【完結】今度こそもふり倒す人生になれなかった平民の男の話〜俺の幸せどこ行った?

鏑木 うりこ

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44 失敗した屋敷選び(アデレード視点

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「失礼致します、シュバル伯爵。私は西神殿の神官、アルヒと申します。急な訪問誠に失礼致しますが少し気に掛かることがございまして」

「神殿からわざわざとは、何かございましたか?」

 私は舌打ちをしたくなったが、にこやかな人好きのする笑顔を壊さず被った。
 シュバル伯爵。私の偽名だ。元の国を出た時にウィタスは息子に継がせて来た。そしてこの国で名乗った名前がアデレード・シュバル。
 金はあるけれど、この国で何の地位も無かった私が違法ギリギリ、犯罪ギリギリで爵位をもぎ取り、この捨てられた屋敷を買い取ったのだ。
 売主も渋った家だった。しかし立地も良く、人も寄り付かない。そして馬鹿がつくほど安かった。何か不味ければその時に引っ越せば良いかと思ってここにしたが……。

「最近この辺りに変異が起こるとの神託がくだりました」

「神託ですか」

 くだらない!何とくだらない!神が何を言って来たと言うのだ。しかし、私が疑われた訳ではなかったようだ。

「ええ、この辺りとの事ですので、この屋敷の事でなければ良いとは思っておりますが、ご注意いただければと思いまして」

「なるほど……」

 神官はとても真面目そうな男であった。しかし裏も感じない、仕事で訪れた、それしかない。ならば問題なかろう。

「数日後に司教様が訪れることもありましょう。変異が収まるまでご注意頂きたく」

「分かりました。我が家では今の所何もおかしい所はございませぬ。何事もなく終わる事を願っております」

 しかし、神官は私の顔をじっと見る。今は何の嘘偽りも述べていないはずだが?

「本当ですか?シュバル伯爵。本当は体調が悪いのではありませぬか?何かに憑かれている感覚はお有りではない?生来の自分ではなく、すぐカッとなったり、やけに攻撃的になったりなどは?」

「はて?心当たりは……」

 いや待て、私は最近愛しいはずのジュードに何をした?愛の時間に可愛いあの子の首を絞めたのではないか?少し、あの子が反抗的だからと言ってまさか、あの様な行動に出るのはおかしくないか?

「おありですか?」

「いえ、全くありません」

「そうですか」

 神官は信じた。私が表情を偽れば大抵の者は見抜けはしない。しかし、もし何者かのせいでジュードに怪我をさせてしまっては困る。私一人で対処するしかないな。

 その時だった。

 恐ろしい寒気が屋敷に走った。

 そんな気配がして、全ての毛が逆立ち、恐怖した。

「ひっ!」

 神官は小さく悲鳴を上げたが、気配は一瞬で消えた。な、なんだったのだ!今の恐怖は!こんな事一度も無かったぞ!?

「は、伯爵……私ではどうしようもならぬ程の悪霊がおるようです……数日中に神殿の者が参ります!それまで避難なさる方が賢明かと存じますが、伯爵ご本人も相当悪霊の影響を受けておいでのようだ」

「いや、しかし……この家を空けるわけには……」

「それが!悪霊の影響でございます!」

 違う、この家には私の愛しいジュードがいるのだ。ジュードから私は離れたくないんだ!この神官、邪魔だな……?殺すか?

「良いですか?シュバル伯爵!数日持たせて下さい!私は神殿に戻り些細を報告して参ります!」

 神官はさっと立ち上がり、足早に出て行った。とりあえずいなくなったは良いがまた神殿の奴らが来るのか。

「どうしたものか」

 しかし、ジュードを移せる別邸などない。この屋敷を手に入れるのも一苦労したのに。大人しくして貰うしかないな。私は重いため息をついた。

 神官はメイドが見送っている。カランとベルを鳴らして執事を呼ぶ。

「お呼びですか?旦那様」

「ジュードはどうしておる?」

「坊っちゃまはずっと部屋におられるようです。外には出ておられません」

「そうか」


 執事は深々とお辞儀をする。使用人達がジュードの部屋からドタバタと騒がしい音が聞こえて来たり、ジュード以外いないはずなのに、誰かと会話しているかのような声が聞こえた事など、聞かなかった事にしている事に私は気づいていなかった。

 こんな気持ちの悪い屋敷に閉じ込められ、夜は父親の相手など……気が狂ってもおかしくない……。
 それは屋敷の使用人達の意見だったようだ。

 邪魔者も帰ったし、愛しいジュードの顔を見に行こう。そしてこの手に抱き、愛し合う時間を堪能するのだ。可愛い、可愛い私のジュード!



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