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1巻
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父は今回、そんな条件を出していたのか。
ランドセン侯爵は本当に正直だな。黙っていれば分からないのに。
「いえ、それはお受け取りください。あの領地は元々ランドセン侯爵家のものです。先の国王が難癖をつけ取り上げた土地。それが元に戻るのは正しいこと。父もあれを返したいと常々言っていました。この結婚とは別のものです。たとえ破談になっても、それはそのままお納めください」
「破談など困ります。何卒、ミディアローズをお願いします」
侯爵の必死さが、少し面白い。
ミディアローズという令嬢は、どれだけ型破りなのだろうか。
結婚なんかしない、一生独りで領地のために生きる。そう誓ったくせに、私はミディアローズ嬢にまた会いたくなっていた。
それから少しして、私はランドセン侯爵家を訪れた。
ミディアローズ嬢と話をするためだ。
屋敷に到着すると、ランドセン侯爵が自ら出迎えてくれる。
彼の後ろからすぐに、ミディアローズ嬢が現れた。
「ようこそおいでくださいました」
彼女はシンプルなドレスに身を包んでいる。アクセサリーもシンプルなものだけだ。化粧も薄く、香水の匂いもしない。
高位貴族の令嬢らしい綺麗なカーテシーでの挨拶。
こうして見ると、さすがに侯爵令嬢だ。美しく気品が溢れている。
私などではなく、高い家格の子息と結婚したほうがいいのではないか、とつい考えてしまう。
私を客間に通すと、侯爵はミディアローズ嬢に「くれぐれも失礼のないようにな」と言って、部屋を出ていった。
部屋には私とミディアローズ嬢の二人だ。正確には私の従者とミディアローズ嬢の侍女もいるが。
「先日は失礼いたしました。てっきり破談になると思っておりましたのに、私と結婚する気があるのですか?」
ミディアローズ嬢はいきなりジャブを打ってきた。
見た目と中身がやっぱり違う。
だがすぐに、いらぬことを言ってしまったと気づいたようで手を口に当てる。
本当に面白い。
「いや、失礼したのは私のほうだ。今までも何人か令嬢を紹介されたのだが、どの方もあんなことがあった私に擦り寄ってくるので気持ち悪くなってしまってね。王家と縁続きになるために、こんな私とでも結婚したいのか、と……そのせいで、きっと君もそうだと思い込み、あんな態度をとってしまった。本当に申し訳なかった」
私はあの日のことを素直に謝った。
「それは閣下の考えすぎで、本当に閣下と結婚したい令嬢もいたかもしれませんよ」
いないだろう。もし、いたとしてもあのタイプの女性とは結婚したくない。
「いないよ。私はもう終わった人なんだ。それに私と結婚しても、私には妻の家門に援助したり、特別扱いしたりする力はない。それらのことを望むなら、私ではなく王太子や栄えている貴族と結婚したほうが得だよ。私の領地はまだまだこれからで、それほど利益がたくさん出ているわけじゃないからね」
今の私にはなんの値打ちもない。
ミディアローズにはつい本心が出てしまう。
すると、ミディアローズ嬢がふっと笑った。
「見直しましたわ。ちゃんと領地経営をしていらっしゃるのですね。私はてっきり、領地のことは誰かに丸投げしているお飾り領主で、外聞が悪いので分家したものの王家の脛をかじっているのだと思っておりました」
辛辣だな。
でもきっと、この国の人間のほとんどがそう思っているのだろう。私はお飾り領主だと。
私が「手厳しいな」と言うと、「こんな失礼な人間なので、先日の話は破談にしていただいて結構ですよ」とミディアローズ嬢は返す。
「いや、破談にはしない。我が領地にはランドセン侯爵家の力が必要なんだ。侯爵から学びたいことがたくさんある」
私の言葉に、彼女は目を丸くした。
何かおかしなことを言っただろうか?
