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25 私も言葉を失います
しおりを挟む私は知っていた……ユリシアがレーゼン家を継げないことも、私が当主を放棄したら家が消滅することも。その事実にこの人達がまったく気がついていないことも。
私があの家から出る決意をして、叔母様の家に身を寄せるまでの間に三人のうちの誰かでも私の話をきちんと聞いてくれるなら、ちゃんと真実を教えようと思っていた。
なのにこの人達は自分が悪いと反省することもなく、私を責めるばかりだった。
「そういうことですので、私にできることはありません。お帰りになって下さい」
「そ、そんな馬鹿なこと……何とかなさいよ、パトリシア!」
「国が決めた規則ですから、私にどうこうできるものではありません」
「そこを何とかするのがあなたの仕事でしょう!」
いつも通り無茶苦茶な金切り声。でもここはその無茶が通る場所じゃない。
「お前達はここをどこだと思っているんだ? 私の屋敷で私の娘を怒鳴りつけて仕事をしろだと? 流石に見逃すわけにはいかん」
「あ……」
サリーさんは顔を青くするけれどもう遅い。私に打って変わったすがるような視線を投げかけてくるけれど、それは無理な話だ。どうして私が私自身を追い詰めるような弁護をすると思うのか訳が分からない。
「あ、あの……あの……っ」
弁解の言葉も出ないサリーさんを押し除けて、何故ついて来たかも分からないダニエル様が私の前に立った。
「パトリシア、お前のせいで私は継ぐはずだったレーゼン家を失った!」
私のせい……そうかもしれないけれど、違法なことは何もしていない。怒っているかと思ったダニエル様は何故か薄笑いを浮かべて両手を広げた。
「だが、心の広い私はお前を許そう。さあ、私達はやり直すんだ。お前はここの
ミドルー家の養女になったんだろう? お前のような傷物の出来損ないでも私の婚約者にしてやる、嬉しいだろう!」
「え……?」
流石の私も言葉が出てこなかった。
「えー? ダニエル様は、ユリシアの婚約者でしょう~お姉様とは婚約破棄したじゃないですかぁ」
場違いな高いユリシアの声が響く。
「うるさい! 黙れ、平民の娘が! お前が子爵とはいえ貴族だったから婚約者になってやっただけだ。貴族ではないお前など用無しだ、そのいやらしい体で金でも稼いでこい。私は貴族でいたいんだ」
「ひ、酷い~! お姉様みたいなブスと結婚なんて地獄だ、可愛いユリシアと結婚したいっていってたのにぃ~!」
「黙れっていっているんだ!」
聞くに堪えない醜い罵り合いが始まってしまった。さしものお義父様も苦い顔をしつつため息をついている。もう縁を切ったとはいえ、こんな人達と家族だったり婚約者だったりした自分がとても恥ずかしい。
俯いていると、屋敷の入り口から声がする。その声に私はぱっと顔を上げた。
「パトリシア嬢! 大丈夫ですか!? ミズリー伯爵、またあの馬鹿どもがきていると聞いて急いで来ました!」
「リオネル様!」
「遅いぞ、リオネル。そんなことではパトリシアを任せられんぞ?」
「申し訳ございません!」
謝りながらも急いで私の横まで駆けてきてくれるリオネル様に勇気を貰える……凄く嬉しい。
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