【完結】悪い我、ちぃとを貰う!次は勇者で世界を救うぞ、みんなついて来い!

鏑木 うりこ

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我、知る

30 助けに来るのじゃぞ?

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「憎い、アレが憎い!」

 呪詛の声が響く。

「全部全部!アレのせいだ。アレさえ居なければ!アレが居たから、ワシはワシは!」

 真っ黒な闇に、転がる贄の首。失われたはずの魔法陣。封じられたはずの記憶。

「憎い!憎い!憎い!憎い!」

 浄化されたはずの魂。別人として歩んで来た人生。

 それを全て憎しみが塗り替えた。

「アレを……アレを贄に捧げれば……!」

 その笑みはどす黒い。



「つもる話に夢中になり過ぎて、クロード様のお部屋で寝ちゃったんですって?リジーったら」

「うむ?まぁそんな所じゃ、母よ」


「クロード様……リズレット様は長旅で帰ってきたばかりなのですよ?!自重してくださいっ!」 

「す、すまない、とは思っているのだけれど……つい」

「ついじゃありません!本来なら式までそういう事はお控え頂きませんと!」

「それは無理!」

「クロード様っ!」

 はて?ミラとクロードは何を話しておるのじゃろうな?

 我らはゆっくり朝食を取り、会話をした。

「それでね、リジーが帰って来たからあの話は進めるのね?」

「ええ、お母様。よろしくお願いします」

「これで名実ともにクロードの母になるのねぇ」

 母は何を言っておるのじゃ?

「ミラ、いつから母はクロードの母になったのじゃ?」

「まだなってませんよ。これからです」

「そうなのか」

 良く分からぬからまあ良いか。母もクロードも笑っておるからきっと何か良い事なのだろう。

「でね?リジーはやっぱりドレスだと思っていたのだけれども、しばらく会わないうちに随分立派になったでしょう?母はどちらでも良いかな?と思う訳なのよ」

「いえいえ!やはりドレスでお願いしますよ!こんなに美しいんだ。良く似合います」

「クロードは何を言っておるのじゃ?我は男子故にドレスは着ぬぞ?」

 ばっ!と凄い表情でクロードは振り返り

「頼む!頼むから!ドレスを着てくれ!一回だけでもいいから!な!リジー!頼むよ!」

「え?あ、うん?」

「良し!そうしよう!気の変わらないうちに職人を呼ぼう!すぐ呼ぼう!!」

 クロードは何でそんなに必死なのじゃ??しかも、了承はしておらんぞ?おーい?クロードー?聞いておるか~?



 クロードの言った通りその日の午後にはドレス職人がやってきて、我を磔にしおった。

「首に……酷い跡が……首が隠れるタイプにしましょう」

「男性にしては細い腰ですね。素晴らしいです」

「手足も長くて素敵。映えそう」

「お顔が小さくて…可愛い!お化粧ののりも良さそう!すべすべだわ」

「すね毛ないのね!お手入れも楽ね」

「流石に靴は大きめですね。ヒールは無しにしましょうか」

「あの、母?クロード?一体これは?」

「いいじゃない、一生に一度の事ですもの。クロードのお願いくらい聞いてあげましょう?それにリジーならきっとすごく可愛いわ!」

 可愛いか!?そうか我は可愛いか!

「む?そうか?可愛いならば仕方がないな?」

 ミラがこめかみを押さえて頭を振っておる。どうしたのじゃ?頭痛がするのか??

「流石にお胸は足りませんね。ふんわりさせてみましょう。少し生地をあててみます」

 なんと手触りの良い白い布じゃ!これは高そうじゃのう!……と、言うか?

「……なんじゃ?流石に我でも分かるぞ。これは花嫁衣装ではないか?」

「そうだよ!リジー!すごく可愛い!似合ってるよ!」

 クロードがワクワクしたいい笑顔で答える。そうか?やはり似合うか!流石我!

「ではなくて!何故、我が花嫁衣装をしつらえるような流れなのじゃ?!」

「え、だってリジーはクロードと結婚するのよ?」

「お母様、書類上はもう結婚済みでございます」

「は?」

 なんじゃと?クロード??

「ベルスタッド家の家督を譲り受ける際のどさくさに紛れてちょちょっと」

「あら?結婚しなくては、家督を奪えませんので、とか言っていたではありませんか?」

「あ、はい。そういう建て前でした。忘れていました」

 クロード?!お主何をやっておるのじゃ!

「いや待て!クロード、我に一言くらい断っても……」

「良いじゃないですか。私はリジーの事が大好きなんですから!」

「む!そうか!ならば良いか!あいわかった!」

 ミラがまた頭が痛そうに目頭を揉んでおる。大丈夫であるか??


 お針子達の大活躍があり、試着のドレスはすぐに縫い上がってきた。

「流石にぴったりじゃのう!」

「リズレット……わたしの可愛い子!凄く素敵よ」

「本当に大丈夫なんですか?リズレット様!」

 ミラはまた頭痛がするようだが、大丈夫であるかのう!たちの悪い風邪でもひいたのであろうか。

「リジー!可愛い!最高に可愛いよ!私の奥さん!」

 クロードは仕事を休んで、ドレスの試着を見ておる。我がいうのもなんだが、お前阿呆じゃろ!仕事しろ。

「全く、クロードめ。サボりはいかんのじゃぞ?」



 ぞわり

空気を震わせるほどの悪寒が走った。

「っ!なんじゃっ?!」

「!リジー!」

 クロードが我に手を伸ばすより先に、あったはずの床が真っ黒になる。

とぷん われの体は沈んだ。

「これは……!」

 知っておる。今ではない。リジーになる前に我の傍に常にあったもの。

闇だ。

 しかもこれは相当深い闇だ。

「触れてはならんっ!!」

 我は叫ぶ。只人が触れれば正気が飛ぶ!

 我の体は沈む。これは深い、深い……

憎い憎い憎い憎い憎い憎いーーー!

「……父か….!」

「あいつか!」

 クロードも気づいたようだった。

「クロード!母とミラを頼む!」

 我は沈む……これは今の我では振り解けぬ。

「……助けにくるのじゃぞ?旦那様よ」

 我は闇に飲まれた。クロードが何か叫んでおったが、我にはもう何も聞こえなかった。

 深い深い真っ黒な怨嗟の闇に堕ちて行った。

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