ミディアローズ嬢は信用できる。
周りの者は皆、私を腫れ物に触るように扱う。腹の中では愚かな元王太子と蔑んでいるくせに。
ところが彼女は、貴族なのに口に出すことと腹の中で思っていることが同じ。辛辣でも素直な言葉をどんどん発する。
今まで誰にもあんなふうなきつい言葉をかけられたことはなかった。
だから、結婚するなら、ミディアローズ嬢がいい。
何故か分からないが、幸せになれる気がする。
しかし、私が幸せになってもいいのだろうか……
いや、やっぱり幸せになど、なってはいけない。
ぐらぐらと落ち着かない私の心を見透かしているのだろうか? ミディアローズ嬢が私の目を真っ直ぐに見た。
「済んだことをいつまでもぐだぐだ後悔するのは、やめてください。閣下が魅了の魔法にかかったたことで不幸になったのは、閣下自身だけですよね。確かに婚約者のプライドは傷付けてしまいましたが、閣下との婚約を解消したことで彼女は好いた人と結婚できたそうですし、結果オーライです。閣下もいい加減に前を向いてください。魅了の魔法にかかったことを笑い話にするくらいになってください。そうする努力をしてくれるなら、結婚してもいいです」
その力強い言葉で、私の心は決まった。
ミディアローズ嬢についていこう。
彼女は私をこの底なし沼から引っ張り上げてくれる。私に進むべき道を指し示してくれ、手を引き、時には背中を押してくれる。いや、尻を蹴飛ばしてくれそうだ。
今まで私を引っ張ってくれる者など一人もいなかった。
私が皆を引っ張っていかねばならないと、ずっと考えていたのだ。
「努力する。約束しよう」
私はミディアローズ嬢にそう告げた。
十二歳も年下のこの令嬢が私を変えてくれる。私の本質を引き出してくれる。
今まで感じたことのない安堵感を覚える。
私は幸せになってもいいのだな。
あれから初めて、そう思えた。
第三章
私と公爵閣下の婚約が正式に決まった。
結婚式は三ヶ月後だと父に告げられる。
ちょっと待ってよ。
最初に婚約が決まったと言われた時は、淑女学校を卒業したら式を挙げる予定だったじゃない?
三ヶ月後なんてまだ学校を卒業していない。
「お父様、三ヶ月後って、私はまだ卒業していませんわ」
私は父を睨みつけた。
父は気まずそうな顔で視線を逸らす。
「一日も早くと陛下に頼まれてなぁ。断れなかったのだ」
「では、私は淑女学校中退ですか?」
中退なんて嫌だ。
自分でもびっくりするくらい怖い声が出る。
「いや、大丈夫だ。お前は成績だけは優秀だから、早めに卒業できるらしい」
成績だけはって、何よ。他はダメみたいじゃない。
「それも王家の圧力ですか?」
「いや、私は何も知らん。とにかく三ヶ月後だからな。あ~忙しい。忙しい」
父は逃げるように消えた。
「――ミディア、ウエディングドレスのことなんだけど、日にちがあまりないので王家で用意しようかと言ってくださっているの。それでいいかしら?」
あれから母は毎日、楽しそうにしている。
娘の結婚が決まり、はしゃいでいるようだ。
そりゃそうか。私は周りから結婚は無理だと言われていたのだから。
素の私を知る人たちからは、私のような跳ねっ返りを娶ってくれる奇特な男などいない、お金に困っている没落しかけの貴族子息なら借金を肩代わりして家を立て直すくらいの持参金をつければなんとか貰ってくれるかもしれない、などと酷い言われ方をしていた。
まぁ、公爵閣下だって似たようなもんだ。
できるなら結婚なんかせずに文官か騎士になりたかったなぁ。
あっ、思い出した。ポーレッタさんに頼まれていたことがあったんだ。
「お母様。デザインなどは王家にお任せでもいいですが、私の花嫁支度は全てエリスバン商会に頼んでくださいませ」
「エリスバン商会? うちとは取引してないけど?」
「それでも今回はエリスバン商会にお願いしてくださいませ。公爵閣下に婚約解消されたポーレッタさんの嫁ぎ先なのです。先日お会いした時に『花嫁道具は我が商会でお買い上げいただけると嬉しいですわ』とおっしゃっていました」
私がそう言うと、母はそれまでヘラヘラしていた顔から真顔になった。
「じゃあ、今回はエリスバン商会に頼みましょう。妃殿下にもお伝えするわ。あの方はエリスバン商会に嫁いでいたのね。平民に嫁いでご苦労されているでしょうけど、エリスバン商会ならお金の心配はなくて、良かったわ。私たちであの方の株を上げてあげなければなりませんね。お友達にも購入するように言うわ」
母は社交界でそれなりに力を持っていて、顔が広い。そのお陰で私がやりすぎても許されてきた、という一面もあった。
たくさんの貴族がエリスバン商会で買い物をしてくれたら、ポーレッタさんは喜んでくれるだろう。
正直なところ、私は花嫁道具もウエディングドレスもなんでもいい。全く興味がないのだ。
それより、フェノバール領のことが気になる。
あれから何度か公爵閣下と面会し、領地の状況を聞いた。
何年か前の干ばつで作物が全滅し、やっと雨が降ったら今度は豪雨で川が氾濫したのだそうだ。公爵閣下が領主になってから、父が河川工事や農地整備についてアドバイスし、今は少しずつ利益が出てきているらしい。
そういえば、うちの領地もお祖父様の代に河川が氾濫し大変だったそうだ。父が他国に留学して工事について学び対処した、と聞いたことがある。
今は母の尻に敷かれて頼りなく見える父だが、やる時はやるのかもしれないな。
私は父を見直した。
私も公爵閣下のお尻を叩いて、フェノバール領を豊かにしないといけない。
それにしても、公爵閣下の周りにはあまりにも人が少ない。
家令のセバスチャン、メイド頭のハンナ、従者のマイク、あとはコックとメイドくらいだ。特に護衛騎士がいないのには驚いた。
まぁ、王族だし、影はついているのだろうが。
とはいえ、もう少し動ける人や頭の使える人を増やさないといけない。そう、公爵閣下に進言しよう。
あぁ、結婚まで三ヶ月しかないのか。フェノバール領についてもっと深く勉強しておかなければ。
花嫁修業?
