【本編完結済】ポツン食らった悪役令息が大っきい人と幸せになる過程

鏑木 うりこ

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10 ザクザクと痛みが

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「待てっ! アウラリスっ」
「……っ」
「アウラリス様っ」
「アウラリスさまぁーっ! いったぁ……っ」
「レンスン!」

 それは起こるべくして起こったことで、それでいてゲームとはまったく違う状況で発生した。
 私が色々な下準備を終わらせてから聖女様である鮫島君が学園にやってきた。クラスは攻略対象者達の一つ下、私と同じ学年だ。配慮があったのか、同じクラスにならずに済んでありがたい。ゲーム内では同じクラスでアウラリスは始終鮫島君を睨んで過ごしていたんだけれどね。
 そしてこのアウラリスと鮫島君の最初の出会いイベントは本当ならアウラリスが鮫島君に難癖をつけて校舎裏に呼び出すんだけれど、環境を整えた今は私が鮫島君を呼び出す意味もない……向こうから呼び止められた。場所はたくさんの生徒が行き来する廊下でだ。なるべく鮫島君を避けてたのに、彼は凄い勢いで廊下を走って私の肩を掴もうとしたんだ。
 そんな突撃とも思える行動に、さらに信頼が厚くなった取り巻きのヨキシャとレンスンは体を張って私と鮫島君の間に壁を作ってくれたんだ。そして鮫島君の手はレンスンの顔にヒットし、泣き虫レンスンは今日も泣き出した……ごめん、私のために……。

「大丈夫か? レンスン」
「痛いれすぅ~ぐすんぐすん」

 そんなに強く当たった訳じゃないけれど、すぐ泣いちゃうレンスンだからしょうがない……救護室へ連れて行ってあげないといけないだろうな。でも鮫島君の相手が先だ。

「……聖女様、何かご用でしょうか」

 声は固く、責めるような視線を向ける。これは私に非はない、ここにいるたくさんの生徒に聞いても誰もが私を悪とは見做さない。そんな私に少し食い下がったけれど、鮫島君は言いたいことを言い始める。

「アウラリス! リズティーアとダレンのことを許してやれよ! 二人とも悪気があった訳じゃねえんだ」
「……」

 意味が分からないけれど、聖女様の言葉だ。とりあえず遮らずにいた。チクリと痛みを感じる。

「二人ともアウラリスの家から追い出されてすげえ困ってるんだ。前みたいにしてやってくれよ!」
「……」
「なあ! なんとか言えよ。お前、俺をずっと避けてるだろ! だから……今日こそはいわなくちゃと思って!」
「……」

 なにをいってるんだ? 鮫島君は。喉の奥、右手の甲、左足、不快な尖った物で突き刺されたように痛い。

「キミヒト! そんなに走っては危ない……っ?! アウラリス・ディーズ! キミヒトに何をしたっ?!」
「……」

 鮫島君の後ろから少し遅れてやってきた騎士団長の息子に敵意のこもった鋭い視線をぶつけられた。騎士団長の息子はウィルモッド・イェルソンといって攻略対象者だ……ってか状況見ろよ、と冷静に突っ込みたい。ザク、ザク、ズキ、ズキ。今度はどこだ? 左手、右足? 腹の辺りにも痛みは広がっている。

「……イェルソン伯爵令息。私は聖女様に何もしておりません。それは周りの生徒達に聞けば分かることでしょう。加えていえば、私の友達であるレンスンが聖女様に殴られ、頬が腫れたといえるかと思いますね」

 私が冷静にそう返すと、ウィルモッドは少し言葉を飲み込んで辺りを見回す。生徒達はウィルモッドの問うような視線に頷いて答え、ある者は

「アウラリス・ディーズ侯爵令息の言葉は正しい」

 と、証言してくれた。良い生徒として過ごしてきたせいか、偏った見方をする人はいなくなっている。これにはウィルモッドも黙るしかないし、鮫島君も申し訳なさそうに視線を床に落とした。

 それでも何かに突き刺される痛みは全身を駆け巡るようだ。痛い、痛いよ。悪気なんてないんだろう鮫島君の言葉が内側と外側、両方から鋭いナイフを突き立てられるように私を苛む。
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