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「私は思うのだが、人間と魔族との相互理解が足りないのでは、と」

「相互理解でありますか?」

 そうだ、と頷くレンスィールはここにいるようにと、指定された部屋の中にいる。そこは豪華ではあるが、窓には格子があり、何か罪を犯した上位貴族が一時的に閉じ込められる部屋だった。
 どんな扱いを受けても、何も文句も言わず従う元魔王はそんな部屋の中で大人しくしている。むしろあちこちから忍び込んで来る不埒者が面倒になり、自らあちこちロックしている始末だ。
 そのレンスィールの話し相手は自らの使い魔のコウモリであった。

 コウモリは宝飾された品の良い魔石ランプに止まり、首を傾げる。

「魔族は一般的に人間より強い。だが数は少ない。数で押され、住む場所は緩々と減っている。そして人間は逆だ。
 魔族は人間を弱いと蔑み、人間は魔族を恐ろしいと狩る。

 私は思うのだ。人間は本当に弱いのか?魔族は本当に強いのか?両者は根本的な生活様式は変わらぬ。殺し合わずに暮らせぬものなのか」

 これはレンスィールの祖父の代からの命題だ。急逝した彼の父も母もこの課題に取り組んだ。

「何の因果か、私は今とても人間達に近い場所にいる。ならば人間とは何か、それを学ぶ機会なのではないかと思うのだ」
 
「無体な目にあわされてもでございますか?」

 コウモリは自らの主人を慮る。主人の意向は聞きたい。だが主人が良い様に扱われるのは我慢がならない。

「何度も言うが私は負けた魔王なのだ。強い事が魔王の証。魔王の存在意義。それを失った者に一分の価値もない。路傍の石が蹴られようが踏まれようが大した事ではあるまい」

 コウモリは悲しくなる。我が主人は価値のあるお方だ。誰もが側に置きたいと希うのに、本人が一番その価値をお知りにならないとは。

「せ、僭越ながら!私にはとても、とても素晴らしいご主人様でございます!」

 コウモリの悲痛とも言える言葉に、レンスィールは目を細めて、人差し指でコウモリを撫でた。

「そうか、私はまだ価値があったか。ではお前に失望されて無価値にならぬ様、気をつけねばな」

「失望など、未来永劫致しませぬ故、レンスィール様はずっと価値のある素晴らしい存在です」

 伸ばされた指にすりすりと擦り寄り、コウモリはうっとりと答える。好き、大好き。

 コウモリの献愛は永遠だ。

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