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精霊姫の成れの果て
40 溶けても一緒に
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「ナル!離れるなって言っただろ!」
がばりと抱きつかれて、手に持っていた焼き菓子を落としかける。
「リジェ?あの屋台まで買い物に行っただけだよ」
サクサクして美味しいんだ。しかも焼き立てが1番美味いから、屋台で食べるのが1番だ。
「ナルジェルは俺と菓子とどっちが大事なんだ!」
「アホか!」
俺の阿呆でお荷物は改善したが、今度はリジェーシャが阿呆になった。
俺の阿呆は持ち回り制か??
「続きは帰ってからやってくれー」
屋台のオヤジにからかわれる。誰がそんな事するか!
「やるやる。良い夢見せてやるよ!」
「リジェ!!!」
何言ってるの?!この人!!
卵から生まれ直した俺はもう一度精霊姫になった。腹に傷は残ったが、精霊を生み出すのに何の支障も無かったようだ。
「詐欺か!!」
シュバイチェルンのロイが乗り込んで来たが、リジェーシャが実力を持って追い返した。
地面に這いつくばるロイに上から高々と言い渡すリジェーシャは凄くカッコ良かった!
「愛の前に屈するが良いさ!しかしシュバイチェルンの温泉には一度行ってやっても良いと思っているから、最高級の宿を取っておけ!」
「?!」
2人でのんびり旅行したりした。初めていったシュバイチェルンにも多くの魔女が潜んでいそうだったが、それは国内でなんとかして欲しいと思う。
他国まで構っていられないからね!
リグロードにも足を伸ばし、精霊と魔女と悪霊の話を詳しく伝えた。しかしリグロードに魔女は少なかった。
「リグロードの精霊姫と大地の子は厳重に守られて、生涯を共にする。父上と母上のようにな」
「えっ?!知らなかった!」
「あまり母上は表に出ないだろう?精霊姫だからだよ。しかし魔女と悪霊の話は凄まじいな。母上を怒らせないようにと父上に釘を差しておこう」
それが良い。リグロードには大量の精霊がいて、それは母上がずっと生み出したものらしい。もし悪霊化したら……考えるだけでも恐ろしいな!
帝国より精霊と精霊姫に詳しいはずのリグロードにも魔女の話はほとんど残っていなかった。あんなに悲しい運命の精霊姫なのに。悲しいからこそ隠されていたんだろうか?
「ナルジェル」
別れ際に兄上が尋ねてきた。
「お前は今、幸せか?」
俺は笑って答える。
「魔女にならないくらいには、幸せですよ」
兄上に手を振った。そして暖かい腕の中に帰って行く。
「ナル、ナルジェル。俺のナルジェル!」
「リジェーシャ。愛してるよ」
兄上はため息で見送ってくれた。俺と言うお荷物が居なくなったんだから、兄上も早く結婚したらいいのに。
「ナルジェルには過剰で重たいくらいの愛でいいんだ!」
そうかもしれない。俺は強くないから分厚くて重たい愛で守って貰ってちょうど良い。
リジェーシャはそっと腹の傷跡を撫でる。自分でやった跡だ。
「消せるかもしれない」
そう言うと、手を止めて笑った。
「残しておいてくれないか?お前を1人にしてお前を守れなかった俺への戒め……いや、俺とお前の愛の為に」
「そうなの?」
上着を持ち上げて、汚い傷跡を晒す。
「お前のきれいな体にお前が自分でつけた傷。お前を1人にして、お前を守れなかったせいで出来た跡なのに……俺を想ってつけたと思うと……狂おしいくらいに愛しいんだ」
盛り上がった跡のデコボコ一つ一つを確かめるようにゆっくりゆっくり撫で、唇を這わせて行く。
「分かった……じゃあこのままで……」
毎日この跡を見せるだけで、リジェーシャの心を揺らす事が出来るなんて、なんてお得な怪我だったんだろう。
俺たちはお互いにお互いへの執着が酷い。それでも。
「ありがとう、ナルジェル。愛しているよ」
のっそりと乗り上げてくるリジェーシャを抱きしめる。
「俺も愛してる。もう二度と傷を残さなくて良いように、ずっと一緒にいてくれよ?」
「勿論だとも!」
いつか2人が溶けてなくなったとしても、ずっとずっと一緒に居たいと心から願い、それはきっと精霊によって聞き届けられるだろう。
きっと、いつか。
終わり
がばりと抱きつかれて、手に持っていた焼き菓子を落としかける。
「リジェ?あの屋台まで買い物に行っただけだよ」
サクサクして美味しいんだ。しかも焼き立てが1番美味いから、屋台で食べるのが1番だ。
「ナルジェルは俺と菓子とどっちが大事なんだ!」
「アホか!」
俺の阿呆でお荷物は改善したが、今度はリジェーシャが阿呆になった。
俺の阿呆は持ち回り制か??
