子爵令嬢は溺愛前に罠を仕掛ける。

鏑木 うりこ

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28 理解不能が人の形を取るとこうなのかもしれない。

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「本当にお姉様は頭が悪いわよね。お姉様がこの家の養女になったんなら私だってこの家の養女だわ。だって姉妹ですもの」

 ものすごい理論に私達は絶句した。

「ね? そうでしょ、ダニエル様。だから私と結婚すればダニエル様はちゃあんと貴族。それでいいじゃない」
「そ、そうか……? いや、確かにそうだな! ハハハ、流石ユリシアだ。やっぱり私のことを分かってくれるのはユリシアしかいない、私の婚約者はやはりユリシアだな!」

 あまりに当たり前のように話すユリシアの言葉にダニエル様はうんうんと頷いた。

「パトリシア嬢……あのユリシアとかいう君の元義妹は一体何をいっているんだい?」
「分かりません……私にはどうしてそう思うのかすらわかりません」

 私とリオネル様が小声で確認し合う事しかできなかった中、お義父様が真冬の寒さ以上の冷たい表情で現実をお花畑に突き付ける。

「君は何をいっているのだ? 君が我が家に迎え入れられることなど絶対にあり得ぬ。早く出ていけ」
「え? だってあなたはお姉様のお父様なんでしょ? じゃあ私のお父様でもあるわ」
「お前みたいな軽薄で頭の軽い奴に父といわれるいわれはない」
「だ、だって……お姉様の……」
「パトリシアはもうお前の姉ではない、早く出ていけ」
「え? お姉様はお姉様だわ。そうでしょ? お姉様」

 ユリシアまで私を見る。どうしてこの人達はまだ私を頼ろうとするんだろう。

「違います……もうあなたは妹ではないわ」
「えっそんなことないわよね?」
「レーゼン家を出る時に縁は切ったはず。だからもう姉妹でもなんでもないわ……それに養女にしていただいたのは私のお母様の実の妹がこちらのミズリー家に嫁いでいらしているからよ。血縁があるの……あなたにはそれがない」
「そんなケチなこといわないでよ、お姉様」
「ケチっていわれても困るわ……それにこのミズリー家の養女になれるかどうかは私には決定権はないわ。お義父様の決定がすべてよ」

 何とかユリシアに返答はしてみたけれど、ユリシアが理解してくれたかどうかは自信がない。

「ユリシアも~養女にしてくれますよねぇ?」
「断る」
「どうしてぇ? ユリシアはお姉様より可愛いんですよ~」
「可愛くないだろう、下品なだけだ」
「そ、そんなぁ~ダニエルさまぁ~あのおじさんが私のこと下品っていう~酷い酷い~懲らしめてください~」
「え? あ、そ、そうだな? あれ??」

 ダニエル様の鈍い頭にもユリシアの言動がおかしいとやっとしみ込んできたようだった。

「ともかくお前達は不快すぎる。早々に我が家から立ち去れ! それに早く自分の家に戻った方が良いのではないか? パトリシアの話だと、色々なものが抵当に入っているらしいじゃないか。帰った後、家もなくなっていたではお前達は困るんじゃないのか?」
「え……ど、どういうことなの」
「パトリシアはレーゼン家を畳むときに、お前達が作った借金できちんとした証書があるものは清算してきたといっている。だが、だらしないお前達のことだ、パトリシアに見せなかった借金があるんじゃないのか? それについてパトリシアはあずかり知らん……お前らの作った借金だってパトリシアが何とかする謂れはないんだぞ」
「……せめて最後だけはきれいにしたかったんです……私だってレーゼンの姓を名乗っていましたから」

 私だってレーゼン家になんの思い入れもなかった訳じゃない……あの人達と一緒にやっていく力も気力も根こそぎなくなった。だから最後くらいはと私財を使って清算したんだった。



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