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ゲオルグの魔法
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ゲオルグがどうしてひねくれたのか殿下に聞いてみた。
「白は髪は我が国ではものすごく珍しいんだ。魔力の強いロンメル家でも特別な者の色なんだが、滅多に出ない。50年ぶりくらいでゲオルグに出たんだ。でも子供の頃、周りの子供達から年寄りみたいと馬鹿にされてな。それ以来あの髪が気に入らないらしい」
「魔導士なのだし、魔法で染めればいいのではないか?」
ジークヴァルトが横から口を挟む。
「いやそれが、どうしても染まらなかったらしい」
なるほど。
「あの髪は強い魔法のエネルギーを持っているからそう簡単には染まらないわ。家の誇りの髪色なのに。私はかっこいいと思うけど。お年寄りの白髪とは全く違うものね」
「アイリ殿、ゲオルグの心をほぐすことは無理だろうか? 多分父上はその為にゲオルグをアイリ殿に託したのだと思う」
託されてもね。こっそり鑑定して見たけど、かなり深く傷ついているのよね。
ゲオルグは物凄くナイーブ、親や祖父の期待も重い、自分だけ特別扱いされるので兄弟とも距離がある。兄弟は気にしてないのだけれど、自分がなんだか後ろめたいのだろ。要は気が小さい、または優しいのね。
さて、どうしたものだろう。とりあえず話をしてみようと私は思った。
「ねえ、ロンメル卿、私にこの国の魔法を教えて欲しいの」
「……」
なかなか手強いな。これは荒療治でいくか。私はゲオルグの手を取り、私の魔力を流してみる。
「!」
ゲオルグは驚いて目を見張っている。
「違う?」
「……」
違う魔力を流してみる。
「……違う」
赤い顔をしているな。
ゲオルグは小さな声でぼそっとつぶやいた。
「あんたの魔力は熱かったり、涼しかったりする……」
「ロンメル卿の魔力、流してみて」
私はゲオルグの目を見つめた。ゲオルグはこくりと頷いた。
私の手をつたって身体にゲオルグの魔力が流れてくる。
「優しいわ。繊細ね。私の魔力とは全然ちがう。すごいわ。私の魔法は大雑把で荒っぽいの。こんな魔法、憧れるわ」
私はゲオルグを持ち上げた。
「……」
無言ではあるがかなり和らいでいるようだ。
まぁ、のんびりいこう。私の回復魔法は心には効かない。
しかし、これくらい繊細な魔法なら心にも効くのではないだろうか。
「ロンメル卿、回復魔法は使えますか?」
ゲオルグはこくりと頷く。
「私の回復魔法は心の病を治すことはできません。ロンメル卿の回復魔法なら可能なような気がしますが……」
ゲオルグは黙り込んだままだ。何か考えているように感じる。口を開くまで待つことにした。
しばらくしてゲオルグが顔を上げた。
「回復魔法は使えるが、弱いんだ。簡単な傷くらいしか治せない」
外傷じゃないのね。
そういえば以前殿下はこの国は回復魔法を使える魔導士が少ないし、大きな傷は治せないと言っていたわね。
「ロンメル卿、私の心に回復魔法をかけてみて」
「心に?」
「そう。私の心に」
ゲオルグはこくりと頷くと手のひらを私の心に向けた。
そこから光が溢れ出る。白い光だ。私の心に暖かく優しい、けれどパワフルなエネルギーが注ぎ込まれていく。涙が溢れてきた。
あぁ、癒されていく。あの時受けた心の傷がどんどん癒されていく。
「だ、大丈夫か?」
ゲオルグは心配そうに私の顔を覗き込む。
「大丈夫よ。そのまま続けて」
私の心は暖かい幸せに包まれる。しばらくして光が消えた。
「有難う。私の心の痛みが消えたわ。ロンメル卿自分の心に回復魔法をかけてみては? 自分でやると自分の力がよくわかるわ」
ゲオルグは戸惑っているようだが、またこくりと頷いた。
そして手のひらを自分の胸に当てる。
ゲオルグの手のひらから溢れ出ている光はこの部屋全体を包み込む。
泣き虫クマさんのジークはもちろん、殿下も涙を流している。
エリアヒールをしているわけではないが魔力が強いので他の人にも作用してしまうのだろう。
光が消える頃にはゲオルグの顔が明らかに変わってきた。
「自分で自分を癒すことができるのに長いこと苦しんでいたなんて。聖女殿。有難うございます。あなたのおかげです」
あら、ちゃんと喋れるじゃない。
「私は何もしてないわ。あなたにはあなたしかできない魔法があっただけよ」
「ゲオルグと呼んでほしい。皆と同じようにアイリ殿と呼んでもいいだろうか?」
照れながら小さな声で話すゲオルグ、めちゃ可愛いわ。
「もちろんよ。これからは一緒に頑張りましょう」
私はゲオルグに手を差し出した。
ゲオルグは戸惑っているようだ。この国には握手はないのかしら?
