を何人も切り刻んだりしてる。
「ふぅん」
「様子をみましょう」
「ああ」
クソ女はリリーと呼ばれていて、そのうちそいつの腹がでかくなった。
「ホントだ。子供が出来た」
「気を付けないと、やばそう。私あっちに潜り込んでなんとかしてくる。あのままじゃ子供を殺しちゃうわ」
「りょーかい」
どうやったか知らないが、しわしわのばあさんになってティリスはその捨てたられた娼婦がたむろする地区に入り込んだ。少し医術をかじったばあさんは常に体に不調を抱える娼婦たちに受け入れられた。
リリーは何度もばあさんになったティリスに止められ
「美人が生まれれば……貴族に嫁がせればよいじゃろ?」
「ばあさん、それよ!それ!」
産む決心をした。俺はティリスの手腕と口の上手さに驚いた。
そしてロウが生まれた。間違いない、シロウだ。少しだけ違う気もするけれど、シロウに違いない。
「……シロウと、アレだな。ミエの子の魂が混ざっている。シロウ、ミエの子を拾ったな?まあいいだろう」
レンテドール様のお墨付きを得て、俺たちはロウを見守り続けた。ロウはなんとか大きくなっているが、栄養失調とリリーや周りの暴力で大きくなれない。
「レンテドール様、いつシロウを連れてくるのですか?」
俺が尋ねると、俺たちの主人は
「シロウは可哀想な方が可愛いだろう?そのほうがよりシロウらしい」
狂っている。だがそんなレンテドール様の事を俺たちは大好きだった。
「そうですね!シロウは怪我をいっぱいしていたし、そのほうがシロウらしいですもんね」
俺も、狂っている自信がある。
レジール様の城はとても寒い。
「暑いとシロウの体が傷んでしまう」
魔力で保護しているから、そんな事はないのだろうけど、レジール様がそう思ったのだから、そうなったのだ。
元神殿から程近い元王宮には、ミエ様のご遺体を安置している巨大な氷塔がそびえている。
「寒い……寒い。一人では寒いよシロウ」
レジール様の冷気で、この世界の上半分は寄れば全てを凍りつかす極寒の土地となった。
生き物が住めるレンテドール様の土地との境にはレジール様の冷気に触れて氷に閉じ込められた人々が何千年も飾りつけられるだろう。
その生きる物がいない世界で、レジール様は膝にシロウの遺体を乗せ、ずっと存在感し続ける。
一方南はレンテドール様の支配下だ。こちらは生き物が暮らせる土地なので、僅かに生き残った者たちは全てこちらに住んでいた。
「ライツ」
「はい、レンテドール様」
レンテドール様は魔王になった瞬間に変わった。もともとシロウに対して異常なほどの敬愛を向ける人だった。レンテドール様のすべてはシロウの為。いや、俺たちもそうだったんだけれども、レンテドール様は俺たちから見ても異常だった。シロウの為にならないものは全て排除し、シロウの為になるなら、身を切る事もすべてやってのけた。
魔王になり、その異常性が増した。すがすがしいほどに。
「シロウの魂を捜す」
「魂、ですか?」
「ああ」
レンテドール様の心からの笑顔を久しぶりに見た。
「シロウは神を弑した。いや、正確には神殺しの片棒を担いだのだが、殺した神が自分が頂くべき神であった。大罪も良いところだ。シロウの魂は正常な輪廻の輪に戻れるはずがない」
楽しくて楽しくてしょうがない、そんな無邪気な笑顔でレンテドール様は続ける。
「シロウの魂はこの世を彷徨い、懺悔の日々を送るはず。多分、俺たちが堕としたあの女神の傍で。探すんだ、ライツ。あのクソ女を、そしてシロウの魂を私のものにする……体はレジール殿にくれてやったが、魂くらいは私がもらっても良かろう?」
レンテドール様にも欲はある。ただ、それをすべて封印して投げ捨てて、シロウに尽くしてきた。その封印が解けた。
「私だってシロウを傍に置きたい。可愛いシロウ!レジール殿なんかよりもっともっと可愛がってあげよう」
俺たちだってシロウの傍に居たい。でもそんな資格はないと思ってた。だから影からどんな手を使ってもシロウを助ける。そう決めて生きていた。
「お前たちも私の力の一端を受け取るんだ。そうじゃなければこの魔王の瘴気の中で死んでしまうからね。そして私と一緒にずっと生きようじゃないか。シロウもね」
「はい!レンテドール様!」
ああ!なんて素晴らしいんだろう!頼りがいのある主と優しいシロウと一緒にずっとずっと生きていけるなんて!俺たちは各地に散らばってあの元女神のクソ女を捜した。
なかなか見つからなかったが、生き物が住む地は全てレンテドール様の物。探し出すことが出来た。俺たちは様子をうかがう。女は既に年を取り始めている。
「ティリス、あのクソ女。ずいぶんくたびれちゃってるけど、子供とか産めるの?」
「ギリギリまだいけるって感じね」
ティリスは兎獣人の女で医術が得意だ。魔王レンテドール様の眷属となった俺たちの中でも、特に生き生きしている。頭のおかしさに磨きがかかり、人間を何人も切り刻んだりしてる。
「ふぅん」
「様子をみましょう」
「ああ」
クソ女はリリーと呼ばれていて、そのうちそいつの腹がでかくなった。
「ホントだ。子供が出来た」
「気を付けないと、やばそう。私あっちに潜り込んでなんとかしてくる。あのままじゃ子供を殺しちゃうわ」
「りょーかい」
どうやったか知らないが、しわしわのばあさんになってティリスはその捨てたられた娼婦がたむろする地区に入り込んだ。少し医術をかじったばあさんは常に体に不調を抱える娼婦たちに受け入れられた。
リリーは何度もばあさんになったティリスに止められ
「美人が生まれれば……貴族に嫁がせればよいじゃろ?」
「ばあさん、それよ!それ!」
産む決心をした。俺はティリスの手腕と口の上手さに驚いた。
そしてロウが生まれた。間違いない、シロウだ。少しだけ違う気もするけれど、シロウに違いない。
「……シロウと、アレだな。ミエの子の魂が混ざっている。シロウ、ミエの子を拾ったな?まあいいだろう」
レンテドール様のお墨付きを得て、俺たちはロウを見守り続けた。ロウはなんとか大きくなっているが、栄養失調とリリーや周りの暴力で大きくなれない。
「レンテドール様、いつシロウを連れてくるのですか?」
俺が尋ねると、俺たちの主人は
「シロウは可哀想な方が可愛いだろう?そのほうがよりシロウらしい」
狂っている。だがそんなレンテドール様の事を俺たちは大好きだった。
「そうですね!シロウは怪我をいっぱいしていたし、そのほうがシロウらしいですもんね」
俺も、狂っている自信がある。
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