これでも私は侯爵令嬢。淑女学校でも優秀な成績だし、普段は猫を被れている程度にはマナーを身につけているので大丈夫。
私は嫁ぐというより、働きに行くような気分だった。
そうして、三ヶ月なんてあっという間に経ってしまった。
今日はもう結婚式。
もちろんこんな短期間に公爵閣下への愛が芽生えるわけもなく、私はすっかりフェノバール公爵家に就職し、公爵夫人という役職に就く気持ちだ。しかも住み込み。
閣下はさしずめ雇い主だな。
ウエディングドレスも花嫁道具もエリスバン商会にお願いした。
ドレスについては「三ヶ月しか製作期間がないけど大丈夫ですか?」と心配したが、ポーレッタさんは「お任せください。エリスバン商会の名にかけて素晴らしいものをお作りいたします」と請け負ってくれた。
それが今、私が着ているこれだ。
デザインは母と王妃殿下、ポーレッタさんがデザイナーさんと一緒にあーでもないこーでもないと話し合って決めたらしい。
まだ子供の私が着るのだし、きっとレースやフリルが使われた可愛いドレスができると思っていたのに、渡されたのはマーメイドラインのものだ。
白いシルクタフタの生地の上に薄いブロンドの羽根のような布が重なっている。その上に載せられたレースには薔薇の刺繍がされており、さらにエメラルドが鏤められていた。
ブロンドは公爵閣下の髪色、エメラルドは瞳の色。そして薔薇の刺繍は私の名前、ミディアローズのローズからきているらしい。
凝りに凝ったこんなドレス、よく三ヶ月で作ったなぁ。エリスバン商会凄いわ。
祭壇の前で私の隣に立つフェノバール公爵閣下は、私の髪色の黒のモーニングコートに私の瞳の色の紫のジレを合わせていた。
背が高く肩幅が広いので、よく似合っている。
彼の容姿は私もかっこいいと思う。
本当なら次期国王になっていた人だ。魅了の魔法にかからなければ私なんかと結婚することもなく、フェノバール領の運営に携わることもなかったのだろうな。
まぁでも、運命の輪は回ってしまったのだから仕方がない。
不意に、公爵が私に微笑みかけた。
「ミディアローズ嬢、そのドレス、よく似合っている。綺麗だ」
「ありがとうございます。公爵閣下も素敵ですよ」
綺麗と言われれば嬉しいものだ。
「ミディアローズ嬢、その……そろそろ公爵閣下はやめてもらえないだろうか。できればリカルドと呼んでほしい」
そっか、結婚するんだものね。
「では、私のことはミディアと」
「分かった。ミディア、これから私とフェノバール領をよろしく頼む」
「はい。リカルド様も私をよろしくお願いします。私が何かやらかした時は、一緒に謝りに行ってくださいましね」
「承知した」
公爵閣下……もとい、リカルド様ははにかんだような笑みを浮かべる。
可愛いな。
十二歳も年上の男性を可愛いと感じてしまった。
そんなふうに領地の教会での結婚式は滞りなく行われ、とりあえず私たちは永遠の愛を神に誓ったのだ。
誓いのキスは一瞬だけチュッと唇にリカルド様の唇が当たるもの。
それなのに彼は真っ赤な顔をしている。
二十七歳の男が唇にチュッとしたくらいで赤くなるのか? 乙女か?