私はゲオルグの手を取りガッチリ握手をした。
「私のいた世界ではこれを握手と言うの。わかり合ったしるしね」
「握手?」
「そうよ」
私はクスッと笑った。
ジークヴァルトが手を出してきた。
「アイリ殿、私も握手をしてほしいです」
まぁ、可愛いクマさんですこと。
「良くてよ」
ジークヴァルトの手は大きくて力強い。そして、剣ダコが硬い。
「小さくて柔らかい」
顔を赤くしてぼそっと言ったのが聞こえた。
殿下が私の顔を見た。あんたも握手かい?
「アイリ殿、ゲオルグの回復魔法が心に効くのなら、兄上の心も治せるのだろうか?」
兄上? あぁ、男爵令嬢に騙されて廃嫡になった兄上か。確か心を壊したと言っていたな。
「多分可能ですわ」
私は頷いた。
殿下はゲオルグの前に出て、手を握って顔をじっと見ている。
「頼むゲオルグ、兄上を助けてほしい。兄上は私なんかより優秀なんだ。あんなところにいる人間ではないのだ。頼む」
頭を下げた。殿下が頭を下げるなんて。
必死感が漂ってくる。
ゲオルグは私の顔を見た。
私は目で「やっちゃえ」と言った。
「白は髪は我が国ではものすごく珍しいんだ。魔力の強いロンメル家でも特別な者の色なんだが、滅多に出ない。50年ぶりくらいでゲオルグに出たんだ。でも子供の頃、周りの子供達から年寄りみたいと馬鹿にされてな。それ以来あの髪が気に入らないらしい」
「魔導士なのだし、魔法で染めればいいのではないか?」
ジークヴァルトが横から口を挟む。
「いやそれが、どうしても染まらなかったらしい」
なるほど。
「あの髪は強い魔法のエネルギーを持っているからそう簡単には染まらないわ。家の誇りの髪色なのに。私はかっこいいと思うけど。お年寄りの白髪とは全く違うものね」
「アイリ殿、ゲオルグの心をほぐすことは無理だろうか? 多分父上はその為にゲオルグをアイリ殿に託したのだと思う」
託されてもね。こっそり鑑定して見たけど、かなり深く傷ついているのよね。
ゲオルグは物凄くナイーブ、親や祖父の期待も重い、自分だけ特別扱いされるので兄弟とも距離がある。兄弟は気にしてないのだけれど、自分がなんだか後ろめたいのだろ。要は気が小さい、または優しいのね。
さて、どうしたものだろう。とりあえず話をしてみようと私は思った。
「ねえ、ロンメル卿、私にこの国の魔法を教えて欲しいの」
「……」
なかなか手強いな。これは荒療治でいくか。私はゲオルグの手を取り、私の魔力を流してみる。
「!」
ゲオルグは驚いて目を見張っている。
「違う?」
「……」
違う魔力を流してみる。
「……違う」
赤い顔をしているな。
ゲオルグは小さな声でぼそっとつぶやいた。
「あんたの魔力は熱かったり、涼しかったりする……」
「ロンメル卿の魔力、流してみて」
私はゲオルグの目を見つめた。ゲオルグはこくりと頷いた。
私の手をつたって身体にゲオルグの魔力が流れてくる。
「優しいわ。繊細ね。私の魔力とは全然ちがう。すごいわ。私の魔法は大雑把で荒っぽいの。こんな魔法、憧れるわ」
私はゲオルグを持ち上げた。
「……」
無言ではあるがかなり和らいでいるようだ。
まぁ、のんびりいこう。私の回復魔法は心には効かない。
しかし、これくらい繊細な魔法なら心にも効くのではないだろうか。
「ロンメル卿、回復魔法は使えますか?」
ゲオルグはこくりと頷く。
