【完結】キノコ転生〜森のキノコは成り上がれない〜

鏑木 うりこ

文字の大きさ
47 / 71
帝国風キノコ

47 マリーベル

しおりを挟む
 死んだアルトの記憶を俺は切れ切れだが継いだ。

 その中の古い古い記憶がうっすらと蘇る。アルト……本名はアルティアス・リンド。リンド伯爵家の次男。出来損ない、期待外れと罵られていた。その妹が、マリーベル。アルトが家を出た時まだ小さかったが、アルトには良く懐いていた。
 皇帝テイゼルも小さく、アルトにくっついて歩いていたようだ。……なにが出来損ないだ。ゼルはアルトの事が大好きだった。
 アルトの錬金術、ホムンクルスの研究をいつも楽しげに見ていたので理論や術式を覚えていたようだ。

 運命は別れ、アルトは家を出る。テイゼルは皇帝として学び始め、認められて行く。マリーベルの様子はその後アルトには届かなかった。

 しかし、今目の前で項垂れる様子を見ると上手く行かなかったんだろう。

「エドヴァルド様……エドヴァルド様は、兄の作ったホムンクルスだと言うのは本当でございますか」

 突かれたくない所を突かれて来た。顔面にキノコ汁をダラダラ溢したい程の衝撃だが、なんでもない涼しい顔で聞き返す。

「マリーベル様、それを何処で?」

「多少ながらわたくしにも伝手というものがあります。そうなのですね?」

 どうしたものか。認めては面倒なことになりそうだが、マリーベル様の目は何かを決意した、追い詰められた者の目だ。
 何をするか分からないぞ。

「そうであったのなら、どうするおつもりですか?」

 マリーベル様は目を閉じ

「わたくしはわたくしの役目を全うするだけ、なのですわ。お願いします!皆様!」

 マリーベル様の護衛が部屋に雪崩れ込んで来た。何事!

「御身、失礼致します!」

 俺はあっという間に担ぎ上げられ、秋風宮から第7側妃マリーベル様の宮殿にに連れ去られる。

 あまり遠くない距離を駆け抜ける。

 お粗末な作戦だ。すぐに秋風宮のみんなが追いかけて来るし、痕跡も残し過ぎている。それでもマリーベル様はやめさせようとしない。

 ばたん、と扉は締められ

「地下へ、儀式を始めます」

「姫様!お考え直しください!」
「マリーベル様!」

「良いのです。龍巫女の言葉を聞いたでしょう?」

 なんだなんだ??俺は抱え上げられたまま、宮殿の地下へ連れてゆかれる。元々非力なキノコは大怪我で更に弱体化が激しい。


 中には大きな錬金術の魔法陣が書かれている。ホムンクルスを作る魔法陣に似ているが少し違う。
 
 なんだ、アレ。俺も見た事ないぞ?

「エドヴァルド様」

 マリーベル様は近くに立っていた。

「役立たず、出来損ないと呼ばれる続けたわたくしにしか出来ぬお役目があったのです」

 目が悲しげだが、何か吹っ切れた色もある。

「わたくしの決心が遅く、エドヴァルド様にお怪我を負わせる事になった事を誠に申し訳なく思っております」

 魔法陣の淵に俺は下ろされた。

「そして、これから行うことはあなた様の望む所ではないかとは思いますが、帝国の礎となられますよう、お許しくださいませ」

 嫌な予感がする。後退りしたくても、体が上手く動かない。元々ボロボロな所にとどめを刺されたような状態なのだから。イヤー!ヤメテー!女の子に手籠にされちゃううー!

「姫様!秋風宮の使用人が押し寄せております!」
「姫様!陛下もこちらへ向かわれていると」

「急ぎます」

 マリーベル様は魔法陣の外にいる俺に近寄って来た。

「エドヴァルド様、失礼します!」

 キノコ!キノコ狙ってる!

「やめてください!」

「エドヴァルド様!そのキノコをお渡しください!」

「だめです!本体なんだから!」

「エドヴァルド様!!」

 扉を押さえているマリーベル様の使用人が悲鳴を上げる。

「姫様!扉が持ちません!」

「エドヴァルド様!」

「嫌だってー!!」

 キノコを守ってマリーベルちゃんと揉み合いになる。キノコだけじゃなく、俺も魔法陣に入ってしまう。

「ルド!」

 テイゼルが扉を壊して入ってきた時に既に魔法陣は発動を始めていた。

「お兄様……」

「マリー!なにを!」

「お兄様…帝国を栄させてくださいませね?」

 魔法陣から光が溢れて、俺たちの意識を塗りつぶして行く。
 うわーマリーベル様、一体何をしたんだ!




「う……」

「ルド!」

 どれくらい寝ていたのか分からないが、俺は目を覚ました。目の前にゼルがいる。

「ゼル…一体何があった……?マリーベル様は……?」

「ルド……」

 その瞬間気がついてしまった。俺の中にマリーベル様の記憶がある事を。

「ゼル。俺はマリーベル様を食ったのか……?」

 なんて事を……。

「合成された、という感じだ。ルドが、マリーベルを取り込んだ。そんな感じだ。マリーは何故そんな事を」

 分かる、マリーベル様の記憶があるからわかってしまう。

「……さあね」

 伝えたくないな。しかし、マリーベル様の使用人達は理由を知っている。そちらから聞けば全てバレてしまうが、なるべく言いたくない。
 それにしてもなんて事をしたんだマリーベル様は。

「ホムンクルスの素体に自分を使うなんて……」

 意味のない作成だ。無から、生物を作り出す理論それが錬金術によるホムンクルス作成の意義だ。
 それなのに素体に生物を使ってはなんの意味もない。

「テイゼル、多分分離は出来ない。済まない、幼馴染みだったんだろう?マリーベル様の記憶が俺の中にあるんだ」

「そうか……マリーは何故、アルトの残した研究を使ってあんな事をしたんだ?」

 言いたくない、凄く言いたくない。だがバレる。結局こんな事になったのは、俺が五体満足でいなかったのも悪い。
 
「龍巫女だとよ。使用人が知っている。俺の口からは話したくないな……」

 俺の頭に鎮座する本体キノコちゃんをもぎ取ってしまいたいくらい話したくない。
 そしたらマリーベル様の命は無駄になってしまうが……キノコをどこまで削り取れば気が済むのかな……。菌糸に戻りたい。

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。 完結済みです。 7回BL大賞エントリーします。 表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

処理中です...