【完結】妻に逃げられた辺境伯に嫁ぐことになりました

金峯蓮華

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4話 辺境の地へ

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 その日のうちに婚約が決まった。

 まぁ、王命だし、決まったも何もないのだが、とにかく決まり、婚姻は半年後となった。

 どちらも2回目なので身内だけでこじんまりした婚姻式をする予定だ。

 面倒なので式などいらないと言ったが『貴族の結婚は家と家を繋ぐものでもあるから、皆に知ってもらわねばならない。それに辺境の地、グローズクロイツ領の民にもこの縁組を知ってもらわなければならぬ。婚姻式を行うのも王命だ』と国王陛下である伯父様がまた王命とおっしゃり、グローズクロイツ領の教会で式を挙げることになった。

 まさか2回も神様に誓うとは自分でも驚く。前の誓いはすぐに反故になったが、3回目の誓いは無しにしたい。

 母は、またセレナール商会を呼び、婚姻式に着るドレスの相談をしている。『前のでいいわ』と言ったら、鬼の形相で『そんな縁起の悪いドレス着る人なんて世界中探してもいないわ!』と怒鳴られた。

 あのドレスはセレナール商会が引き取ったらしい。私は商会の会頭が帰る時にこっそり『もったいないから、あのドレスをリサイクルできたらしてね』と言っておいた。


 半年の間に一度くらい、グローズクロイツ領に行きたいと言ったが、王都からかなり遠いらしく、婚姻式まではアルトゥール様と手紙のやり取りをし、領地の様子などを教えてもらうことになった。

 口は重いが、筆は軽いようで、アルトゥール様は結構マメに手紙をくれた。

 婚約者に送る手紙というよりは業務連絡のような硬い文章だったが、一生懸命に書いてくれているようで嬉しくなった。

 グローズクロイツ領はかなりの広さがあり、四季がある。特に冬は雪が降るので、皆、冬籠りをするらしい。

 ただ屋根のある施設が多くあるので、外敵から、領地や国を守る為の訓練は滞りなくできるらしい。

 あと、山や森がたくさんあり、自然が美しいそうだ。

 子供達のことも書いていた。

 上の子供は7歳の女の子。無口でいつも本を読んでいるそうだ。あの書き方を見るとアルトゥール様とは少し距離があるみたいだ。7歳ならもう母が出て行った理由もなんとなくわかるだろう。傷ついているだろうな。仲良くなれるように頑張ろう。

 そして下の子供は2歳の男の子。生まれてすぐに元奥さんは出て行ったらしい。なのでこの子は母親を全く知らない。子供達とは毎日食事は一緒に採るようにしているが、なかなか相手をする時間がなく、周りの人達に助けてもらっていると書いてあった。

 それにしても生まれたばかりの子供を捨てて、男と逃げるなんて、真実の愛って何よ? 私には理解不能だわ。母親にはなれないけど、家族になれればいいな。そう思う。


 私はこの半年の間、花嫁修行……なんかせず、辺境の地で役に立てるように、父と家令から領地の経営を学んだり、剣術や体術、馬術や魔法の訓練に明け暮れた。

 かなり力がついたように思う。辺境の地の騎士達の足を引っ張らないくらいの力はついたはずだ。



 そしてそうこうしているうちにグローズクロイツ領に出発する日がやってきた。

 グローズクロイツ領には、国王陛下夫妻も一緒に行くことになったので、王家だけが使える、移動魔法ができる魔道具の馬車に乗り、移動することになった。我が家は、両親、兄、弟達が式に出席する為に一緒に行く。

 帰りは、私と侍女のメアリー以外はまたその馬車で王都に戻る。

「ディー、辺境の地に嫁いでもおとなしくしているのだぞ。決して辺境伯殿を殴ったりしてはならんぞ」

 父は心配顔だ。

「あなた、何を言っているの? あんな大きな人、少しくらい殴ってびくともしないわ。口で言ってわからない時は拳で話せばいいのよ!」

 相変わらず母は苛烈だ。父は何度も首を振り、ダメだと目で私に言っている。

「そんなことにならないように頑張りますわ」

「ディーは頑張らなくていいの。頑張るのは婿殿よ」

 いやいや、そんなわけにはいかない。母は元王女だけあって、上からなのだ。母が嫁ぐわけではないのだから静観してほしいのだが、あれこれうるさい。まぁ、行ってしまえば距離も離れているし、何も言ってはこないだろう。

 私達は屋敷を出て、王宮に向かった。荷物はマジックボックスに入れ、先にグローズクロイツ領に飛ばしているので、馬車2台で行く。

 王宮に到着すると、伯父、伯母である国王陛下夫妻が待っていた。

「ディー、おめでとう。また花嫁衣装が見られて嬉しい」

「陛下、“また”などと仰ってはなりませんわ」

 伯父は失言を伯母に窘められている。

「ディー、陛下がごめんなさいね。アルトゥールは良い人だわ。幸せになるのよ」

 伯母が私をぎゅっとハグしてくれた。


 私達は馬車に乗り、グローズクロイツ領を目指した……と言っても魔法の瞬間移動だから一瞬で到着した。

 私の目の前には屋敷というより、まるで要塞のような重厚な建物があった。その建物は頑丈な石のようなもので作られているようだ。

「驚いたか。この屋敷は敵が襲ってきてもびくともしないような造りになっている。この、辺境の地はいつ何時、誰が攻めてくるかわからんからな」

 国王である伯父が小さな声で呟いた。

 そうか、これからは私もここでみんなと一緒にこの国を守っていくんだな。

 私は決意を新たにし足を一歩ふみだした。


***
夜にもう1話更新できそうです。
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