「私の回復魔法は心の病を治すことはできません。ロンメル卿の回復魔法なら可能なような気がしますが……」
ゲオルグは黙り込んだままだ。何か考えているように感じる。口を開くまで待つことにした。
しばらくしてゲオルグが顔を上げた。
「回復魔法は使えるが、弱いんだ。簡単な傷くらいしか治せない」
外傷じゃないのね。
そういえば以前殿下はこの国は回復魔法を使える魔導士が少ないし、大きな傷は治せないと言っていたわね。
「ロンメル卿、私の心に回復魔法をかけてみて」
「心に?」
「そう。私の心に」
ゲオルグはこくりと頷くと手のひらを私の心に向けた。
そこから光が溢れ出る。白い光だ。私の心に暖かく優しい、けれどパワフルなエネルギーが注ぎ込まれていく。涙が溢れてきた。
あぁ、癒されていく。あの時受けた心の傷がどんどん癒されていく。
「だ、大丈夫か?」
ゲオルグは心配そうに私の顔を覗き込む。
「大丈夫よ。そのまま続けて」
私の心は暖かい幸せに包まれる。しばらくして光が消えた。
「有難う。私の心の痛みが消えたわ。ロンメル卿自分の心に回復魔法をかけてみては? 自分でやると自分の力がよくわかるわ」
ゲオルグは戸惑っているようだが、またこくりと頷いた。
そして手のひらを自分の胸に当てる。
ゲオルグの手のひらから溢れ出ている光はこの部屋全体を包み込む。
泣き虫クマさんのジークはもちろん、殿下も涙を流している。
エリアヒールをしているわけではないが魔力が強いので他の人にも作用してしまうのだろう。
光が消える頃にはゲオルグの顔が明らかに変わってきた。
「自分で自分を癒すことができるのに長いこと苦しんでいたなんて。聖女殿。有難うございます。あなたのおかげです」
あら、ちゃんと喋れるじゃない。
「私は何もしてないわ。あなたにはあなたしかできない魔法があっただけよ」
「ゲオルグと呼んでほしい。皆と同じようにアイリ殿と呼んでもいいだろうか?」
照れながら小さな声で話すゲオルグ、めちゃ可愛いわ。
「もちろんよ。これからは一緒に頑張りましょう」
私はゲオルグに手を差し出した。
ゲオルグは戸惑っているようだ。この国には握手はないのかしら?
私はゲオルグの手を取りガッチリ握手をした。
「私のいた世界ではこれを握手と言うの。わかり合ったしるしね」
「握手?」
「そうよ」
私はクスッと笑った。
ジークヴァルトが手を出してきた。
「アイリ殿、私も握手をしてほしいです」
まぁ、可愛いクマさんですこと。
「良くてよ」
ジークヴァルトの手は大きくて力強い。そして、剣ダコが硬い。
「小さくて柔らかい」
顔を赤くしてぼそっと言ったのが聞こえた。
殿下が私の顔を見た。あんたも握手かい?
「アイリ殿、ゲオルグの回復魔法が心に効くのなら、兄上の心も治せるのだろうか?」
兄上? あぁ、男爵令嬢に騙されて廃嫡になった兄上か。確か心を壊したと言っていたな。
「多分可能ですわ」
私は頷いた。
殿下はゲオルグの前に出て、手を握って顔をじっと見ている。
「頼むゲオルグ、兄上を助けてほしい。兄上は私なんかより優秀なんだ。あんなところにいる人間ではないのだ。頼む」
頭を下げた。殿下が頭を下げるなんて。
必死感が漂ってくる。
ゲオルグは私の顔を見た。
私は目で「やっちゃえ」と言った。
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