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キノコ転生

3 アルト

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 俺が裏庭で手入れをしていた時だった。誰か来客があったようで、見に行くと既に惨状だった。

 玄関先で揉めたんだろう。血に濡れた剣を持つ男。その後ろで青い顔で笑う太っちょ。もう1人居るがそっちは剣を抜いていない。

 そして、床に倒れるアルト。

「お、お前が素直にホムンクルスを渡さないから……!」

 青い顔の太っちょは倒れたアルトを指差して、ブルブルと震えている。

「だ、誰が……研究の、成果を渡すかよ……」

 俺はアルトに駆け寄った。

「アルト、こいつらにやられたのか」

「ヨースケ……こいつら、研究成果だけ、寄越せって……」

「汚え奴らだな」

 男たちは俺をみてハッとした。

「こいつか!こいつを連れて行けば大金持ちだ!」

 こいつら金のためにアルトを斬ったのか。

「汚い人間だ」

 やった事はなかったが、俺は出来ると知っている。ぽぅん、頭のキノコから胞子を飛ばす。辺りにウスベニ裏毒茸の胞子が広がり……。

「うっ!」「ううっ!」「腹が!」

 弱い毒だが、腹が痛くなる。それが俺だ。

 男たちは野次馬を押し退けて逃げていった。しばらく便所にこもってろ!

「アルト、死ぬのか」

「そうみたいだ……お前に会えて良かったよ、ヨースケ」

「俺も意外と楽しかった」

 アルトはそれきりだった。野次馬は全員近所の人だった。俺は庭の草木にお願いする。

「みんな、家と研究を封印してくれないか?次にちゃんとした研究者が来るまで」

 がざ…がさささっ!ツタや樹木が生い茂って、ドアと窓に絡みつく。ヒトが毟っても入るのは困難だろう。

「アルトが死んでしまったよ。裏庭に埋めておくね。まともな人が来るまで封印しとくな。あとはよろしくお願いします」

 野次馬は理解してくれたようだ。

 俺は死んだアルトの体を抱き上げると裏庭に向かう。そこはかなりジメジメしてキノコ好みの場所だ。

「一緒に埋まってやるよ。1人じゃ寂しいだろ?」

 俺はそのまま地面に埋まって行く。地面の上にウラベニ裏毒茸一つ残して、全ては土の下に隠してしまった。

 俺は秋になると地上に顔を出し、冬には菌糸に戻る生活をしている。とても普通のキノコだ。

 数年後の夏の終わり頃まだ豆粒みたいだった俺は知らない人に話しかけられた。

「小さなキノコさん。俺がここに住む事を許して貰えますか?」

 顔馴染み以外がアルトを埋めたこの場に来て、キノコの俺に話しかけたのは初めてだった。

「ここに住むにはキノコさんの許しがいるってアーニャが教えてくれたんです」

 アーニャか。ならば許すしかないよな。

「良いぜ。みんなありがとうな」

 家を覆っていた樹々がざわざわと封印を解いた。中からこじんまりした家が出てくる。

「今日からあんたの家だ。好きにしなよ」

「キノコさんも研究を手伝ってくれるって聞いたんですけど」

 そんな約束はしていないが?

「まあ、暇だから良いよ」

 俺はのそりと地上に這い出した。

俺は頭にウスベニ裏毒茸を生やしたアルトの姿になっていた。

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