「続きは帰ってからやってくれー」
屋台のオヤジにからかわれる。誰がそんな事するか!
「やるやる。良い夢見せてやるよ!」
「リジェ!!!」
何言ってるの?!この人!!
卵から生まれ直した俺はもう一度精霊姫になった。腹に傷は残ったが、精霊を生み出すのに何の支障も無かったようだ。
「詐欺か!!」
シュバイチェルンのロイが乗り込んで来たが、リジェーシャが実力を持って追い返した。
地面に這いつくばるロイに上から高々と言い渡すリジェーシャは凄くカッコ良かった!
「愛の前に屈するが良いさ!しかしシュバイチェルンの温泉には一度行ってやっても良いと思っているから、最高級の宿を取っておけ!」
「?!」
2人でのんびり旅行したりした。初めていったシュバイチェルンにも多くの魔女が潜んでいそうだったが、それは国内でなんとかして欲しいと思う。
他国まで構っていられないからね!
リグロードにも足を伸ばし、精霊と魔女と悪霊の話を詳しく伝えた。しかしリグロードに魔女は少なかった。
「リグロードの精霊姫と大地の子は厳重に守られて、生涯を共にする。父上と母上のようにな」
「えっ?!知らなかった!」
「あまり母上は表に出ないだろう?精霊姫だからだよ。しかし魔女と悪霊の話は凄まじいな。母上を怒らせないようにと父上に釘を差しておこう」
それが良い。リグロードには大量の精霊がいて、それは母上がずっと生み出したものらしい。もし悪霊化したら……考えるだけでも恐ろしいな!
帝国より精霊と精霊姫に詳しいはずのリグロードにも魔女の話はほとんど残っていなかった。あんなに悲しい運命の精霊姫なのに。悲しいからこそ隠されていたんだろうか?
「ナルジェル」
別れ際に兄上が尋ねてきた。
「お前は今、幸せか?」
俺は笑って答える。
「魔女にならないくらいには、幸せですよ」
兄上に手を振った。そして暖かい腕の中に帰って行く。
「ナル、ナルジェル。俺のナルジェル!」
「リジェーシャ。愛してるよ」
兄上はため息で見送ってくれた。俺と言うお荷物が居なくなったんだから、兄上も早く結婚したらいいのに。
「ナルジェルには過剰で重たいくらいの愛でいいんだ!」
そうかもしれない。俺は強くないから分厚くて重たい愛で守って貰ってちょうど良い。
リジェーシャはそっと腹の傷跡を撫でる。自分でやった跡だ。
「消せるかもしれない」
そう言うと、手を止めて笑った。
「残しておいてくれないか?お前を1人にしてお前を守れなかった俺への戒め……いや、俺とお前の愛の為に」
「そうなの?」
上着を持ち上げて、汚い傷跡を晒す。
「お前のきれいな体にお前が自分でつけた傷。お前を1人にして、お前を守れなかったせいで出来た跡なのに……俺を想ってつけたと思うと……狂おしいくらいに愛しいんだ」
盛り上がった跡のデコボコ一つ一つを確かめるようにゆっくりゆっくり撫で、唇を這わせて行く。
「分かった……じゃあこのままで……」
毎日この跡を見せるだけで、リジェーシャの心を揺らす事が出来るなんて、なんてお得な怪我だったんだろう。
俺たちはお互いにお互いへの執着が酷い。それでも。
「ありがとう、ナルジェル。愛しているよ」
のっそりと乗り上げてくるリジェーシャを抱きしめる。
「俺も愛してる。もう二度と傷を残さなくて良いように、ずっと一緒にいてくれよ?」
「勿論だとも!」
いつか2人が溶けてなくなったとしても、ずっとずっと一緒に居たいと心から願い、それはきっと精霊によって聞き届けられるだろう。
きっと、いつか。
終わり
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