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64 これもまた運命
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「……もう、庇い立てする事もありません……衛兵に突き出して下さい」
「ち、父上っ?!」
次の日早くにシシル子爵を呼び出して事の顛末を伝える。床に縛り上げられ、あちこち傷だらけのダレンが引き出されたが、シシル子爵はダレンを真っ直ぐに見る事はなかった。
「大恩ある家に盗人に入る輩は我が家の人間ではございません。どうぞ衛兵に突き出して罪を償わせて下さい」
「酌量も求めぬと? あの時、我が家にはフィーラ国王弟、王妹様がおいでであった。その家に押し入ろうとした罪状も追加され罪が増しておるが」
「構いません。ソレは我が家から追放いたします、もうシシル子爵家とは関係のない男」
「う、嘘でしょう?! 父上! わ、私はキミヒトのために!」
必死で見上げたダレンをシシル子爵は今にも殴りかかりそうな顔で睨みつけた。
「まだ言うか! 聖女様のためなどと言って何も聖女様のためになる事をしておらんではないか! 聖女様がお前に盗みを働けと命じたか? あり得ない」
「そ、それはキミヒトには破魔の杖が必要だから……」
「だからと言って盗んでいいはずがない! 愚か者が!」
父上の執務室で私とアロウ様も一緒に話を聞いている。ダレンは始終青い顔のまま、下を向いたりシシル子爵に助けを求めたりしているが、私やアロウ様、そして父上に謝罪することはなかった。
「くそ……なんでフィーラの貴賓がこの家にいるんだ……」
そんな呟きまでしている。昨日の夜会の顛末を知っていれば、キリアスラル殿下とモンティラスティ王女殿下がディーズ家に宿泊する事は分かったはずなんだが。
多分、リズティーアの旗色が悪くなった所で、自分にも使い込みの咎が及ぶのを恐れて早めに逃げ出していたんだろう。
「しくじったリズティーアを切ったのになんで……」
そう、リズティーアにさっさと見切りをつけて捨てて逃げたんだ……もしダレンが最後まであの場にいれば、キリアスラル殿下達の動向は知れただろう。そして、盗みに入るとしても昨日の夜中を選びはしなかったはずだ。負債を早めに切り捨てたつもりで大切な事を掴めなかった……これも運命なのかもしれない。
「ならば城に突き出す。極刑は免れんだろうが自身が招いた事、その責任を取るがよい」
「そ、そんな義父上っ! 私は長年このディーズ家に仕えてきたじゃないですか! それなのにこのくらいの事で極刑なんて酷すぎます! 私をもう一度迎え入れて下さればもっともっと活躍してご覧にいれます! 義父上っ」
跪いたまま、必死に父上に言い募るダレンだが、もちろん父上の許しが出る訳がない。
「ダレン・シシル……いやもうただのダレンか。この家にお前はもう必要ないのだ。お前がこの家に養子に来た理由は何だったか覚えているだろう? そう、いずれ爵位を継ぐアウラリスの補佐だ。そして何故補佐が必要か考えなかったのか?」
「それはアウラリスが何も学びもせず領地経営など一つもできなかったからです」
ピクリと怒りて父上の眉が跳ね上がったが、そちらについては今は触れなかった。
「そのこともほんの少しだけあったが……アウラリスが気に入っていたリズティーアが無能過ぎたからだ。アウラリスがほんの少しだけ領地経営を苦手としていても伴侶たる者がそれを補えばそれで済む話だったが……リズティーアは驚くほど無能、顔だけの男。それでお前を養子とした」
「え……」
「そのリズティーアと肩を組み遊び歩くなど、自らも無能であると公言しているようなもの。そのような輩を我が家に置いておく理由などない。それにアウラリスも領地経営に詳しくなったし、何より婚約者であるアルバルスト様の手腕に至っては芸術の域だ。すぐに家督を譲っても問題ないほどにな!」
「ははは、ディーズ侯爵。新婚のうちは少し二人で遊び歩かせて下さいよ」
「もちろんだとも! アルバルスト様。しかしあなたの政策のお陰で雑仕事は減り、収入は上がり……いつでも旅行にいけますよ」
「なぁに前任がずさんだったようなので、少し手を加えれば元々ディーズ領は豊かな土地ですから」
「おお、ありがたいお言葉」