私はちょっと呆れてしまった。
それはともかく、今日から私はフェノバール公爵夫人になる。
まだ十五歳。デビュタントも済んでないのに公爵夫人だよ。
まぁ、名前だけだけどね。
暫く社交界に出るつもりはないし、領地のために色々頑張ろう。
結婚式が終わってみんなを見送った後、私たちは屋敷に戻ってきた。
さっそく楽ちんなワンピースドレスに着替える。
結婚式では綺麗だったのよ、私。ウエディングドレスを着てお化粧をし髪を結い上げた姿は、まさにザ・侯爵令嬢。
あっ、結婚したからザ・公爵夫人か。
それがこれだもの。
式に参加していた人が今の姿を見たら、別人と思うかもしれない。
「奥様! 結婚したのですから、少しは奥様らしくしてくださいませ!」
ランドセン侯爵家からついてきてくれた侍女のメアリーに怒られる。
彼女はランドセン侯爵家の家令とメイド頭夫婦の娘だ。
子爵家に嫁いでいたのだが、子供に恵まれず離縁されてランドセン侯爵家に戻ってきたので、私付きの侍女兼教育係になった。
私が暴れん坊になったのは、決してメアリーが悪いわけではない。一緒にメアリーから学んでいた弟は賢い良い子になっているからだ。
要するに、私の性格は持って生まれたものらしい。
「奥様って、なんか変じゃない? 今までどおりミディアでいいわ」
とりあえず、彼女に呼び方の相談をしておく。
奥様なんて呼ばれたら背中が痒い。
私は他の使用人たちにもミディアと呼んでもらうことにした。
そうこうしているうちに夕飯の用意ができたとの知らせが来る。
私は急いでダイニングルームに向かった。
「ミディア、着替えたのか」
先に席についていたリカルド様はなんだか残念そうだ。
「あのドレスのほうが良かったですか?」
私は意地悪く言う。
「あれはあれだな。ずっとあれでは大変だろう」
何を言っているのか、よく分からない。
彼の言葉を無視して、食事をしながら明日の予定を相談する。
「リカルド様、明日から領地について詳しく教えてほしいのです。特に、父のアドバイスで工事したという河川が見たいです。予定が大丈夫なら馬で回りませんか?」
「馬車ではなく、馬でか?」
「はい。馬車では時間がかかるし、大袈裟すぎるでしょう? 馬でチャチャっと走って、たくさん回りたいのです」
私はできるだけ多くの場所を短期間で見たい。
「ミディアは馬に乗れるのか?」
「もちろんです。これでも騎士を目指していたこともあるんですよ、馬は得意です。そうだ、リカルド様は朝の鍛錬はされますか? もし、なさるなら私も一緒にしたいです」
「鍛錬?」
そう言ってリカルド様が固まる。馬に乗ったり鍛錬したりする女を見たことがないのかもしれないな。
「私は毎朝、剣の稽古として走ったり体操したりしています。リカルド様がされてないなら一人でやりますね」
「いや、やってる! 私もやってるから一緒にやろう」
やっぱり! リカルド様は身体を鍛えている感じだもん。早速、手合わせしてもらおう。
私はわくわくしてきた。
「ミディア様! お嫁入りしたばかりの夫人が、そんなことをおっしゃるもんじゃありません!」
メアリーが目を三角にして怒る。
角が生えてくるんじゃない?
「旦那様、セバス様、ハンナ様、こんなミディア様で申し訳ありません。このメアリー、命に代えても、ミディア様がまっとうな夫人になるように頑張る所存でございます」
「メアリー、命になど代えなくてもいい、死んでしまうぞ。ミディアはこのままでいいのだ。それにしても、明日から一緒に領地を見て回れるのは楽しみだな」
リカルド様はケラケラ笑っている。
「リカルド様の笑っている姿を見たのは何年振りでしょう? ミディア様、ありがとうございます」
思いがけず、セバスチャンにお礼を言われた。
リカルド様はそんなに長い間、笑ってなかったのか?
罪の意識に苛まれて笑わないようにしていたのかもしれない。何も悪くないのに苦しんで、おまけに後遺症に苦しんでもいる。
やっぱり魅了の魔法なんて使っちゃダメだ。
魔法じゃなくて、自分の力で魅了すれば問題なかったのに。
「どうしたの。難しい顔をしてるよ。そろそろ休もうか。今日は疲れただろう」
色々考えすぎて変な表情になっていたようだ。リカルド様に心配される。
「はい。疲れました。湯浴みをしてゴロゴロしたいです」
あっ、ゴロゴロしたいなんて言っちゃった。
思わずメアリーを見ると、やっぱり目が三角になっている。
「ゆっくり湯浴みしておいで。待ってるから」
待ってる? 待ってる? 待ってる!!
まさか! まさか! まさか!
初夜?
いゃ~、ないでしょう?
ない、ない。
私は挙動不審になりながらメアリーを伴って自室に戻ったのだった。
湯浴みをして、それほど可愛くない夜着を着せられる。
「初夜ですから、いかにも初夜らしい夜着にしようと思ったんですが、ミディア様が着た姿を想像したらぷっと笑ってしまったので、普通のものにしました」
メアリー~、笑うって何よ! 私だって一応女なんだからね。
私はぷう~っと頬を膨らませた。
「では、ミディア様、私は下がりますね。くれぐれも旦那様にご迷惑をお掛けしないでください」
メアリーが下がり、広い部屋に独りぼっちになる。
エリスバン商会にお任せした新しい私の部屋の家具は、シンプルですっきりしていた。そしてちょっとだけ可愛い。
ゴテゴテしていなければそれでいいとポーレッタさんに丸投げしたのだが、こんなに素敵な部屋にしてくれるとは驚きだ。
この部屋とリカルド様の部屋の間には夫婦の寝室がある。どちらの部屋からも出入りできるよう、夫婦の寝室にはそれぞれの部屋に続く扉があった。
一応、私の部屋にもベッドはあるのだが、今日はどこで寝るのだろう?
