【本編完結済】ポツン食らった悪役令息が大っきい人と幸せになる過程

鏑木 うりこ

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「お久しゅうございますわ、アルバルスト殿下ぁ」
「……」

 アロウ様は人に対して繊細に対応する方だ。嫌いだな、苦手だなと思う人物に対しても横柄な態度を取ったりあまりしないのに、今回は無視をした。これは相当嫌っているに違いない。それでもその女性はゆっくりと馬車の扉のところで止まり、右手を差し出している。あれは、馬車から降りるエスコートをしろ、の手だ。
 アロウ様は当然無視を続けるし、ヨキシャとレンスンに至ってはアロウ様の前に立ち盾になる気満々だ。

 ややしばらく膠着状態が続く……誰も令嬢の手を取らないし、令嬢も手を下ろそうとしない。疲れて腕がプルプルしているが、そのまま持ち堪えている。

「お、おとぉ……さまっ」
「ん? どうした、リオ……んん? んんーー?? ……んっ!!」

 フォッフ公爵はしばらく考え込んでいたがやっと察したらしく、ぽてぽてと走り寄り、自分の娘の手を取ってやった。そしてやっとリオリシアが馬車から降りてくる。

「……丸い……」
「ヨキシャ」
「はいっ! 何でもありませんっ」

 ヨキシャの口から思わず漏れた言葉にアロウ様が釘を刺す。幸運なことにヨキシャの言葉はフォッフ公爵家の人達の耳には届かず、問題にならなかったようだ。
 だが、ヨキシャのたった一言は的を得過ぎていた。樽じゃない……丸だ。父親のフォッフ公爵がまだスリムに見えるそんな令嬢がゆっくり転がらないように気をつけながら馬車から降りてきた。 
 茶色の髪を高く結い上げ、ピンクのリボンとフリルがふんだんに使われたドレスを身に纏っていて……どこかで見た事が……あっ、果物の桃だ。髪の毛がちょうどつるにみえるぞ、まん丸の桃だ、間違いない。

「桃だ……」
「レンスン」
「はいっ! すみません!」

 やっぱりレンスンも桃に見えたんだ! アロウ様に注意されたけれど、後ろの方にいたデュラム騎士団長には聞こえたようだった。

「ブフォッ! んんっ! 失礼」

 吹き出していた……すみません、うちのレンスンが本当にもう……。

 覚束ない足取りながらゆっくり地面に接地した桃……いや、リオリシア嬢は責めるような視線をアロウ様に一度投げかける。それもきれいに無視されるが、彼女はこんな事ではへこたれないらしい。

「アルバルストさまぁ~ひどいですわぁ。長年婚約者だったわたくしを無視するなんてぇ~ひどいひどい~リオ、泣いてしまいますぅ~えーん」

 そういって泣き真似をした……何なんだ、この令嬢は……マナーとかそれ以前の話だろう。もう淑女と呼ばれる年齢の女性の行動とは思えず引いてしまう。ああいうのは幼児期に終えるはずではなかったか??
 それでもアロウ様はリオリシア嬢の方は向かず、フォッフ公爵に話しかける。

「婚約破棄の条件として、二度と私とフィーラ王家の人間の前に顔を出さないと取り決めましたよね? 何故、あなたは私の前にいるのです? 違約金の支払い準備はできていますか?」

 あのいつもにこにこしているアロウ様が一欠片の笑顔も見せない、そして声には不快感がこれでもかと盛られている……こんな怒った声、私は一度も聞いた事がない。鮫島君にもここまで怒りを露わにした事はなかったのに……。確か、一方的に婚約破棄を突きつけられたって聞いている。そりゃ二度と会いたくないだろう……でもそれなら何故向こうからやって来たんだ? 
 どちらにしろ……私も不快だ。あんなに素敵なアロウ様を捨てた? あの短い足の生えた桃みたいのが? 見る目が無さすぎるだろう! いや、でもそのお陰で私はアロウ様と婚約出来たんだからそれはそれでありがたい事だったのか? うーん、でもアロウ様が不快に思っているならあの人達はさっさと排除した方がいいと思う!





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