【本編完結済】ポツン食らった悪役令息が大っきい人と幸せになる過程

鏑木 うりこ

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03 たった一度の過ちすら

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「サウラス公爵。あのような衆人環視の中での屈辱、流石に我慢の限度を超えましたぞ!」
「……し、しかし……その、息子は聖女様に運命を感じており……」
「ならば何故先に婚約を解消なり破棄なりせぬ! 先に我が息子アウラリスとの関係を終わらせてからであろう!」
「う……」
「我が家がどれほど恥をかかされたか!」
「う、うう……」

 爵位は我が家の方が低いが、次の日の午前中にサウラス公爵を呼びつけて父上は怒鳴りつけた。父上の言うことがもっともだろう。確かに運命の番ともなれば、長年の婚約者との関係を切っても迎え入れることはある。しかし、父上の言う通りすぎるのだ。リズティーアは私と婚約中にもかかわらず、聖女様の元に走って行ったんだから。その様子はサウラス公爵夫妻も見ていて、昨晩、夫人は失神して母上と仲良く運ばれて行っていた。

「当然ながら、アウラリスとリズティーア君の婚約は解消であり、リズティーア君から受けた屈辱は耳を揃えてきっちり清算していただきますぞ!」
「そ、その件に関しまして……リズティーアにはきつく言っておるので、婚約は継続……」
「あり得ませんっ!」

 父上は執務机が壊れそうな勢いで殴りつける。その音にサウラス公爵は首をすくめ、一緒に話を聞いていた私も心臓が跳ねた。

「謝ったところで、我が家の受けた屈辱もアウラリスの傷心もなかったことにならないのですぞ! あれだけ集まった貴族達全員にあれは嘘だった、なかったことにしてくれと懇願にでも行脚するつもりですか?!」
「そ、それは……」

 当然、そんなことできるわけがないし、そんなことされてもコケにされた我が家の名誉も私のプライドも元通りになるわけがない。
 父上は打ちつけた拳をブルブル震わせながら続ける。

「他の家はどうか分かりませぬが、私は私の息子がとても愛おしいと思っております。そんな息子があのように軽く扱われては我慢できようはずもない……それに、昨晩まで信じていたのですよ、リズティーア君がアウラリスと共に我が家を支え立派に盛り立てていってくれると。それすら裏切られた……その長年の信頼に対する裏切りを、たかが金で済ませてやろうというのに……」
「う……」

 リズティーアとの婚約期間は長い。五歳で婚約し、今私は18歳。13年間、陰に日向にリズティーアを支援もしてきた。それもこれから我が家に入り色々な仕事をこなしてくれると思っていたからだ。今、通っている学園の費用の半分以上も我が家で支払っているし、何かと入用だろうとお金も毎月渡している。
 八方塞がりになったサウラス公爵は、今度は必死に私に語りかけてきた。

「アウラリス君、君は……リズティーアのことを愛していただろう?! いいのかね? たった一度の過ちで愛する者を捨ててしまうなど」
「愛していればそのたった一度の過ちも起こさないでしょう? 失った愛と信頼はどうあがいても取り返せないんですよ、私の心もです。それに浮気する人って何度でも繰り返すそうですよ、私はそんな人を伴侶にするのはごめんです」

 冷たく履き捨てて、私からの温情なんて一欠片も存在しないことをしっかりお伝えした。
 誠実じゃない奴と結婚するなんて真っ平ごめんだった。それにリズティーアのことを愛していたアウラリスはもういない。聖女を憎むことで何とか心と魂を繋ぎ止めていたゲーム内のアウラリスだったけれど、私が入り込んだアウラリスは大切な聖女様を憎むこともできずに、ただ壊れてしまった。リズティーアを愛していたという記憶の残骸がキラキラとあちこちで悲しくきらめていているだけなんだから。


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