夫婦の寝室にはバカでかいベッドがある。エリスバン商会が結婚祝いに贈ってくれたもので、大人四人がゆっくり眠れるくらいの大きさだ。
――コンコン。
不意に寝室側のドアがノックされた。
「ミディア、起きてる?」
ランドセン侯爵は本当に正直だな。黙っていれば分からないのに。
「いえ、それはお受け取りください。あの領地は元々ランドセン侯爵家のものです。先の国王が難癖をつけ取り上げた土地。それが元に戻るのは正しいこと。父もあれを返したいと常々言っていました。この結婚とは別のものです。たとえ破談になっても、それはそのままお納めください」
「破談など困ります。何卒、ミディアローズをお願いします」
侯爵の必死さが、少し面白い。
ミディアローズという令嬢は、どれだけ型破りなのだろうか。
結婚なんかしない、一生独りで領地のために生きる。そう誓ったくせに、私はミディアローズ嬢にまた会いたくなっていた。
それから少しして、私はランドセン侯爵家を訪れた。
ミディアローズ嬢と話をするためだ。
屋敷に到着すると、ランドセン侯爵が自ら出迎えてくれる。
彼の後ろからすぐに、ミディアローズ嬢が現れた。
「ようこそおいでくださいました」
彼女はシンプルなドレスに身を包んでいる。アクセサリーもシンプルなものだけだ。化粧も薄く、香水の匂いもしない。
高位貴族の令嬢らしい綺麗なカーテシーでの挨拶。
こうして見ると、さすがに侯爵令嬢だ。美しく気品が溢れている。
私などではなく、高い家格の子息と結婚したほうがいいのではないか、とつい考えてしまう。
私を客間に通すと、侯爵はミディアローズ嬢に「くれぐれも失礼のないようにな」と言って、部屋を出ていった。
部屋には私とミディアローズ嬢の二人だ。正確には私の従者とミディアローズ嬢の侍女もいるが。
「先日は失礼いたしました。てっきり破談になると思っておりましたのに、私と結婚する気があるのですか?」
ミディアローズ嬢はいきなりジャブを打ってきた。
見た目と中身がやっぱり違う。
だがすぐに、いらぬことを言ってしまったと気づいたようで手を口に当てる。
本当に面白い。
「いや、失礼したのは私のほうだ。今までも何人か令嬢を紹介されたのだが、どの方もあんなことがあった私に擦り寄ってくるので気持ち悪くなってしまってね。王家と縁続きになるために、こんな私とでも結婚したいのか、と……そのせいで、きっと君もそうだと思い込み、あんな態度をとってしまった。本当に申し訳なかった」
私はあの日のことを素直に謝った。
「それは閣下の考えすぎで、本当に閣下と結婚したい令嬢もいたかもしれませんよ」
いないだろう。もし、いたとしてもあのタイプの女性とは結婚したくない。
「いないよ。私はもう終わった人なんだ。それに私と結婚しても、私には妻の家門に援助したり、特別扱いしたりする力はない。それらのことを望むなら、私ではなく王太子や栄えている貴族と結婚したほうが得だよ。私の領地はまだまだこれからで、それほど利益がたくさん出ているわけじゃないからね」
今の私にはなんの値打ちもない。
ミディアローズにはつい本心が出てしまう。
すると、ミディアローズ嬢がふっと笑った。
「見直しましたわ。ちゃんと領地経営をしていらっしゃるのですね。私はてっきり、領地のことは誰かに丸投げしているお飾り領主で、外聞が悪いので分家したものの王家の脛をかじっているのだと思っておりました」
辛辣だな。
でもきっと、この国の人間のほとんどがそう思っているのだろう。私はお飾り領主だと。
私が「手厳しいな」と言うと、「こんな失礼な人間なので、先日の話は破談にしていただいて結構ですよ」とミディアローズ嬢は返す。
「いや、破談にはしない。我が領地にはランドセン侯爵家の力が必要なんだ。侯爵から学びたいことがたくさんある」
私の言葉に、彼女は目を丸くした。
何かおかしなことを言っただろうか?
ミディアローズ嬢は信用できる。
周りの者は皆、私を腫れ物に触るように扱う。腹の中では愚かな元王太子と蔑んでいるくせに。
ところが彼女は、貴族なのに口に出すことと腹の中で思っていることが同じ。辛辣でも素直な言葉をどんどん発する。
今まで誰にもあんなふうなきつい言葉をかけられたことはなかった。
だから、結婚するなら、ミディアローズ嬢がいい。
何故か分からないが、幸せになれる気がする。
しかし、私が幸せになってもいいのだろうか……
いや、やっぱり幸せになど、なってはいけない。
ぐらぐらと落ち着かない私の心を見透かしているのだろうか? ミディアローズ嬢が私の目を真っ直ぐに見た。
「済んだことをいつまでもぐだぐだ後悔するのは、やめてください。閣下が魅了の魔法にかかったたことで不幸になったのは、閣下自身だけですよね。確かに婚約者のプライドは傷付けてしまいましたが、閣下との婚約を解消したことで彼女は好いた人と結婚できたそうですし、結果オーライです。閣下もいい加減に前を向いてください。魅了の魔法にかかったことを笑い話にするくらいになってください。そうする努力をしてくれるなら、結婚してもいいです」
その力強い言葉で、私の心は決まった。
ミディアローズ嬢についていこう。
彼女は私をこの底なし沼から引っ張り上げてくれる。私に進むべき道を指し示してくれ、手を引き、時には背中を押してくれる。いや、尻を蹴飛ばしてくれそうだ。
今まで私を引っ張ってくれる者など一人もいなかった。
私が皆を引っ張っていかねばならないと、ずっと考えていたのだ。
「努力する。約束しよう」
私はミディアローズ嬢にそう告げた。
十二歳も年下のこの令嬢が私を変えてくれる。私の本質を引き出してくれる。
今まで感じたことのない安堵感を覚える。
私は幸せになってもいいのだな。
あれから初めて、そう思えた。
第三章
私と公爵閣下の婚約が正式に決まった。
結婚式は三ヶ月後だと父に告げられる。
ちょっと待ってよ。
最初に婚約が決まったと言われた時は、淑女学校を卒業したら式を挙げる予定だったじゃない?
