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3 私、そんなにこの家が……
しおりを挟む「あの野郎、サリーの所に行きました。どうやら金品を渡していますね」
「……グレッグのやりそうなことだわ。そうやってサリーさんに取り入って領地に残る気なのね……サリーさん達は領地視察なんて出かけないでしょうから自分の悪行はばれることはないと思っているのでしょう」
「そうですね。領地があれほど赤字だと気がついていないのですから……知っていれば派手な買い物をして散財することもないはずなのに」
私とアレックスは深いため息をついてしまう。元平民のサリーさんと妹のユリシアの散財にも頭を悩ませている所なのだ。
いくら我が家にお金がないといっても二人は散財を止めようとしない。貴族籍はあるとはいえ、弱小子爵家に毎週ドレスを仕立てるお金なんてないのに。
「お姉様は本当はお金がある癖に私やお母様にお金を渡すのが嫌なんだわ……酷い、家族なのに!」
「本当にうちにはお金がないのよ。今だって何とかやりくりしているけれど、近い将来限界がくるの」
何度そういっても私の言葉を信じない二人。
「嘘よ! だって貴族の家にお金がないなんてあり得ないでしょう? 本当にお姉様はひどい人!」
「貴族とはいえ我が家は末端の子爵家。それに領地の経営状態も悪い……帳簿を見れば分かることよ」
「また私達に嘘をつくのね? 私、知ってるのよ。領地は大丈夫だって! だってグレッグが上手くやってるっていってもの。いつも手土産に宝石とかお金とか持ってくるの。だからお姉様は嘘をついてるの! 本当にお姉様って嫌な人だわ!」
「あっ、待ちなさいユリシア」
舌を出して走り去るユリシア。これが我が家の日常なのだから。
「何とかグレッグを領地から追い出すことはできないかしら……」
「難しいと思います。長年グレッグ一家が領主代理として領地を取り仕切ってきました……そして領民達はグレッグを信じ切っています。グレッグに圧力を掛ければそれ見たことかと暴動が起こりかねません」
「グレッグが私を悪者に仕立てていることも問題ね……領地の赤字を補填しているのは私なのに、どうして」
「先代もほとんど領地に顔を出していなかったとか。パトリシア様も忙しすぎて領地まで中々出向けませんし」
「行っても追い出される始末だしね」
何とか予定を調整して領地まで出向いたことはある。しかし行くたびに鎌や鍬を持った領民に馬車を囲まれ、ろくに話もできないままとんぼ返りさせられているのだ。
「グレッグが領民を焚き付けたんだとは思うけど……まさか我が家の領地の民に敵意を向けられるなんてね……」
「パトリシアお嬢様……」
悲しくなって目を伏せる私をアレックスは労ってくれる。
「領民に嫌われている領主……無駄遣いをやめない義母に義妹……婚約破棄を突きつけてくる婚約者……そして爵位まで取り上げられるの……?」
一つづつ言葉にしてみると何とひどい有様なんだろう。私は必死にこのレーゼン家を守るために奮闘してきた。後ろ盾と言いながら何もしてくれないダニエル様のクロムウェル伯爵家ではなく、亡くなったお母様のご実家のミズリー家に救援を求めたり……。
今、一緒に悩んでくれている執事のアレックスはミズリー家の伝手で来てくれている。昔からいた執事は私がまだ何も分かっていなかった頃に義母のサリーさんの反感を食らってクビにされてしまった。私がもっと早く、この家の経営に参加できていればそんなことはさせなかったし、ここまで酷い状況に陥らずに済んだのに。
今更悔やんでも仕方がないことなのだけれど、考えずにはいられなかった。
「……でも私……そこまでこの家が大切かしら……?」
ふと自分で呟いた言葉だったけれど、私の中に衝撃が走った。
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