【本編完結済】ポツン食らった悪役令息が大っきい人と幸せになる過程

鏑木 うりこ

文字の大きさ
63 / 134

63 間抜けな

しおりを挟む
「何事だ! うわっ」
「何の物音かっ! ひっ」
「こいつ、庭の木からアロウの旦那の部屋に忍び込もうとしてたぞ」
「盗人か! ひえっ」

 バタバタバタと物々しい足音が廊下に響き、私も目が覚めた。やっぱりあのまま寝てしまったようで、寝巻きには着替えておらず、首や袖を緩めた薄着でベッドに横たわっていたようだ。
 二、三度目を擦ると、部屋の扉が慌てたノックの後、返事を待たずに乱暴に開いてレンスンが飛び込んで来た。

「たた大変です! アウラリスさまぁっアロウ様のお部屋に泥棒が入りかけましたぁ」
「ええっ?!」

 流石に目がぱっちり開いた。レンスンと一緒に自分の部屋から飛び出て、隣のアロウ様の部屋に向かう。部屋の前と中にはもうたくさんの使用人や、キリアスラル殿下も駆けつけていた。

「アロウ様!」
「アウリー? ああ、この騒ぎでは目が覚めてしまうね、大丈夫だったかい……って、おっと」
「アロウ様っ! アロウ様の部屋に賊が侵入したと! お怪我は、お怪我はございませんかっ!?」

 人垣を掻き分けてアロウ様の元に飛び込んだ。勢い余ってつい、腰あたりにしがみついてしまったけれど、今はそんなのどうでもいい! 賊に襲われたなんて、どうしよう! お怪我はされていないか心配で心配で胸が張り裂けそうだ。

「落ち着いて、アウリー。私は無事だよ、怪我もない。それに、盗人は部屋に侵入していないんだ。みてごらん、下だよ」
「え……」

 アロウ様とキリアスラル殿下は窓の側に立っていた。そうしてアロウ様の示した先は外……窓の下だった。恐る恐る窓の外を覗き込むと下にも何人も人が集まっていて、真ん中に大柄な人物がいる。

「アウラリス、起きたのかい?」
「モ、モンティラスティ王女殿下……」
「おう!」

 笑顔の王女殿下の足元を見ると誰か人間を1人踏んづけている。もしかしてあれがアロウ様を襲った賊?!

「それにしてもこいつ顔が怖いな! 私でも驚いたぞ!」
「顔……? ダズ……?」
「うぃーす」

 もう一度確認すると王女殿下の隣にはダズが面倒くさそうな顔をして立っていた。

「なんつーか、仕事始めの初日から泥棒とはねぇ。しかしまあ、間抜けな奴で良かったよ。あっさりだったぜ」
「え……」

 モンティラスティ王女殿下に踏まれて動けない泥棒は必死に顔を隠そうとしているようだったけれど、既に殆どの人間がその正体に気づいていた。見知ったその顔に驚く者、落胆する者、嫌悪する者と様々……。窓の下に父上が早足で近づいて怒りを露わにする。

「落ちたものだ。このようなものを義理とはいえ息子と呼んでいた自分が恥ずかしいぞ……ダレンよ」
「ぐっ……義父上……」
「もう貴様の義父でも何でもないわ! この犯罪者を縛り上げろ!」
「はっ!」
「は、離せ! ジョン! お前には良くしてやったろうっ」

 暗闇に響く声はやっぱり聞き覚えのあるもので、前は屋敷の全員が信頼していたダレンの声に間違いなかった。

「確かにあなたがこのディーズ家の人間であった時はそれなりに気をかけていただいておりましたね。でも、盗人と成り果てたあなたのいうことを聞く訳がない。さっさと立ってください。はあ、なんと情け無い」
「ちくしょう! 私はただ、この家の破魔の杖をキミヒトに届ける為に!」

