子爵令嬢は溺愛前に罠を仕掛ける。

鏑木 うりこ

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26 所変われば

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「さあ、パトリシア。こっちへきなさい。この私がお前の婚約者にもう一度なってやろうっていっているんだ。伯爵家の養女となったお前なら、この私となんとかつりあうだろうしな」

 私は淑女らしくなく口をぽかんと開けていたと思います。そんな私に変わってリオネル様が声を上げてくださいました。

「君は何をいっているんだ? 君のような恥知らずなんかの婚約者にパトリシア嬢がなる訳ないだろう。それに彼女の婚約者は私だ。このことはミズリー伯爵にも了承を頂いた正式な話だ。妄想は国に帰ってからするがいい」
「その通りだ。何故可愛いパトリシアを君のような訳の分からない者の婚約者にせねばならんのだ。それにミドルー家とはどこの家のことだ? 我が家はミズリー家だぞ……家門の名も覚えられない阿呆とは話もしたくないな」

 吐き捨てるようにお義父様も援護してくださった。確かにダニエル様はミドルー家っていっていた……なんて恥ずかしい間違いをする人なんだろう……。

「はあ? パトリシアみたいな傷物を貰ってやるっていってるんだぞ! 感謝するところだろう!頭を下げて伯爵家に私を迎え入れるのが当たり前だろう!」
「君は本当に何をいっているんだ? ミズリー家にはきちんと跡継ぎがいる。もし仮に君がパトリシア嬢と結婚したとしてもミズリー家を継ぐことはないということを知らないのか?」
「はあ!? じゃあなんてそんな出来損ないを養女にするんだよ、子供がいないから養女にしたんだろう!?」
「可愛いからに決まってるだろう! 愚か者めッ!!」

 お義父様の一喝が落ち、ダニエル様もユリシアもサリーさんも竦み上がった。ついでに私も驚いたが……か、可愛いから、ですか?!

「うんうん……ミズリー伯爵のいうことは正しい」

 隣でリオネル様も大きく何度も頷いていて、更に驚いて……少し恥ずかしくなった。

「か、可愛い……? パトリシアが?」
「可愛いだろうが! 君の国ではどうか知らんが我が国ではパトリシアのように節目がちで小柄な女性は非常に人気がある。君の隣にいるような派手な化粧と巻き髪のはしたない女は好かれない」
「え? 私、はしたないの?」

 ユリシアがこてん、と首をかしげるが、お義父様とリオネル様は不快そうに顔をしかめた。

「最悪だな……しかもなんだあの下品な服は。あんなに胸元を強調して、気持ちが悪い」
「え? 私、気持ち悪いの? ダニエル様はこの方が私に似合うっていってくれたのに」
「こっちにこないでくれたまえ。ああ、君達はある意味お似合いだよ、二人でどこかへ消えてくれないか?」

 リオネル様は彼らの視線からすら私を庇うようにしてくれた。彼の優しさに感謝しつつ、国が変われば好かれる容姿も変わるのか、と驚きを隠せずにいた。



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