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キノ殺

24 シャラ

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「ねえ、キノコさん。分かります?私の歓喜を!10年前、思いが通じあった瞬間、エドヴァルド様と私は別れなければならなかった!あの時の私の気持ちをどう表せばよいか!」

 エドヴァルドは暗殺された。そしてエドとシャラ殿にあの時、接点など無かったはずだ。ほぼ毎日、俺がくっついていたのだから。出来ちゃってる疑惑が上がるくらいに。

 思いが通じた?!ふざけるな!全てを賭けたのに道半ばで殺されてしまったエドヴァルド。
 シャラ殿、あなたは何て事をしてくれたんだ。

「それなのに!私達はまた出会えた!しかもあなたは10年前と寸分も変わらない!これこそが運命!神の采配に感謝します!」

「シャラ殿」

 俺の声は凍てついていたと思う。

「お前が



「エドヴァルド様」

 シャラの手は優しい。手に入った宝物を大切に扱う。手に入ったからの愛だろう。

「エドヴァルド様」

 どんなに愛を囁かれても、どんなに大切に扱われてもただ悲しかった。

「そんなにエドヴァルドの顔が好きなら、最初から俺を連れて行けば良かったのに」

 エドを返しておくれよ、10年前に。代わりに俺をやるからさ。




 その日から、シャラは天にも登る気持ちだった。

「私に様はいらないよ」

 恋人が、ふわりと笑う。その日から、恋人は一切を受け入れてくれる。

 触りたいと言えば、場所は選んで、と言うが拒みはしなかった。キスしたいと言えば目を閉じたし、散々嫌がった女性物の服も

「君がそうしたいなら」

 と、着てくれる。いつも

「自分で歩けるから」

 と、抱き上げるのも嫌がったのに、腕を差し伸ばしてくる程だ。

 閨に誘えば俯きながらも、拒否はしなかったし、むしろ積極的に足を絡めてきた。可愛い声で鳴き、くったりと体を投げ出す。
 愛しくて抱き寄せれば、笑いながら抱き締め返された。あまつさえ

「今度は私が」

 と、上に乗り、乱れ始めた時には何が起こったのか理解出来ないほどだった。

「シャラ、と呼んでも?」

 甘くおねだりをされて、良いよと答えれば

「私の事はルド、と」

 特別な呼び名を用意してくれた。

「ルド!」

「シャラ」

 呼び合うだけで、胸が熱くなる。彼はいつも笑っていた。その姿を見ればいつもこちらを見て、微笑んでいた。

そう いつも 見ていた。

 だから、エドヴァルドの事はいつもいつも気にしていたのに、うっかり失念していたのだ。
 肌を合わせた時、彼が

「胞子が……」

 と、キノコっぽい発言を一切しなくなったことを。

「シャラ」

 自分を呼ぶ声に、熱がほとんど無いことに。




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