百合綴り『夏の終わりの約束』〜芽衣と紬〜

大山田

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第四話:君の知らない夏

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 全国高校生アート甲子園当日。会場の国際コンベンションセンターは、朝から熱気に包まれていた。各地から集まった高校の写真部員たちが、自信作を手に集う。他校の生徒たちの自信に満ちた表情を見るたびに、芽衣の心は重くなる。

「こんな大勢の人の前で、私の写真がどう評価されるんだろう…」

 コンテストに出す写真は、夏の日差しの中で微笑む紬のポートレート。技術的には納得のいく出来だった。けれど、その笑顔の奥に隠された、言葉にならない孤独を捉えきれていない気がして、どうしても自信が持てない。
 もし、紬がこの写真を見たらどう思うだろう。ただ美しく撮られただけの写真だと感じられたら…。そう考えると、芽衣は今日、紬の顔を見るのが怖かった。
 写真部の受付で、現像を終えたコンテスト用の写真を提出する。手渡すとき、手がわずかに震えているのがわかった。
 会場の広いロビーは、受付を済ませた生徒や引率の教師たちで賑わっている。芽衣は、その喧騒から逃れるように、人影の少ない通路へと足を向けた。
 その時、前方から見慣れた人物が近づいてくるのが見えた。紬だ。大きなパネルを両手に抱え、美術部の展示スペースへと急いでいるようだ。

「つ、紬さん…」

 思わず声をかけそうになったが、芽衣は咄嗟に壁の陰に身を隠した。こんな大勢の人がいる場所で、どんな顔をして話せばいいのかわからなかった。
 紬は、芽衣に気づくことなく、足早に通り過ぎていく。
 安堵と、言いようのない寂しさが、芽衣の胸に押し寄せる。
 壁にもたれかかった瞬間、芽衣が持っていた茶封筒が滑り落ちた。中から数枚の写真が散らばる。慌てて拾い集めようとしたその時、足音が近づいてくるのが聞こえた。
 顔を上げると、先ほど通り過ぎたはずの紬が、訝しそうな表情で立っていた。

「…何か落とした?」

 紬は、芽衣の足元に落ちた写真に気づいたようだ。
 芽衣は咄嗟に立ち上がり、散らばった写真を隠すように抱きしめる。

「あ、大丈夫、私のじゃないです」

 震えた声が出た。明らかに嘘だとわかるだろう。
 しかし、紬はそれを咎めることなく、少し訝しげな表情のまま、再び美術部の展示スペースへと歩き出した。
 その時、一枚の写真が、芽衣の手から滑り落ちた。
 それは、ひまわり畑で、ふとした瞬間に撮られた紬の真顔の写真だった。濡れた髪がまとわりつく笑顔の奥に隠された、深い孤独が写し出されている一枚。
 紬は、その写真に気づき、足を止めた。
 ふと、自分の制服の袖口についた、薄く乾いた絵具の跡に気づく。その色は、あの日美術室で涙をこぼしていた芽衣の、揺れる瞳の色とよく似ていた。拾い上げた写真に、その瞳が一瞬釘付けになる。そして、ゆっくりと顔を上げた。
 その瞳には、驚きと、ほんの少しの戸惑いが浮かんでいた。

 芽衣は、自分の嘘がばれてしまったこと、そして何よりも紬に、自分の秘密の想いが知られてしまったことに、顔が熱くなるのを感じ、その場から逃げ出してしまった。

―――

 美術部の作品を抱え、体育館のロビーを急いでいた時だった。
 人影のない通路で、壁の陰に身を隠すように立っている、見慣れた後ろ姿を見つけた。

(…芽衣だ)

 声をかけようとしたが、彼女はすぐにその場を去っていった。逃げるように走り去るその背中を見て、紬の胸には、またしても寂しさが広がった。

(やっぱり、私を避けているんだな…)

 美術部の展示スペースにパネルを置き、再びロビーに戻る。すると、先ほど芽衣が立っていた場所に、茶封筒が落ちているのが見えた。

(…芽衣のだ)

 拾い上げようと近づくと、中から写真が数枚、床に散らばった。
 慌てて拾い集めようとする芽衣の、震える手。そして、その手が隠そうとした写真。

「あ、大丈夫、私のじゃないです」

 明らかに嘘だとわかる、掠れた声。その必死な様子に、紬は思わず笑ってしまいそうになったが、平静を装った。
 しかし、再び歩き出した紬の足元に、一枚の写真が落ちた。
 それは、ひまわり畑で不意に撮られた、濡れた髪がまとわりつく真顔の自分の写真だった。
 拾い上げたその一枚に、紬は言葉を失った。
 そこには、明るく振る舞っている自分ではなく、心の奥底に隠していた、深い孤独を抱えた自分が、はっきりと写し出されていた。

(…芽衣、本当に私のこと、わかってくれてたんだ)

 その一枚の写真が、まるで芽衣からの手紙のように、紬の心を震わせた。
 あの日、美術室で自分の絵を見て涙を流した芽衣の姿を思い出す。
 彼女は、言葉にできない自分の孤独を、自分の撮った写真に、そして自分の見た風景に、重ね合わせてくれていたのだ。
 夏の匂いに包まれながら、紬の目から、静かに涙がこぼれ落ちた。
 これは、ただの「夏」の写真じゃない。
 芽衣の、そして紬の、言葉にできない「夏」が、確かに写っていたのだ。
 そして、この写真に込められた芽衣の想いは、紬にとって、何よりも大切な宝物になった。
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