三ヶ月後なんてまだ学校を卒業していない。
「お父様、三ヶ月後って、私はまだ卒業していませんわ」
私は父を睨みつけた。
父は気まずそうな顔で視線を逸らす。
「一日も早くと陛下に頼まれてなぁ。断れなかったのだ」
「では、私は淑女学校中退ですか?」
中退なんて嫌だ。
自分でもびっくりするくらい怖い声が出る。
「いや、大丈夫だ。お前は成績だけは優秀だから、早めに卒業できるらしい」
成績だけはって、何よ。他はダメみたいじゃない。
「それも王家の圧力ですか?」
「いや、私は何も知らん。とにかく三ヶ月後だからな。あ~忙しい。忙しい」
父は逃げるように消えた。
「――ミディア、ウエディングドレスのことなんだけど、日にちがあまりないので王家で用意しようかと言ってくださっているの。それでいいかしら?」
あれから母は毎日、楽しそうにしている。
娘の結婚が決まり、はしゃいでいるようだ。
そりゃそうか。私は周りから結婚は無理だと言われていたのだから。
素の私を知る人たちからは、私のような跳ねっ返りを娶ってくれる奇特な男などいない、お金に困っている没落しかけの貴族子息なら借金を肩代わりして家を立て直すくらいの持参金をつければなんとか貰ってくれるかもしれない、などと酷い言われ方をしていた。
まぁ、公爵閣下だって似たようなもんだ。
できるなら結婚なんかせずに文官か騎士になりたかったなぁ。
あっ、思い出した。ポーレッタさんに頼まれていたことがあったんだ。
「お母様。デザインなどは王家にお任せでもいいですが、私の花嫁支度は全てエリスバン商会に頼んでくださいませ」
「エリスバン商会? うちとは取引してないけど?」
「それでも今回はエリスバン商会にお願いしてくださいませ。公爵閣下に婚約解消されたポーレッタさんの嫁ぎ先なのです。先日お会いした時に『花嫁道具は我が商会でお買い上げいただけると嬉しいですわ』とおっしゃっていました」
私がそう言うと、母はそれまでヘラヘラしていた顔から真顔になった。
「じゃあ、今回はエリスバン商会に頼みましょう。妃殿下にもお伝えするわ。あの方はエリスバン商会に嫁いでいたのね。平民に嫁いでご苦労されているでしょうけど、エリスバン商会ならお金の心配はなくて、良かったわ。私たちであの方の株を上げてあげなければなりませんね。お友達にも購入するように言うわ」
母は社交界でそれなりに力を持っていて、顔が広い。そのお陰で私がやりすぎても許されてきた、という一面もあった。
たくさんの貴族がエリスバン商会で買い物をしてくれたら、ポーレッタさんは喜んでくれるだろう。
正直なところ、私は花嫁道具もウエディングドレスもなんでもいい。全く興味がないのだ。
それより、フェノバール領のことが気になる。
あれから何度か公爵閣下と面会し、領地の状況を聞いた。
何年か前の干ばつで作物が全滅し、やっと雨が降ったら今度は豪雨で川が氾濫したのだそうだ。公爵閣下が領主になってから、父が河川工事や農地整備についてアドバイスし、今は少しずつ利益が出てきているらしい。
そういえば、うちの領地もお祖父様の代に河川が氾濫し大変だったそうだ。父が他国に留学して工事について学び対処した、と聞いたことがある。
今は母の尻に敷かれて頼りなく見える父だが、やる時はやるのかもしれないな。
私は父を見直した。
私も公爵閣下のお尻を叩いて、フェノバール領を豊かにしないといけない。
それにしても、公爵閣下の周りにはあまりにも人が少ない。
家令のセバスチャン、メイド頭のハンナ、従者のマイク、あとはコックとメイドくらいだ。特に護衛騎士がいないのには驚いた。
まぁ、王族だし、影はついているのだろうが。
とはいえ、もう少し動ける人や頭の使える人を増やさないといけない。そう、公爵閣下に進言しよう。
あぁ、結婚まで三ヶ月しかないのか。フェノバール領についてもっと深く勉強しておかなければ。
花嫁修業?
