銀の髭、黄金の眼

遠影此方

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 地に立って歩くという事ほど、不自由な事はない、とふと思う。続いてゆく、限られた眼下に広がる地平を、その向こうに何があると分かっていつつも進むしかない。そこに雲を越える大嶺がそびえていようが、そこに濃霧に包まれた裂け目があろうが、道が続いている限りは進んでゆかなければならない。空を飛べればそのような事はないのだが、あいにく我々は翼を持たない。代わりにどのように歩こうかという小さな知恵を携えているだけだ。目の前の世界がどう見えているかに強く影響を受けるその目先の眼鏡は、全幅の信頼を傾けるにはいささか心もとない。目の前の地面が突然裂けるという事態に際して、そのような見方はかえって正しい視点を持つことを妨げる。

しかし、地面が突然裂けうるというようなあやふやなものだと知ってしまって、その後われわれは、それまでとそっくり同じように、安心して地面を歩く事などできるのだろうか。いや、片足を前に進める度に、過去という亡霊と戦わなくてはならなくなるであろう。過去の亡霊の持つ鎌は、己自身がそのときに抱いた鮮烈な恐怖と驚きであり、それに少しでも似たような事態になれば、亡霊はその鎌首をこちらに差し向けてくる。首元に迫ったその刃には、恐怖に歪んだ己の顔が映ることだろう。

 だが、われわれは、時に、肺を埋めるほどの恐怖に苛まれながら、それでも前にその足を踏み出す。自らの前方を見据えるその目には、眼前の恐怖はもはや写らない。そこには、足を止めようとする自分を押しのけるほどの強い意志が宿る。その意思は、老いた骨を強くし、揺れる眼を定めて、欠けゆく魂を補う。

 遍歴するものに宿る魂の成分こそ、その意思であり、その豪胆であろう。
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