魅了が解けた元王太子と結婚させられてしまいました。 なんで私なの!? 勘弁してほしいわ!

金峯蓮華

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番外編・アーサーとルシア

出会い

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***
本の挿絵のアーサーがあまりにもカッコよかったので、アーサーのお話を書いてみたくなりました。リカルドとミディアにとってなくてはならないアーサーの恋のお話です。
不定期になると思いますが、できるだけ頑張って更新したいと思っています。
楽しんでもらえたら嬉しいです。


◆  ◇◇

「私達は身分が違います。お戯れはそのくらいにしてくださいませ」

 ルシアは気持ちを伝えた私を拒絶した。

 身分か。私はマイスタン家を出た身。今はただのアーサーでしかないのに。


◇◇ ◆

 兄のやらかし、父母の態度に絶望した私は魔力暴走を起こし、意識を失った。意識が戻ってからも気持ちの整理がつかず、拗らせて部屋に引きこもっていた。

 そんな私を日の当たる場所に引っ張り出してくれたのはリカルド様とミディア様だった。
 あの日、私はマイスタンを捨て、ただのアーサーとなり、それからはフェノバール家に仕えている。フェノバール領での日々はとてもやりがいがあり、楽しい。生きていてよかったと本当に思う。

 私は毎日フェノバール領の土壌改良にあちこちの農家を回っている。

「あの奥にも畑があるんですか?」

 畑の土壌改良を終えた私は農家の人に尋ねた。

「ああ、あそこは蚕さんをやっているんです」

「蚕さん?」

「ええ、絹糸ですよ。ここは元々絹織物が盛んだったんですが、度重なる天災で蚕さんも桑畑も全滅しちまって、糸が取れないから機織りする女衆も仕事変えしてね。ゴードンさんだけがもう一度絹織物をやると細々とやっているんですよ」

 絹織物か。うまくいけばフェノバール領産品の目玉になる。

「ゴードンさんてどんな人ですか?」

 情報収集は大事だ。行く前に探りを入れてみた。

「ゴードンさんは真面目で実直な人ですよ。元は子爵家の三男だったんで、品もあります。あの家は手広く養蚕と絹織物をやっていたんで、婿にきたんですよ」

 元は貴族か。しかし、真面目で実直な人なら話ができるだろう。

「この間、奥さんが怪我をして大変だったんだけど、王都で働いているルシアちゃんが戻ってきているから今は落ち着いているみたいだよ。でもなかなか治らないって言ってたなぁ」

 どう悪いのだろう?

「そうだ。アーサー様、魔法で治せないですか?」

「治せるよ」

「なら、ぜひ治してやってほしい。ゴードンさんも奥さんもいい人なんだよ」

「わかった。行ってみるよ」

 私はゴードンさんの家に向かった。

◇◇ ◇

「こんにちは。フェノバール公爵家からの派遣で土壌改良に回っているアーサーと申します」

 扉の前で大きな声で話す。

「はい。お待ちください」

 女性の声がし、少しして、扉が開いた。

「お待たせいたしました」

「急に来てすまない。私はアーサーと言う魔導士です。近くまで土壌改良に来て、お母上が怪我をしたと聞き参りました」

「私はゴードンが娘のルシアと申します。母の怪我ですか?」

 顔を上げたルシアを見た時、私の頭の中心に雷が落ちた気がした。

「はい。私は回復魔法が使えます。お母上の怪我も治せます」

 私がそう言うてルシアは目を伏せた。

「いくら魔導士様でも無理だと思います。せっかく来ていただいたのに申し訳ありません」

 ルシアは扉を閉めようとする。

「いや、見るだけでも。治せないかどうか私に判断させてください」

 私は母親の怪我などどうとでもなる。それよりルシアとこのまま別れてしまうのは嫌だ。なんとかルシアと話したい。そんな不埒な気持ちでいっぱいだった。

 ミディア様に見つかったらきっと殴られるだろう。

「それに養蚕についての提案もあるのです」

 口から出まかせだったが言ってみた。

 私がなかなか下がらないので、ルシアは諦めたようだ。

「父と話して参ります。少しお待ちいただけますか?」

 しばらく待っていると大柄の男が出てきた。

「初めてお目にかかります。ゴードンと申します。話は娘から聞きました。その、回復魔法とはなんでも元通りにできるのですか?」

 生きていれば、もちろん問題はない。

「問題ありません。命さえあれば元通りにできます」

 私がそう言うとゴードンさんは跪いた。

「お願いします。どうか妻を治してください。治してもらえたなら何でもします。お願いします」

 いやいや、何でもしますと言われても困る。私はただルシアに良いところを見せたいだけだ。邪な考えなのに。なんだか申し訳なくなった。

「何もいりませんよ。中に入ってもいいですか?」

 私は家の中に入った。

 夫人は椅子に腰掛けていた。ぱっと見はわからない。

「母は腰の骨を痛めてしまって、立つことも歩くこともできないのです。上半身は動くので座ったまま仕事はしてしますが……」

 ルシアは話しながら目を伏せた。

 ゴードンさんの話では仕事中に事故に遭い、その時、腰を打ったそうだ。それから下半身が麻痺してしまい動かなくなったらしい。医者に診せたがての施しようがないと言われた。ただ魔法医療の盛んな国なら治せると言われたそうだ。しかしそこに行く術もお金もない。

「こいつは小柄だし、私がこうやって運べばいいと諦めたんです」

 ゴードンさんは笑った。

「離縁してほしいと言ったんです。私はこの人や娘の足手纏いになりたくない。どこかの修道院にでも捨ててくれと言ったんですよ」

 夫人は哀しそうに微笑んだ。

「状態を見せてもらってもいいですか?」

 私は手をかざして夫人の腰をスキャンしてみた。

 なるほど。原因はわかった。

「治りますよ。魔法を流しますね」

 私はすぐに夫人の腰に回復魔法を流した。しばらく経つと魔力が入っていかなくなった。これは完治のしるしだ。

「治りましたよ。立ってみて下さい」

 私の言葉に夫人は半信半疑な顔をしている。ゴードンさんが手を取ると夫人はゆっくり立ち上がった。

「立てるわ。あなた、ひとりで立てるわ」

 夫人は涙を流している。

「歩いてみて下さい」

 私が言うと夫人は恐々歩き出した。

「夢みたい。もう一生歩けないと思っていたのに。ありがとうございます」

 よかった。私が微笑んでいると、ゴードンさん、ルシア、そのほかの家族も私の周りに集まり、みんな跪いた。

「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません。アーサー様の言うことはなんでも聞きます。何なりとおっしゃって下さい」

 いや、そんなことは望んでいない。

「何もありませんよ。私は絹織物をこのフェノバール領の特産物にしたいと思っています。皆さんに協力してもらえると嬉しいです。お願いできますか?」

「もちろんです。何でもやらせてもらいます」

「皆さん、頭を上げて下さい。一緒に頑張りましょう」

 ひょんなことでゴードンさん一家との距離が縮まった。

 私はただルシアと仲良くなりたかっただけなのだが……。

 それから毎日私の養蚕農家通いが始まった。
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