これでも私は侯爵令嬢。淑女学校でも優秀な成績だし、普段は猫を被れている程度にはマナーを身につけているので大丈夫。
私は嫁ぐというより、働きに行くような気分だった。
そうして、三ヶ月なんてあっという間に経ってしまった。
今日はもう結婚式。
もちろんこんな短期間に公爵閣下への愛が芽生えるわけもなく、私はすっかりフェノバール公爵家に就職し、公爵夫人という役職に就く気持ちだ。しかも住み込み。
閣下はさしずめ雇い主だな。
ウエディングドレスも花嫁道具もエリスバン商会にお願いした。
ドレスについては「三ヶ月しか製作期間がないけど大丈夫ですか?」と心配したが、ポーレッタさんは「お任せください。エリスバン商会の名にかけて素晴らしいものをお作りいたします」と請け負ってくれた。
それが今、私が着ているこれだ。
デザインは母と王妃殿下、ポーレッタさんがデザイナーさんと一緒にあーでもないこーでもないと話し合って決めたらしい。
まだ子供の私が着るのだし、きっとレースやフリルが使われた可愛いドレスができると思っていたのに、渡されたのはマーメイドラインのものだ。
白いシルクタフタの生地の上に薄いブロンドの羽根のような布が重なっている。その上に載せられたレースには薔薇の刺繍がされており、さらにエメラルドが鏤められていた。
ブロンドは公爵閣下の髪色、エメラルドは瞳の色。そして薔薇の刺繍は私の名前、ミディアローズのローズからきているらしい。
凝りに凝ったこんなドレス、よく三ヶ月で作ったなぁ。エリスバン商会凄いわ。
祭壇の前で私の隣に立つフェノバール公爵閣下は、私の髪色の黒のモーニングコートに私の瞳の色の紫のジレを合わせていた。
背が高く肩幅が広いので、よく似合っている。
彼の容姿は私もかっこいいと思う。
本当なら次期国王になっていた人だ。魅了の魔法にかからなければ私なんかと結婚することもなく、フェノバール領の運営に携わることもなかったのだろうな。
まぁでも、運命の輪は回ってしまったのだから仕方がない。
不意に、公爵が私に微笑みかけた。
「ミディアローズ嬢、そのドレス、よく似合っている。綺麗だ」
「ありがとうございます。公爵閣下も素敵ですよ」
綺麗と言われれば嬉しいものだ。
「ミディアローズ嬢、その……そろそろ公爵閣下はやめてもらえないだろうか。できればリカルドと呼んでほしい」
そっか、結婚するんだものね。
「では、私のことはミディアと」
「分かった。ミディア、これから私とフェノバール領をよろしく頼む」
「はい。リカルド様も私をよろしくお願いします。私が何かやらかした時は、一緒に謝りに行ってくださいましね」
「承知した」
公爵閣下……もとい、リカルド様ははにかんだような笑みを浮かべる。
可愛いな。
十二歳も年上の男性を可愛いと感じてしまった。
そんなふうに領地の教会での結婚式は滞りなく行われ、とりあえず私たちは永遠の愛を神に誓ったのだ。
誓いのキスは一瞬だけチュッと唇にリカルド様の唇が当たるもの。
それなのに彼は真っ赤な顔をしている。
二十七歳の男が唇にチュッとしたくらいで赤くなるのか? 乙女か?
