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社畜と入れ替わった闇暗殺者の私と同期の話
6 仕事の向き不向き
しおりを挟むでも私にそんな勇気はない。ただ、ナルミが向こうの世界で楽しく暮らして……あわよくば向こうにずっといたいと願ってくれることを無責任に期待する事しかできない。
「……」
徹がコンビニに買い物に行ってくれている間に部屋をまた少し掃除して、溜まっていた洗濯物を洗濯機で洗い……元の世界にも似たようなものがあったから教えて貰えばすぐに使えるようになった。基本的な生活は送れそうな気がして少しだけ安堵する。
そしてこの世界で生きるには合法的にお金を稼ぐ必要があるのだと知った。元の世界で私は一生使っても無くならないくらいのお金を持っていた。それは難しい仕事の報酬だったり、闇ギルドのいざこざを解決したり……色々だったが、こちらの世界でナルミは生きていくのはなんとかなるが、裕福ではないと知った。
「会社……難しいなぁ」
生活はなんとかなる。ガスコンロも使えるし、炊飯器も使えた。でも会社の仕事はちんぷんかんぷんだった。パソコンとスマホの使い方もなんとかなるが、それを使ってデータを整理したり、取引先と電話をしたり……無理そうだ。ナルミの今までの仕事を引き継ぐことは私には不可能だろう……。
「新しい仕事を、見つけないと」
今は会社がお金をくれている。この辺は徹が上手くやってくれたということだ。そして徹も生活のサポートをしてくれている。買い物に行けば徹がお金を払い、私に財布を出させない。
「谷口より俺の方が高給取りだったからね、大丈夫」
なんて言ってるけれど、それに甘え続けるわけにもいかない。だって徹が甘やかしたいのはナルミであって、私ではない。私がナルミの姿形をしているから親身になってくれているだけだもの。何も分からない私のためにこの部屋に泊って色々なことを教えてくれているけれど、徹にしてみればナルミと少しでも一緒にいたくてそうしているだけなんだ。
「谷口は料理も上手いのか、知らなかった」
「……えっと、スマホで調べただけですけど……」
狭いながらも一通り物が揃ったキッチンでこちらの料理を作ってみたらそんなことを言っていた。徹は私のことを「谷口」と呼ぶ……そのたびに早くナルミを返せ、お前は元の世界へ帰れと言われている気持ちにさせられる……苦しい……。
「ありがとう、間島さん。後はなんとか一人でやってみます」
「谷口?」
「たくさんお世話になりました。間島さんも仕事とか自分のことを色々大変でしょう?こんなずっと泊まり込みなんて良くないです」
「いや、あの……俺は」
「もう、大丈夫です」
コンビニから戻って来て、一息ついた徹にそう告げる。もう徹の顔を見るのも辛いんだ。
「谷口、本当に大丈夫か?俺は全然迷惑なんかじゃなくて……」
「大丈夫です、今までありがとうございました」
きちんとお礼をいって頭を下げる。そして半ば強引に徹を追い出してカギを閉めた。ガチャンと無機質な音がやけに大きく響いて、後悔が少しとそして安堵が広がる。
「私は……ナルミじゃない、リンなのに……」
ずるずるとその場にしゃがみ込み、言葉が漏れる。誰か、私がこの世界にいても良いと言ってくれる人はいないだろうか……。
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