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86 ただの元悪役令息だったのですけれど
しおりを挟む「そんなことよりシュバル兄上。何故、私とアウリーがフィーラに来たか、心当たりがおありですよね?」
「うっ!」
「国政をサボって皆を困らせているとか? ゴルチェ義姉上にも大層迷惑をかけているとか」
「いや、しかしだな……アルバよ。キリアスとモンティがあまりにアウラリスのことを褒めるのでつい……」
「つい国政を滞らせた? それは許されることですか?」
「ううっ……」
アロウ様がものすごく怒っている。でも当たり前だと思う。王妃殿下もアロウ様に全面的に賛成のようで、うんうんと大きく頷いている。私だってアロウ様と同意見だし、周りの使用人達も心は一つだろう。
「アウリー、兄上を叱ってしまいなさい」
「えっ?! 私ですか?!」
なんて恐れ多いことをいうんですか! 国王陛下を叱りつけろって?!
「そんなに会いたかったアウリーに叱って貰えるなら兄上も本望でしょう。迷惑をかけられた宰相殿や各役所のためにもきっちりお仕置きをした方がいい」
「で、でも……アロウ様のお兄様で、国王陛下を叱るなんて……」
「いいえ、思いっきり叱ってゲンコツでもしてやってちょうだい。この人のわがままで我が国は混乱寸前なんだから!」
王妃殿下までそんなことを! わ、私が大の大人を叱るなんてできませんよ!
「フォッフ公爵を睨みつけた勢いでやっちゃってちょうだい!」
「そ、そんな……無理ですっ」
「やれば出来るわ! 頑張ってアウラリス」
お、応援されても無理です、王妃殿下ー! それにあの樽のようなフォッフ公爵を睨みつけたのは訳がありますから。
「あ、あの公爵はアロウ様を無碍に扱ったから……どうしても許せなかったんです……国王陛下はそんなことないですから」
「まっ!」
「うっ! 可愛いっ」
「でも……頑張って怒ってみますねっ!!」
「うわあああーーっ!!」
アロウ様に頼まれたら、私は全力を尽くすのみ。気合を入れて国王陛下にお説教をしたら、後から色々な人に泣きながら握手された……。そして陛下はお仕事を始めてくださったので、来た甲斐はあった。
「可愛い子って怒ると怖いんだなぁ……あの顔に睨まれるととっても辛いんだよ、ゴルチェ」
「そう思うならさっさと書類を書いてくださいまし! 早く終わらせないとアウラリス達は帰ってしまいますよ!」
「ううっ、それは嫌だぁ~!」
明日から頑張る、と宣言した国王陛下を素早く執務室へ連行してすぐに仕事を始めて貰った。
「私とアウリーもお手伝いしますので、すぐ取り掛かりますよ、兄上」
「嫌だぁ~やりたくないぃ~」
「またアウラリスに怒って貰いましょうか?」
「それも嫌だぁ~!」
「それならばフィーラ国国王の威厳というものを見せて下さい、さあ頑張って!」
「ううぅ……」
陛下は執務机にすわり、私とアロウ様は近くのソファに腰を下ろした。するとすぐに文官が音もなく近づいて来て、アロウ様と私も前にもさささっと書類の山を作っていく。
「待ちなさい、私はもうフィーラを離れた身。この国の案件は見るつもりはないし、見てはいけないと思うよ」
「大丈夫です、それでも問題のない物ばかりそちらに回しました。お願いです、アルバルスト殿下! 我々を助けると思って何卒っ!」
文官の中でも少し地位が高そうな人がアロウ様に頭を下げる。
「それなら少しだけ」
「ありがとうございますっ!」
そう言って顔を上げたその人の目の下には真っ黒なクマが出来ていて、びっくりしてしまった。
「寝ていないのかい……? 酷い顔だ、アウリーが驚いたじゃないか」
「も、申し訳ございません! 救世主様っ」
「きゅ……救世主……?」
なにそれ、私は普通の元悪役令息だよ?!
「アウラリス様は我々、城に仕えるすべての者の救世主様でございます……あのように陛下を叱りつけるなんて、なんと胸のすく思いだったでしょうかっ! そしてあの陛下がもう書類に取り組んでいるとは本当にありがたいことなのですっ」
「えええ……」
「シュバル兄上も書類は苦手な方なんだ。そういえば手伝いなら、テオはどうした?」
感動したのか泣きそうになっている文官にアロウ様は声をかけた。テオ……多分アロウ様のすぐ下の弟のテオフィーリス殿下のことだろう。私はお会いしたことがないが、アロウ様のご兄弟の名前くらいは覚えているし忘れない。
「テオフィーリス殿下は今、留学中でして呼び戻すのも憚られ……」
「そういえばテオの留学の予定は組まれてたね。うーん、クォリシュリアは政治はダメだし、その下は少し小さすぎるね」
「はい……ですから、アルバルスト様とアウラリス様にご足労願った訳です」
「そうか……ならば我々に出来ることを手伝うことにしよう。いいかな? アウリー」
「勿論です。アロウ様のお役に立てるならなんなりと!」
「ふふっ! ありがとう。この執務室にいてたまに兄上を叱咤するだけでも効率が上がりそうだね」
「ものすごく助かります!」
ついたその日に仕事を手伝うというのも急だけれど、文官さん達の疲れは少しでも取ってあげたいし、アロウ様に褒めて貰えるなら嬉しいからね! 私達は目の前の書類に目を通し始めた。
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