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17 ユーティアの両親とは
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チャールズ・ラング侯爵と言う人物の社交界での位置は「グラフの末の娘の夫」だった。
ユーティアの父であるチャールズはラング侯爵家の三男として生まれた。跡継ぎの長男、そのスペアの次男がいる中、甘やかされ適度に放置されて育ったチャールズは努力する訳でもなく、生まれ持った才能も乏しいが、自尊心は高かった。
そんなチャールズが6歳の時に貴族達の子供による交流パーティに出席した。そのパーティはとても盛大で華やかなものであった。何せ国の王子達や少し大きくなっていても高位貴族の子供達が軒並み出席するものだったからだ。
何故か婚約者が決まっていない子供達が溢れているこの社交界で、チャールズは気色ばんだ。
「私が私の家よりも高位のご令嬢のハートを射止めて見せます!」
チャールズの容姿は特に優れているわけではない。むしろ普通よりぽっちゃり目の甘やかされて育ったのが目に見えている姿であったが、
「チャールズは可愛いわ!」
と、母親や乳母、メイド達にちやほやされて育ち、外の世界を知らないチャールズは自信満々だった。そして出かけた交流パーティの場で、驚くしかなかった。キラキラと輝くような令嬢達、すっと引き締まりマナーも完璧な紳士たち。
「こ、こんにちは!わ、わた……わたし、わたし……」
「……行きましょう」
上手に喋る事が出来ない。話しかけても皆素通りしてしまう。チャールズはぽつんと立っているしかなかった。
その時、どこかの令嬢が遅れて入場してきたのか、会場が突然ざわめき出した。
「来たぞ、グラフの末の娘だ。必ず射止めろ!」
「はい!父上ッ」
男の子たちは走り出す勢いでその令嬢に向って行った。最初に王子達に取り囲まれ、そして公爵家の息子達……それから侯爵……チャールズ達の順番が回ってくる。
「チャールズも行くのよ」
興奮気味に話す母親……恐怖を感じながら近づくととても大したことがない令嬢がいた。聞けば伯爵家の娘だそうで……顔も髪の色も素朴な女の子だった。ただ、緑の瞳はキラキラとしていてそれだけが美しいと感じた。
「ラング家三男チャールズです」
ただ、それだけを言ってチャールズはさっさとその令嬢から離れた。だって興味がなかったからだ。自分より低い爵位、美しくもない容貌。どれもチャールズが望んだ女性とはかけ離れていたから。
熱心にその令嬢に言葉を囁く同世代たちから離れ、早く帰ろうと母親に訴える。
「チャ、チャールズ!貴方、グラフの末の娘なのよ……まあ、でもしょうがないわね、帰りましょうか」
母親は最初から期待はしていなかった。だから、早めに交流パーティを後にしたのだが、後日やってきた書状に目を丸くして父親と一緒に踊り狂った。
「でかした!でかしたぞ!!チャールズ!お前の婚約者が決まった!お前の婚約者がグラフの末の娘だ!」
「……お断りしてください……」
「バカを言うな!!グラフの末の娘だぞ!!!これで我が家は安泰だ!!うわーーーーーはっはっはっは!」
「チャールズ素晴らしいわ!もうラング家は繁栄が決まったようなものよ!やったわあああああ!」
何故、両親がこんなに喜んでいるのかその時のチャールズには分からなかった。グラフの末の娘、あの地味な娘が自分の婚約者かと思うと気が滅入ってしまうのだ。
「致し方ありません。チャールズがグラフの末の娘に選ばれたのならば」
ラング家の跡継ぎは長男からチャールズに変わった。そして両親の溺愛は加速し、チャールズは何でも買って貰えたし、自由に振る舞う事ができた。ただ、月1回の婚約者とのお茶会は嫌で嫌で仕方がなかった。
「……いらっしゃい、ユリアデット」
「おまねきいただきありがとうございます、チャールズ様」
二人の間に会話はほとんどない。どちらかがどちらかの家に行き、1時間ほどお茶を飲み帰ってゆく。子供らしく遊ぼうという事もなく、街へ行こうという事もない。ただ、静かに座っているだけだ。座っている事も出来ないのかチャールズはどこかに抜け出し、ユリアデットを放っておくことも珍しくなかった。
それでも二人は婚約を続ける。婚約を解消など絶対にチャールズの両親はいう事はなかったし、ユリアデットは自分の事を「グラフの末の娘」ではなく「ユリアデット」と名前で呼んでくれるチャールズの事を好きだったからだ。
産まれた時から「グラフの末の娘」と呼ばれ続けたユリアデットは自分に取り入ろうとする人たちにもううんざりしていた。誰もユリアデットを見てくれない。見ているのは「グラフの指輪」と「その主人のグラフの末の娘」だけだったから。
だからチャールズの素っ気ない態度は、ユリアデットの心に大きく残ったし、放置されたり、適当な扱いも嬉しかった。ユリアデットは静かを好むタイプで、本を読んでいるのが好きなのでチャールズが放っておいてくれるのは苦にもならない。それよりも興味のないおしゃれの話や流行を絶え間なく話しかけられてくる方が苦痛だった。
心が通っていなくても、奇妙なつり合いを取って二人は成長し、そして結婚した。チャールズはとにかく「グラフの末の娘」を逃がしてはならないと言われ続け、ユリアデットはチャールズが取る微妙な距離を心地よく思った。
