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精霊姫の成れの果て
29 魔女
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「あはっ!流石、当代最高の精霊姫!生んだ精霊の気持ち悪い数!それが全部死の精霊になるなんて……夢のようだわ」
リリンはそれはそれは愉快そうに、楽しそうに真っ黒な玉の精霊達を見ながらくるくると回った。ナルジェルはそれを目を細めて嬉しそうに見つめていた。
「黒い……」
ナルジェルは真っ黒の服を着ていた。それには見覚えがあった。幾つあるか分からない婚礼衣装の中から俺が選んだ物だ。
マダム・ホワイトフラウの前から見るとタキシード風なのに、後ろから見ると長い長い裾を引いた純白のウェディングドレスに見える不思議な服。それに真っ白なバラを飾り、俺の目の色と同じ青い宝石をあしらったティアラをのせた。
背が高いのでヒールのない靴を履いて貰う。美しい美しい俺の花嫁は
「ふざけんな!誰が誓いの口づけなんてするか!馬鹿野郎!」
と、文句を言いながらしぶしぶ目を閉じた。
その時の服が真っ黒に染まっている。それに葬儀の時にかぶるトークハットに黒いヴェールをかぶり、顔の半分は見えない。しかし足元はかなり高いヒールのブーツを履いていて、俺とほぼ同じくらいの背の高さになっていた。
「リリン、リリン。俺を目覚めさせてくれてありがとう。もう1人くらい大地の子を喰ってからの方が良かったのに、我慢出来ない子なんだね?」
ナルジェルの声はとても優しかった。
「ふふ、ナルジェル様。リリンは我慢出来ない子なんですー!ごめんなさいね?」
「そうだね、魔女に我慢は似合わない。自由に気ままに。国に縛られず、大地の子に支配されず。全て自分の欲望のままに」
ナルジェルがリリンを手招きする。笑いながらリリンは無邪気に寄って行く。まるで夜の闇の中、炎に吸い寄せられる蛾のようだ。
「だめだ!ナルジェル!!」
俺は飛び出して……腰に吊った剣で、リリンを切り捨てた。
「?!な、何もしてくれん、のよ!用済みの、だ、大地の子風情が……!」
「余計な事を」
リリンは地に倒れ、ナルジェルは冷たい目で俺を見下す。それでもだ。
「ナルジェルに人を殺させる訳にはいかない!!」
「くそっ!私を殺して魔女ナルジェル様は完成だったのに!どうすんのよ……完成が遠くなる……!」
「黙れ!これ以上お前にかき回されてたまるものか!」
魔女……悪い者、混乱と災厄をもたらす者。精霊姫と違って忌み嫌われる者。
「可哀想な魔女リリン。俺の手で殺されたかったろうに。可哀想な精霊姫の成れの果て!」
ナルジェルが手を伸ばしリリンを抱き上げる。もう虫の息のリリンはやはり凪いだ顔をしていた。
「ナルジェル様……貴方の完成を見ずに逝く私をお許し下さいね。ああ、なんて素敵な方……お美しいです、ナルジェル様」
「ありがとうリリン。君はとても魔女だった」
笑っている、どちらの魔女も笑っている。満たされた顔のリリンは目を閉じ、呟く。
「……私もあの人に抱かれながら死にたかった……やっと死ねる……私の、愛しい人……」
その目には涙が浮かんでいた。
「おやすみ、リリン」
リリンの体は黒い液体になり、どろりと溶けて、大地に吸い込まれた。
「ナルジェル!」
「何か?元伴侶殿」
ナルジェルの瞳はどこまでも昏く、何の感情も揺れてはいなかった。
リリンはそれはそれは愉快そうに、楽しそうに真っ黒な玉の精霊達を見ながらくるくると回った。ナルジェルはそれを目を細めて嬉しそうに見つめていた。
「黒い……」
ナルジェルは真っ黒の服を着ていた。それには見覚えがあった。幾つあるか分からない婚礼衣装の中から俺が選んだ物だ。
マダム・ホワイトフラウの前から見るとタキシード風なのに、後ろから見ると長い長い裾を引いた純白のウェディングドレスに見える不思議な服。それに真っ白なバラを飾り、俺の目の色と同じ青い宝石をあしらったティアラをのせた。
背が高いのでヒールのない靴を履いて貰う。美しい美しい俺の花嫁は
「ふざけんな!誰が誓いの口づけなんてするか!馬鹿野郎!」
と、文句を言いながらしぶしぶ目を閉じた。
その時の服が真っ黒に染まっている。それに葬儀の時にかぶるトークハットに黒いヴェールをかぶり、顔の半分は見えない。しかし足元はかなり高いヒールのブーツを履いていて、俺とほぼ同じくらいの背の高さになっていた。
「リリン、リリン。俺を目覚めさせてくれてありがとう。もう1人くらい大地の子を喰ってからの方が良かったのに、我慢出来ない子なんだね?」
ナルジェルの声はとても優しかった。
「ふふ、ナルジェル様。リリンは我慢出来ない子なんですー!ごめんなさいね?」
「そうだね、魔女に我慢は似合わない。自由に気ままに。国に縛られず、大地の子に支配されず。全て自分の欲望のままに」
ナルジェルがリリンを手招きする。笑いながらリリンは無邪気に寄って行く。まるで夜の闇の中、炎に吸い寄せられる蛾のようだ。
「だめだ!ナルジェル!!」
俺は飛び出して……腰に吊った剣で、リリンを切り捨てた。
「?!な、何もしてくれん、のよ!用済みの、だ、大地の子風情が……!」
「余計な事を」
リリンは地に倒れ、ナルジェルは冷たい目で俺を見下す。それでもだ。
「ナルジェルに人を殺させる訳にはいかない!!」
「くそっ!私を殺して魔女ナルジェル様は完成だったのに!どうすんのよ……完成が遠くなる……!」
「黙れ!これ以上お前にかき回されてたまるものか!」
魔女……悪い者、混乱と災厄をもたらす者。精霊姫と違って忌み嫌われる者。
「可哀想な魔女リリン。俺の手で殺されたかったろうに。可哀想な精霊姫の成れの果て!」
ナルジェルが手を伸ばしリリンを抱き上げる。もう虫の息のリリンはやはり凪いだ顔をしていた。
「ナルジェル様……貴方の完成を見ずに逝く私をお許し下さいね。ああ、なんて素敵な方……お美しいです、ナルジェル様」
「ありがとうリリン。君はとても魔女だった」
笑っている、どちらの魔女も笑っている。満たされた顔のリリンは目を閉じ、呟く。
「……私もあの人に抱かれながら死にたかった……やっと死ねる……私の、愛しい人……」
その目には涙が浮かんでいた。
「おやすみ、リリン」
リリンの体は黒い液体になり、どろりと溶けて、大地に吸い込まれた。
「ナルジェル!」
「何か?元伴侶殿」
ナルジェルの瞳はどこまでも昏く、何の感情も揺れてはいなかった。
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