4 / 50
4話 辺境の地へ
しおりを挟む
その日のうちに婚約が決まった。
まぁ、王命だし、決まったも何もないのだが、とにかく決まり、婚姻は半年後となった。
どちらも2回目なので身内だけでこじんまりした婚姻式をする予定だ。
面倒なので式などいらないと言ったが『貴族の結婚は家と家を繋ぐものでもあるから、皆に知ってもらわねばならない。それに辺境の地、グローズクロイツ領の民にもこの縁組を知ってもらわなければならぬ。婚姻式を行うのも王命だ』と国王陛下である伯父様がまた王命とおっしゃり、グローズクロイツ領の教会で式を挙げることになった。
まさか2回も神様に誓うとは自分でも驚く。前の誓いはすぐに反故になったが、3回目の誓いは無しにしたい。
母は、またセレナール商会を呼び、婚姻式に着るドレスの相談をしている。『前のでいいわ』と言ったら、鬼の形相で『そんな縁起の悪いドレス着る人なんて世界中探してもいないわ!』と怒鳴られた。
あのドレスはセレナール商会が引き取ったらしい。私は商会の会頭が帰る時にこっそり『もったいないから、あのドレスをリサイクルできたらしてね』と言っておいた。
半年の間に一度くらい、グローズクロイツ領に行きたいと言ったが、王都からかなり遠いらしく、婚姻式まではアルトゥール様と手紙のやり取りをし、領地の様子などを教えてもらうことになった。
口は重いが、筆は軽いようで、アルトゥール様は結構マメに手紙をくれた。
婚約者に送る手紙というよりは業務連絡のような硬い文章だったが、一生懸命に書いてくれているようで嬉しくなった。
グローズクロイツ領はかなりの広さがあり、四季がある。特に冬は雪が降るので、皆、冬籠りをするらしい。
ただ屋根のある施設が多くあるので、外敵から、領地や国を守る為の訓練は滞りなくできるらしい。
あと、山や森がたくさんあり、自然が美しいそうだ。
子供達のことも書いていた。
上の子供は7歳の女の子。無口でいつも本を読んでいるそうだ。あの書き方を見るとアルトゥール様とは少し距離があるみたいだ。7歳ならもう母が出て行った理由もなんとなくわかるだろう。傷ついているだろうな。仲良くなれるように頑張ろう。
そして下の子供は2歳の男の子。生まれてすぐに元奥さんは出て行ったらしい。なのでこの子は母親を全く知らない。子供達とは毎日食事は一緒に採るようにしているが、なかなか相手をする時間がなく、周りの人達に助けてもらっていると書いてあった。
それにしても生まれたばかりの子供を捨てて、男と逃げるなんて、真実の愛って何よ? 私には理解不能だわ。母親にはなれないけど、家族になれればいいな。そう思う。
私はこの半年の間、花嫁修行……なんかせず、辺境の地で役に立てるように、父と家令から領地の経営を学んだり、剣術や体術、馬術や魔法の訓練に明け暮れた。
かなり力がついたように思う。辺境の地の騎士達の足を引っ張らないくらいの力はついたはずだ。
そしてそうこうしているうちにグローズクロイツ領に出発する日がやってきた。
グローズクロイツ領には、国王陛下夫妻も一緒に行くことになったので、王家だけが使える、移動魔法ができる魔道具の馬車に乗り、移動することになった。我が家は、両親、兄、弟達が式に出席する為に一緒に行く。
帰りは、私と侍女のメアリー以外はまたその馬車で王都に戻る。
「ディー、辺境の地に嫁いでもおとなしくしているのだぞ。決して辺境伯殿を殴ったりしてはならんぞ」
父は心配顔だ。
「あなた、何を言っているの? あんな大きな人、少しくらい殴ってびくともしないわ。口で言ってわからない時は拳で話せばいいのよ!」
相変わらず母は苛烈だ。父は何度も首を振り、ダメだと目で私に言っている。
「そんなことにならないように頑張りますわ」
「ディーは頑張らなくていいの。頑張るのは婿殿よ」
いやいや、そんなわけにはいかない。母は元王女だけあって、上からなのだ。母が嫁ぐわけではないのだから静観してほしいのだが、あれこれうるさい。まぁ、行ってしまえば距離も離れているし、何も言ってはこないだろう。
私達は屋敷を出て、王宮に向かった。荷物はマジックボックスに入れ、先にグローズクロイツ領に飛ばしているので、馬車2台で行く。
王宮に到着すると、伯父、伯母である国王陛下夫妻が待っていた。
「ディー、おめでとう。また花嫁衣装が見られて嬉しい」
「陛下、“また”などと仰ってはなりませんわ」
伯父は失言を伯母に窘められている。
「ディー、陛下がごめんなさいね。アルトゥールは良い人だわ。幸せになるのよ」
伯母が私をぎゅっとハグしてくれた。
私達は馬車に乗り、グローズクロイツ領を目指した……と言っても魔法の瞬間移動だから一瞬で到着した。
私の目の前には屋敷というより、まるで要塞のような重厚な建物があった。その建物は頑丈な石のようなもので作られているようだ。
「驚いたか。この屋敷は敵が襲ってきてもびくともしないような造りになっている。この、辺境の地はいつ何時、誰が攻めてくるかわからんからな」
国王である伯父が小さな声で呟いた。
そうか、これからは私もここでみんなと一緒にこの国を守っていくんだな。
私は決意を新たにし足を一歩ふみだした。
***
夜にもう1話更新できそうです。
