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キノ殺

28 お前の存在そのものがキノコ

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 春は来ないはずだった。だから夏も来ないし、秋なんてもっと来ない。ずーーっと冬の氷の中のはずだった。

「キノコちゃんやーい」

 声がする。

「起きてーキノコちゃーん」

俺を呼んでいる声じゃないな?きっと他キノコだろう。

「キノコちゃーん!人間の頭の上に生えているピンクのキノコちゃーん!起きてくれなきゃニギニギするぞ」

「……なんですか……どうして起こすんですか?俺はこのまま死ぬんです」

 なんとか意識を取り戻すと、まだ芯まで凍り付いてはいなかった。シャラの体もまだ生きていた。

「お嫁さんを紹介して!」

 俺は結婚相談所じゃない。

「だって!ノームも、ウンディーネもサラマンダーも君がお嫁さんを連れていったでしょう!だから、僕にも!」

 吹き抜ける風、シルフ様はそう言ったが

「申し訳ありませんが、心当たりがありません」

シルフ様はぷーっと頬を膨らませた。

「嫌だ!」

「そう言われましても」

「嫁ー!早くーー嫁~!」

 軸以外は黒くなってしまった、冷蔵庫に忘れ去られた椎茸みたいになった溶けかけの俺。そんな俺に誰を紹介して貰いたいと言うのだろうか?

「だから、誰も居ませんって」

「じゃあキノコちゃんでいいや。さあ2人で新婚ー!」

「はぁ…?」

 本当に誰でも良かったんだな。寂しい人だ。

俺は岩の隙間から引っ張りだされ、風が渡る渓谷に連れてこられた。

「シルフ様、ではこの体を愛してやって下さいませ。心は俺が殺してしまったけれど、体はまだ生きていますから」

「なんか複雑な事が起こってるんだね、キノコちゃん」

「はい」

 シルフ様はうーん、と考えたが

「まぁなんとかなるでしょ」

 と、笑った。

「良かった」

 あ、もう限界。俺はシャラの頭の上からコロリと転がり落ちた。凍ってしまったキノコは、元には戻らない。
 ぺしょりと水っぽくなったキノコの体は溶けて消えてしまった。




 スヤスヤ、スヤスヤ。
キノコの望みはただ胞子を飛ばして、増える事。秋の森にピンクのウスベニ裏毒茸が増える事。

それ以上はない。

 キノコは増殖の夢をみるのか?


「おい!いつまで寝てんだ!阿呆キノコ!」

 言い草!言い草!!

「少し可哀想だと思って寝ておいてやればぐーすかぐーすか寝やがって!お前のせいで地上は大混乱してんだから、さっさと行って何とかしてこい!」

え、なにそれ。俺何にもしてないよ。

「お前の存在そのものがキノコだ!じゃなかった、存在そのものが危険だ」

 意味分かんない。

「ごめんなさい、キノコちゃん。あの子達やり過ぎなの、止めてちょうだい」

「マリアンヌちゃん??」

 ぱっちり、俺は目を覚ました。

あーー!くそキノコ!俺が呼んでも起きないくせに!!という周囲の雑音はまるっと無視した。

「あの子たちの暴走が止まらなくて、皆んな真似しちゃって。止められるのはキノコちゃんくらいしかいないの!」

 俺はマリアンヌちゃんが持っている鉢植えの中の土からこんにちわしていた。

「一体何が起こっているんです??」

「セアンとリィムよ。あなたが眠っている間にやりたい放題でゼードラウンは信じられないくらい大きくなったわ。でもやり過ぎなのよ」

 マリアンヌちゃんはため息をついた。

「とにかく、秋のウスベニ裏毒茸狩りはやめさせないと、お前絶滅するぞ?」

「ひえ?!」

「お前が7年も休眠するからーーー!」

 えっもしかして私、寝過ぎ?!

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