そうして産まれたのが娘のユーティアだったのである。
ユーティアの父であるチャールズはラング侯爵家の三男として生まれた。跡継ぎの長男、そのスペアの次男がいる中、甘やかされ適度に放置されて育ったチャールズは努力する訳でもなく、生まれ持った才能も乏しいが、自尊心は高かった。
そんなチャールズが6歳の時に貴族達の子供による交流パーティに出席した。そのパーティはとても盛大で華やかなものであった。何せ国の王子達や少し大きくなっていても高位貴族の子供達が軒並み出席するものだったからだ。
何故か婚約者が決まっていない子供達が溢れているこの社交界で、チャールズは気色ばんだ。
「私が私の家よりも高位のご令嬢のハートを射止めて見せます!」
チャールズの容姿は特に優れているわけではない。むしろ普通よりぽっちゃり目の甘やかされて育ったのが目に見えている姿であったが、
「チャールズは可愛いわ!」
と、母親や乳母、メイド達にちやほやされて育ち、外の世界を知らないチャールズは自信満々だった。そして出かけた交流パーティの場で、驚くしかなかった。キラキラと輝くような令嬢達、すっと引き締まりマナーも完璧な紳士たち。
「こ、こんにちは!わ、わた……わたし、わたし……」
「……行きましょう」
上手に喋る事が出来ない。話しかけても皆素通りしてしまう。チャールズはぽつんと立っているしかなかった。
その時、どこかの令嬢が遅れて入場してきたのか、会場が突然ざわめき出した。
「来たぞ、グラフの末の娘だ。必ず射止めろ!」
「はい!父上ッ」
男の子たちは走り出す勢いでその令嬢に向って行った。最初に王子達に取り囲まれ、そして公爵家の息子達……それから侯爵……チャールズ達の順番が回ってくる。
「チャールズも行くのよ」
興奮気味に話す母親……恐怖を感じながら近づくととても大したことがない令嬢がいた。聞けば伯爵家の娘だそうで……顔も髪の色も素朴な女の子だった。ただ、緑の瞳はキラキラとしていてそれだけが美しいと感じた。
「ラング家三男チャールズです」
ただ、それだけを言ってチャールズはさっさとその令嬢から離れた。だって興味がなかったからだ。自分より低い爵位、美しくもない容貌。どれもチャールズが望んだ女性とはかけ離れていたから。
熱心にその令嬢に言葉を囁く同世代たちから離れ、早く帰ろうと母親に訴える。
「チャ、チャールズ!貴方、グラフの末の娘なのよ……まあ、でもしょうがないわね、帰りましょうか」
母親は最初から期待はしていなかった。だから、早めに交流パーティを後にしたのだが、後日やってきた書状に目を丸くして父親と一緒に踊り狂った。
「でかした!でかしたぞ!!チャールズ!お前の婚約者が決まった!お前の婚約者がグラフの末の娘だ!」
「……お断りしてください……」
「バカを言うな!!グラフの末の娘だぞ!!!これで我が家は安泰だ!!うわーーーーーはっはっはっは!」
「チャールズ素晴らしいわ!もうラング家は繁栄が決まったようなものよ!やったわあああああ!」
何故、両親がこんなに喜んでいるのかその時のチャールズには分からなかった。グラフの末の娘、あの地味な娘が自分の婚約者かと思うと気が滅入ってしまうのだ。
「致し方ありません。チャールズがグラフの末の娘に選ばれたのならば」
ラング家の跡継ぎは長男からチャールズに変わった。そして両親の溺愛は加速し、チャールズは何でも買って貰えたし、自由に振る舞う事ができた。ただ、月1回の婚約者とのお茶会は嫌で嫌で仕方がなかった。
「……いらっしゃい、ユリアデット」
「おまねきいただきありがとうございます、チャールズ様」
二人の間に会話はほとんどない。どちらかがどちらかの家に行き、1時間ほどお茶を飲み帰ってゆく。子供らしく遊ぼうという事もなく、街へ行こうという事もない。ただ、静かに座っているだけだ。座っている事も出来ないのかチャールズはどこかに抜け出し、ユリアデットを放っておくことも珍しくなかった。
それでも二人は婚約を続ける。婚約を解消など絶対にチャールズの両親はいう事はなかったし、ユリアデットは自分の事を「グラフの末の娘」ではなく「ユリアデット」と名前で呼んでくれるチャールズの事を好きだったからだ。
産まれた時から「グラフの末の娘」と呼ばれ続けたユリアデットは自分に取り入ろうとする人たちにもううんざりしていた。誰もユリアデットを見てくれない。見ているのは「グラフの指輪」と「その主人のグラフの末の娘」だけだったから。
だからチャールズの素っ気ない態度は、ユリアデットの心に大きく残ったし、放置されたり、適当な扱いも嬉しかった。ユリアデットは静かを好むタイプで、本を読んでいるのが好きなのでチャールズが放っておいてくれるのは苦にもならない。それよりも興味のないおしゃれの話や流行を絶え間なく話しかけられてくる方が苦痛だった。
心が通っていなくても、奇妙なつり合いを取って二人は成長し、そして結婚した。チャールズはとにかく「グラフの末の娘」を逃がしてはならないと言われ続け、ユリアデットはチャールズが取る微妙な距離を心地よく思った。
そうして産まれたのが娘のユーティアだったのである。
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