父上とアロウ様の視線はダレンに投げられる。アロウ様の仕事の前任者のダレンは何を言われているか理解して、下唇を噛むしかなかったようだ。
「ち、父上っ?!」
次の日早くにシシル子爵を呼び出して事の顛末を伝える。床に縛り上げられ、あちこち傷だらけのダレンが引き出されたが、シシル子爵はダレンを真っ直ぐに見る事はなかった。
「大恩ある家に盗人に入る輩は我が家の人間ではございません。どうぞ衛兵に突き出して罪を償わせて下さい」
「酌量も求めぬと? あの時、我が家にはフィーラ国王弟、王妹様がおいでであった。その家に押し入ろうとした罪状も追加され罪が増しておるが」
「構いません。ソレは我が家から追放いたします、もうシシル子爵家とは関係のない男」
「う、嘘でしょう?! 父上! わ、私はキミヒトのために!」
必死で見上げたダレンをシシル子爵は今にも殴りかかりそうな顔で睨みつけた。
「まだ言うか! 聖女様のためなどと言って何も聖女様のためになる事をしておらんではないか! 聖女様がお前に盗みを働けと命じたか? あり得ない」
「そ、それはキミヒトには破魔の杖が必要だから……」
「だからと言って盗んでいいはずがない! 愚か者が!」
父上の執務室で私とアロウ様も一緒に話を聞いている。ダレンは始終青い顔のまま、下を向いたりシシル子爵に助けを求めたりしているが、私やアロウ様、そして父上に謝罪することはなかった。
「くそ……なんでフィーラの貴賓がこの家にいるんだ……」
そんな呟きまでしている。昨日の夜会の顛末を知っていれば、キリアスラル殿下とモンティラスティ王女殿下がディーズ家に宿泊する事は分かったはずなんだが。
多分、リズティーアの旗色が悪くなった所で、自分にも使い込みの咎が及ぶのを恐れて早めに逃げ出していたんだろう。
「しくじったリズティーアを切ったのになんで……」
そう、リズティーアにさっさと見切りをつけて捨てて逃げたんだ……もしダレンが最後まであの場にいれば、キリアスラル殿下達の動向は知れただろう。そして、盗みに入るとしても昨日の夜中を選びはしなかったはずだ。負債を早めに切り捨てたつもりで大切な事を掴めなかった……これも運命なのかもしれない。
「ならば城に突き出す。極刑は免れんだろうが自身が招いた事、その責任を取るがよい」
「そ、そんな義父上っ! 私は長年このディーズ家に仕えてきたじゃないですか! それなのにこのくらいの事で極刑なんて酷すぎます! 私をもう一度迎え入れて下さればもっともっと活躍してご覧にいれます! 義父上っ」
跪いたまま、必死に父上に言い募るダレンだが、もちろん父上の許しが出る訳がない。
「ダレン・シシル……いやもうただのダレンか。この家にお前はもう必要ないのだ。お前がこの家に養子に来た理由は何だったか覚えているだろう? そう、いずれ爵位を継ぐアウラリスの補佐だ。そして何故補佐が必要か考えなかったのか?」
「それはアウラリスが何も学びもせず領地経営など一つもできなかったからです」
ピクリと怒りて父上の眉が跳ね上がったが、そちらについては今は触れなかった。
「そのこともほんの少しだけあったが……アウラリスが気に入っていたリズティーアが無能過ぎたからだ。アウラリスがほんの少しだけ領地経営を苦手としていても伴侶たる者がそれを補えばそれで済む話だったが……リズティーアは驚くほど無能、顔だけの男。それでお前を養子とした」
「え……」
「そのリズティーアと肩を組み遊び歩くなど、自らも無能であると公言しているようなもの。そのような輩を我が家に置いておく理由などない。それにアウラリスも領地経営に詳しくなったし、何より婚約者であるアルバルスト様の手腕に至っては芸術の域だ。すぐに家督を譲っても問題ないほどにな!」
「ははは、ディーズ侯爵。新婚のうちは少し二人で遊び歩かせて下さいよ」
「もちろんだとも! アルバルスト様。しかしあなたの政策のお陰で雑仕事は減り、収入は上がり……いつでも旅行にいけますよ」
「なぁに前任がずさんだったようなので、少し手を加えれば元々ディーズ領は豊かな土地ですから」
「おお、ありがたいお言葉」
父上とアロウ様の視線はダレンに投げられる。アロウ様の仕事の前任者のダレンは何を言われているか理解して、下唇を噛むしかなかったようだ。
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