まぁ、王命だし、決まったも何もないのだが、とにかく決まり、婚姻は半年後となった。
どちらも2回目なので身内だけでこじんまりした婚姻式をする予定だ。
面倒なので式などいらないと言ったが『貴族の結婚は家と家を繋ぐものでもあるから、皆に知ってもらわねばならない。それに辺境の地、グローズクロイツ領の民にもこの縁組を知ってもらわなければならぬ。婚姻式を行うのも王命だ』と国王陛下である伯父様がまた王命とおっしゃり、グローズクロイツ領の教会で式を挙げることになった。
まさか2回も神様に誓うとは自分でも驚く。前の誓いはすぐに反故になったが、3回目の誓いは無しにしたい。
母は、またセレナール商会を呼び、婚姻式に着るドレスの相談をしている。『前のでいいわ』と言ったら、鬼の形相で『そんな縁起の悪いドレス着る人なんて世界中探してもいないわ!』と怒鳴られた。
あのドレスはセレナール商会が引き取ったらしい。私は商会の会頭が帰る時にこっそり『もったいないから、あのドレスをリサイクルできたらしてね』と言っておいた。
半年の間に一度くらい、グローズクロイツ領に行きたいと言ったが、王都からかなり遠いらしく、婚姻式まではアルトゥール様と手紙のやり取りをし、領地の様子などを教えてもらうことになった。
口は重いが、筆は軽いようで、アルトゥール様は結構マメに手紙をくれた。
婚約者に送る手紙というよりは業務連絡のような硬い文章だったが、一生懸命に書いてくれているようで嬉しくなった。
グローズクロイツ領はかなりの広さがあり、四季がある。特に冬は雪が降るので、皆、冬籠りをするらしい。
ただ屋根のある施設が多くあるので、外敵から、領地や国を守る為の訓練は滞りなくできるらしい。
あと、山や森がたくさんあり、自然が美しいそうだ。
子供達のことも書いていた。
上の子供は7歳の女の子。無口でいつも本を読んでいるそうだ。あの書き方を見るとアルトゥール様とは少し距離があるみたいだ。7歳ならもう母が出て行った理由もなんとなくわかるだろう。傷ついているだろうな。仲良くなれるように頑張ろう。
そして下の子供は2歳の男の子。生まれてすぐに元奥さんは出て行ったらしい。なのでこの子は母親を全く知らない。子供達とは毎日食事は一緒に採るようにしているが、なかなか相手をする時間がなく、周りの人達に助けてもらっていると書いてあった。
それにしても生まれたばかりの子供を捨てて、男と逃げるなんて、真実の愛って何よ? 私には理解不能だわ。母親にはなれないけど、家族になれればいいな。そう思う。
私はこの半年の間、花嫁修行……なんかせず、辺境の地で役に立てるように、父と家令から領地の経営を学んだり、剣術や体術、馬術や魔法の訓練に明け暮れた。
かなり力がついたように思う。辺境の地の騎士達の足を引っ張らないくらいの力はついたはずだ。
そしてそうこうしているうちにグローズクロイツ領に出発する日がやってきた。
グローズクロイツ領には、国王陛下夫妻も一緒に行くことになったので、王家だけが使える、移動魔法ができる魔道具の馬車に乗り、移動することになった。我が家は、両親、兄、弟達が式に出席する為に一緒に行く。
帰りは、私と侍女のメアリー以外はまたその馬車で王都に戻る。
「ディー、辺境の地に嫁いでもおとなしくしているのだぞ。決して辺境伯殿を殴ったりしてはならんぞ」
父は心配顔だ。
「あなた、何を言っているの? あんな大きな人、少しくらい殴ってびくともしないわ。口で言ってわからない時は拳で話せばいいのよ!」
相変わらず母は苛烈だ。父は何度も首を振り、ダメだと目で私に言っている。
「そんなことにならないように頑張りますわ」
「ディーは頑張らなくていいの。頑張るのは婿殿よ」
いやいや、そんなわけにはいかない。母は元王女だけあって、上からなのだ。母が嫁ぐわけではないのだから静観してほしいのだが、あれこれうるさい。まぁ、行ってしまえば距離も離れているし、何も言ってはこないだろう。
私達は屋敷を出て、王宮に向かった。荷物はマジックボックスに入れ、先にグローズクロイツ領に飛ばしているので、馬車2台で行く。
王宮に到着すると、伯父、伯母である国王陛下夫妻が待っていた。
「ディー、おめでとう。また花嫁衣装が見られて嬉しい」
「陛下、“また”などと仰ってはなりませんわ」
伯父は失言を伯母に窘められている。
「ディー、陛下がごめんなさいね。アルトゥールは良い人だわ。幸せになるのよ」
伯母が私をぎゅっとハグしてくれた。
私達は馬車に乗り、グローズクロイツ領を目指した……と言っても魔法の瞬間移動だから一瞬で到着した。
私の目の前には屋敷というより、まるで要塞のような重厚な建物があった。その建物は頑丈な石のようなもので作られているようだ。
「驚いたか。この屋敷は敵が襲ってきてもびくともしないような造りになっている。この、辺境の地はいつ何時、誰が攻めてくるかわからんからな」
国王である伯父が小さな声で呟いた。
そうか、これからは私もここでみんなと一緒にこの国を守っていくんだな。
私は決意を新たにし足を一歩ふみだした。
***
夜にもう1話更新できそうです。
315
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる