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番外編 ハロウィン・ディ

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 大地の子に愛された精霊姫!その愛が!愛が……憎い!真っ赤な髪の精霊姫の後ろに静かに張り付いている黒髪が大地の子なんだろう。

 奪ってやりたい!その幸せを壊してやりたい!憎しみが燃え上がる。
 そんな私の憎しみを正面から受け止めて、困ったように眉を寄せる。

「ごめんね?リジェーシャだけは譲れないんだ。別に俺を憎んでくれて構わないが、この会場には俺より素敵な人がたくさんいるから、少しだけで良い、周りを見てくれないか?」

 あんたより美形は居ないでしょう!!そう思ったが、あまりに丁寧な物言いに少しだけ会場を見渡した。
 何人もの男性がこちらを見ていた。皆蔑みの顔ではない。興味深い、そんな感じだ。
 そのうちの1人が足早にやってきて、赤い髪の精霊姫に頭を下げてから、こちらを見る。

「こんばんは、美しい魔女様。私は1番街の八百屋の主人です……って言うように言われた!ははは、意味わかんねぇよな!」

「え?八百屋?」

「突然、ナルジェル様がじゃがいもを握りしめながら、城に来てくれ!って頭を下げるから来てみたら、このざまよ!」

 その男も礼服を窮屈そうに着させられている。

「私もほぼ拐われて来たわ……なんなの、これは?」

「さあ?俺も、もし、1人の人を愛したら死ぬまで側にいて愛せるか!絶対か!って強く聞かれた。まあ当たり前だ!って答えたがな!」

 ……当たり前か、素敵な言葉ね。

「そうなの。あなた奥さんいるんでしょう?」

「ああ、墓の下だがな。病気でぽっくり逝っちまった」

「……ごめんなさい」

 聞く事じゃなかったわ。

「お前さんと同じ茶色の髪で、青い目だった。ははっこっちこそ済まない!気になっちまって」

「構わないわ。私にも夫がいたのよ……捨てられたけど」

「お前さんの元旦那は阿呆だな!こんなきれいな人を捨てるなんて!」

 きれい?!私が?!魔女の私が?!あれ?なんだろうドキドキする。さっきの赤い髪の美形に感じたドキドキとは違う……遠い昔に知っていた感じに……。

「あれ?おかしいわ……?」

「どうした?苦しいのか?その服か?!おーい誰か!」

 パタパタとメイドさんと騎士がかけてくる。私はそれが目に入らない。

「あの、あの!八百屋さん!お名前は……?」

「え?俺はジェイン、八百屋のジェインだよ、アネッサさん」

「ジェインさん」

 あれ?あれれ?私、おかしいわ!何?何なの……だって、だって今会ったのよ?そんな、よく知らない人なのよ。それなのに!

「どうしよう、ジェインさん。私、卵になりそうなの……」

「卵!」

 ジェインさんはびっくりして目を見開いた。

「卵は売ってないぞ!」

「ジェインさん!違います!卵ですよ!」

 走って来たメイドさんの言葉もよく分からない。私、私おかしい。

「暖めて上げられますか!できますか?!できませんか?!」

 騎士様は問いかける。

「え?あ?う??アネッサさんのたまごを、俺が??」

「「そうです!!」」

 2人に強く言われ、ジェインさんは一歩あとずさったが

「アネッサさんの卵なら、誰にも渡さん!俺があっためる!!」

 どうしよう!嬉しい!!嬉しいわ!私は嬉しくて嬉しくて……ころんと大きな卵になってジェインさんの腕に飛び込んだ。

「卵おーーーーー!?」

 誰かが叫んでいる。「早く!部屋を用意して!」「はい!」「絶対に落とすなよ!死んでも落とすなよ!ていうか死ぬなよ!」「早く早く!暖めて!」「おめでとう!おめでとう!」

 ガヤガヤ、わいわいうるさかったが

「アネッサさん、最初に俺を見てくれるかな?」

 ジェインさんの声ははっきり聞こえる。そのつもりよ!私を捨てた男の顔が薄くなって、少ししか一緒にいなかったジェインさんの顔が思い出せる。

「アネッサさんの卵かー可愛いな!ってうお!なんだこの光る奴!」

 ジェインさんが精霊を見だしたのね。

「アネッサさんの子供達なんだって?この黒い種みたいなの。大丈夫なのか?アネッサさんが起きたら一緒に起きるって言うけど心配だせ」

 私の子供達は種になったのね?ジェインさんの側に置いてもらってるのね。

「飯も持ってきて貰えるなんて……離れたくないから良いけどな!風呂にまで卵を持って入れって言われるんだぜ!……持ってったけど」

 やだ!私ったらジェインさんと一緒にお風呂まで入ったの?!恥ずかしいわ!

「アネッサさん、早く話がしたい。聞いたよ、魔女にどうしてなったのか。精霊姫ってどんな存在なのか。でも俺はアネッサさんから聞きたい」

……哀れな女でしょう?しかももうだいぶ歳なのよ?

「アネッサさん。俺の妻の話をするよ、君の話だけ聞いて俺の話をしないのは……なんか嫌だ」

 ……聞きます、ジェインさん。

「アネッサさん、結婚して欲しい。もしかしたら、大地の子としてアネッサさんに惹かれてるかもしれない。でも全部がそうじゃないと思う!俺は……あなたが好きだ!」

「私もよ、ジェインさん!」

 私は力一杯、卵の殻を打ち破った!

「あ!アネッサさん!」

 卵の殻まみれになったジェインさんに抱きついた。力一杯ジェインさんもわたしを抱き締め返してくれた。
 私の子供達も、全員種から弾けて飛び、一回り大きくなって出てきた。

 私はまた精霊姫になってジェインさんと一番街で八百屋の女将になった。隣に国の警備室が出来て、何かあったらすぐに駆け込んでいいことになっている。

「1度闇に堕ちて死んだ精霊が復活すると、強くなるんですよね。多分その子達はジェインさん以外の大地の子がアネッサさんに近づくのを許さない」

 ふわふわと手足と羽がある小さな子供の姿の精霊達は、えへん!と胸をそらした。きちんと話が聞こえているらしい。

「心強いですよ。やはり人では精霊の力の前に屈しますから」

 精霊が見える騎士がこんな市井で仕事に当たるなど……申し訳ないと思ったが

「こう見えて精霊姫と大地の子の護衛は給料良くて人気職なんですよ!」

 と、朗らかに笑った。望めば貴族のような生活も出来ると言われたが、私達は八百屋が良かった。

 ここ一番街と私が住んでいた2番街は治安が良くて、住みやすい人気の街になっていった。

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