 その言葉に父上は激昂する。破魔の杖は我が家の代々受け継がれる家宝。父上も爵位を継ぐ時にお祖父様から受け取った時くらいしか手にしたことがない大事な杖なのに……。確かにゲームでダレンが聖女に渡したけどね……。

「よりにもよって家宝を狙うとは不届き千番っ! 極刑は免れぬとしれっ」
「くそっ! なんで窓が開かないんだ! あの窓の鍵が壊れていることは私しか知らないはずなのにっ」

 ダレンの捨て台詞を聞いて、やっと私はハッとした。これはゲームにあった出来事だ。
 修行に行き詰まった聖女は、せめてもとより良い装備を求めるようになる。そこでゲームのダレンはディーズ家の家宝が杖であることを思い出す。良くない事とは思いつつも夜中に家宝が眠る金庫に侵入。そして窓から抜け出し、聖女の元へ届けるのだ。途中、ディーズ家の使用人に見つかるも、アウラリスが辛く当たる使用人達の保護や取りなしを良くしていた為に見逃される……。
 アウラリスやディーズ侯爵も家宝が持ち出されたことなんてまったく気づかず、後から聖女が使っているのを見つけ、苦虫を噛み潰したような顔で憎しみを募らせた……というストーリーだった。

 ゲームと違って既にディーズ家を追い出されたダレンは侵入するのに元自室で、今はアロウ様のお部屋になっている部屋の鍵が壊れた窓を選んだんだろう。でもそれを知っている私は鍵を直して貰ったし、窓もアロウ様が何度か壊したから丈夫な物に代えられている。

「あの木から窓辺に飛び移り、窓が開かずあたふたしている所をダズに見つかったんだよ。そして声をかけたダズに驚いて地面に落ちた。私は傷ひとつないよ、アウリー」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、あの程度の男に怪我なんてさせられる訳ないけれどね」

 安心して? と優しく抱きしめられてやっと落ち着いた。良かった、本当に大丈夫そうだ。

「軟弱だなぁ~あの程度で動けんとは!」
「王女殿下にもお手数をおかけ致しました」
「なんのなんの。賊かと思ったらひ弱なハエであったわ!」

 窓の下からモンティラスティ王女殿下の笑い声。どうして王女殿下がダレンを踏み付けているんだろう?

「物音に気づいて姉上が走り込んできてね。ここからぽーんと飛び降りて、踏み付けたんだ。それからあの男は地面に半埋まりのままだね」
「えっ! ここから?!」
「我々にとっては物の数じゃないよ、この程度は」

 いえ、結構高いですよ?! でもまったく怪我もされていないらしく、笑いながらダズの肩をバンバン叩いている。

「お前! 顔怖いな! この私に怖いと言わせるとは中々の奴だ、気に入ったぞ!」
「いてぇ! 力強え! あんた……いや、あなた様はアロウの旦那の親戚かなんかだろ! いてぇよ!」
「わはは! 良くぞ気づいた、姉であるぞ! わはははは!」
「うおっ! やっぱりな! いてぇ、いてぇってば!」
「わははは! どこまでも顔が怖いな、お前! 名前は何だ?」
「ひーっ! 俺はあんたが怖いっ」
「あのハエ男はお前の顔をみて窓から落ちたんだろう! わははは!」
「うるさいっ! どうせ俺は顔がこえぇよ!」
「名前をいえ! わはははは!」
「た、助けてくれぇ! アロウの旦那ぁー!」

 ダズとモンティラスティ王女殿下のお陰でモヤモヤした気持ちが晴れて、朝までゆっくりもう一眠りすることができた。

 
しおりを挟む
感想 188

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

分厚いメガネ令息の非日常

餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」 「シノ様……素敵!」 おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!! その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。 「ジュリーが一番素敵だよ」 「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」 「……うん。ジュリーの方が…素敵」 ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい 「先輩、私もおかしいと思います」 「だよな!」 これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです

天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。 その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。 元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。 代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

処理中です...