私はちょっと呆れてしまった。
それはともかく、今日から私はフェノバール公爵夫人になる。
まだ十五歳。デビュタントも済んでないのに公爵夫人だよ。
まぁ、名前だけだけどね。
暫く社交界に出るつもりはないし、領地のために色々頑張ろう。
結婚式が終わってみんなを見送った後、私たちは屋敷に戻ってきた。
さっそく楽ちんなワンピースドレスに着替える。
結婚式では綺麗だったのよ、私。ウエディングドレスを着てお化粧をし髪を結い上げた姿は、まさにザ・侯爵令嬢。
あっ、結婚したからザ・公爵夫人か。
それがこれだもの。
式に参加していた人が今の姿を見たら、別人と思うかもしれない。
「奥様! 結婚したのですから、少しは奥様らしくしてくださいませ!」
ランドセン侯爵家からついてきてくれた侍女のメアリーに怒られる。
彼女はランドセン侯爵家の家令とメイド頭夫婦の娘だ。
子爵家に嫁いでいたのだが、子供に恵まれず離縁されてランドセン侯爵家に戻ってきたので、私付きの侍女兼教育係になった。
私が暴れん坊になったのは、決してメアリーが悪いわけではない。一緒にメアリーから学んでいた弟は賢い良い子になっているからだ。
要するに、私の性格は持って生まれたものらしい。
「奥様って、なんか変じゃない? 今までどおりミディアでいいわ」
とりあえず、彼女に呼び方の相談をしておく。
奥様なんて呼ばれたら背中が痒い。
私は他の使用人たちにもミディアと呼んでもらうことにした。
そうこうしているうちに夕飯の用意ができたとの知らせが来る。
私は急いでダイニングルームに向かった。
「ミディア、着替えたのか」
先に席についていたリカルド様はなんだか残念そうだ。
「あのドレスのほうが良かったですか?」
私は意地悪く言う。
「あれはあれだな。ずっとあれでは大変だろう」
何を言っているのか、よく分からない。
彼の言葉を無視して、食事をしながら明日の予定を相談する。
「リカルド様、明日から領地について詳しく教えてほしいのです。特に、父のアドバイスで工事したという河川が見たいです。予定が大丈夫なら馬で回りませんか?」
「馬車ではなく、馬でか?」
「はい。馬車では時間がかかるし、大袈裟すぎるでしょう? 馬でチャチャっと走って、たくさん回りたいのです」
私はできるだけ多くの場所を短期間で見たい。
「ミディアは馬に乗れるのか?」
「もちろんです。これでも騎士を目指していたこともあるんですよ、馬は得意です。そうだ、リカルド様は朝の鍛錬はされますか? もし、なさるなら私も一緒にしたいです」
「鍛錬?」
そう言ってリカルド様が固まる。馬に乗ったり鍛錬したりする女を見たことがないのかもしれないな。
「私は毎朝、剣の稽古として走ったり体操したりしています。リカルド様がされてないなら一人でやりますね」
「いや、やってる! 私もやってるから一緒にやろう」
やっぱり! リカルド様は身体を鍛えている感じだもん。早速、手合わせしてもらおう。
私はわくわくしてきた。
「ミディア様! お嫁入りしたばかりの夫人が、そんなことをおっしゃるもんじゃありません!」
メアリーが目を三角にして怒る。
角が生えてくるんじゃない?
「旦那様、セバス様、ハンナ様、こんなミディア様で申し訳ありません。このメアリー、命に代えても、ミディア様がまっとうな夫人になるように頑張る所存でございます」
「メアリー、命になど代えなくてもいい、死んでしまうぞ。ミディアはこのままでいいのだ。それにしても、明日から一緒に領地を見て回れるのは楽しみだな」
リカルド様はケラケラ笑っている。
「リカルド様の笑っている姿を見たのは何年振りでしょう? ミディア様、ありがとうございます」
思いがけず、セバスチャンにお礼を言われた。
リカルド様はそんなに長い間、笑ってなかったのか?
罪の意識に苛まれて笑わないようにしていたのかもしれない。何も悪くないのに苦しんで、おまけに後遺症に苦しんでもいる。
やっぱり魅了の魔法なんて使っちゃダメだ。
魔法じゃなくて、自分の力で魅了すれば問題なかったのに。
「どうしたの。難しい顔をしてるよ。そろそろ休もうか。今日は疲れただろう」
色々考えすぎて変な表情になっていたようだ。リカルド様に心配される。
「はい。疲れました。湯浴みをしてゴロゴロしたいです」
あっ、ゴロゴロしたいなんて言っちゃった。
思わずメアリーを見ると、やっぱり目が三角になっている。
「ゆっくり湯浴みしておいで。待ってるから」
待ってる? 待ってる? 待ってる!!
まさか! まさか! まさか!
初夜?
いゃ~、ないでしょう?
ない、ない。
私は挙動不審になりながらメアリーを伴って自室に戻ったのだった。
湯浴みをして、それほど可愛くない夜着を着せられる。
「初夜ですから、いかにも初夜らしい夜着にしようと思ったんですが、ミディア様が着た姿を想像したらぷっと笑ってしまったので、普通のものにしました」
メアリー~、笑うって何よ! 私だって一応女なんだからね。
私はぷう~っと頬を膨らませた。
「では、ミディア様、私は下がりますね。くれぐれも旦那様にご迷惑をお掛けしないでください」
メアリーが下がり、広い部屋に独りぼっちになる。
エリスバン商会にお任せした新しい私の部屋の家具は、シンプルですっきりしていた。そしてちょっとだけ可愛い。
ゴテゴテしていなければそれでいいとポーレッタさんに丸投げしたのだが、こんなに素敵な部屋にしてくれるとは驚きだ。
この部屋とリカルド様の部屋の間には夫婦の寝室がある。どちらの部屋からも出入りできるよう、夫婦の寝室にはそれぞれの部屋に続く扉があった。
一応、私の部屋にもベッドはあるのだが、今日はどこで寝るのだろう?
夫婦の寝室にはバカでかいベッドがある。エリスバン商会が結婚祝いに贈ってくれたもので、大人四人がゆっくり眠れるくらいの大きさだ。
――コンコン。
不意に寝室側のドアがノックされた。
「ミディア、起きてる?」
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