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5話 子供達
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要塞のような屋敷の扉が開き、中からアルトゥール様と家令のような老紳士が出てきた。
「お待ち申し上げておりました。さぁ、中に。挨拶は中でいたしましょう」
アルトゥール様に促され、私達は屋敷の中に入る。重厚感のあるエントランスを過ぎ、廊下を進み、サロンのような部屋に入る。
広くて、趣味のいいナチュラルな感じの家具のある、落ち着くサロンだ。
多分アルトゥール様のご両親だろう。ソファーから立ち上がった。
「本日は遠いところをおいでいただきありがとうございます。陛下、妃殿下、姫様、アイゼンシュタット殿、ご無沙汰しております。ディートリント嬢お初にお目にかかります、アルトゥールが父親のカールハインツ・グローズクロイツと申す。こちらは妻のフローラ。今は隠居して、領地内の別邸で暮らしております。愚息のところへ嫁いできていただき、本当にありがとう」
義父に感謝されているようだ。
伯父は義父の肩をぽんと叩いた。
「カール、フローラ、久しぶりだな。いつも辺境を守ってくれてありがとう。ディーが嫁入りしたことだし、これからは瞬間移動馬車でちょくちょく来させてもらうよ。王都の人間は辺境のことを知らなさすぎる。辺境は住みやすい良いところだと私が宣伝しなければな」
そういえば、陛下と義父ははとこだったな。祖父が兄弟で、前々代の国王の弟が辺境伯であるグロースクライツ家に婿入りしたそうだ。だから母と義父もはとこ。私とアルトゥール様は、はとこの子供同士で何になるんだろ? まぁ、遠縁? 親戚? そんな感じね。
親達が和気藹々と話をしている。アルトゥール様が私の傍にきた。
「来てくれてありがとう。半年の間に気が変わるかと思ったよ」
「女に二言はありませんわ」
私はひっと口角を上げた。アルトゥール様も微笑み返す。
「ディー、子供達を紹介したいのだけれどいいかな?」
「もちろんですわ」
私達はサロンを出て子供部屋に向かった。
子供部屋は2階にあった。2階はアルトゥール様達のプライベートエリアだそうだ。子供部屋の他に夫婦の部屋もあるらしい。
「先に夫婦の部屋に案内するよ」
そう言うと、アルトゥール様は扉を開いた。
「ここは君の部屋だ。今までは母が使っていたので、改装し、家具も入れ替えたのだが、気に入らなかったら、やりかえてくれ」
母が使っていた?
「奥様ではなく? あっ、ごめんなさい」
失言だ。傷つけてしまったかな。私は恐る恐るアルトゥール様の顔を見た。
「謝らなくていいよ。元の妻とは別邸で暮らしていたんだ。ここに移ることが決まってあの人はすぐ消えてしまったから、ここには、全く住んでいないんだ」
「そうなのですか。その別邸に今はお義父達が?」
「いや、あの屋敷は父が激怒して壊してしまったんだ。領民達は私が激怒して壊したと思っているようだ。父の方が私より激情家なんだよ」
アルトゥール様はふっと笑う。無口なはずの人なのに、半年間手紙のやり取りをしたからか、ずいぶん打ち解け、話をしてくれている。
最初になんでも話をしよう。分かり合えるまで話そうと言ったことを実践してくれているのだろうか。
奥の扉を開けると夫婦の寝室、その奥の扉はアルトゥール様の部屋だという。
「君の部屋のこの扉から子供部屋に行けるんだ。私が小さい頃、母もよくここから私達の様子を見にきていたよ」
本当なら元奥様がそうしているはずだったのに。真実の愛か~。
私達はいったん部屋から出で、廊下側の扉から子供部屋に入った。
部屋には、50代位の乳母らしき女性が小さな子供をあやしていて、奥の机で女の子が本を読んでいた。
「エマ、いつも子供達を見てくれてありがとう。妻になることになったディートリントだ。よろしく頼む。ディー、うちのメイド頭のエマだ。エマは私の乳母だったんだ。今は子供達を見てくれている」
「ディートリントです。不束者ですが、よろしくお願いします」
私が頭を下げるとエマも頭を下げた。
「もったいのうございます。頭をお上げください。このような辺境の地に来ていただき、ありがとうございます。お心細いと思います。私共、使用人一同奥様を歓迎しております。誠心誠意お仕えいたします。なんなりとお申し付けくださいませ」
そんなにがっつり歓迎されるとは驚いた。元奥様を慕っている人もいるだろうから慣れるまで難しいかと思っていたのでびっくりだ。
「それにしても坊ちゃま。こんな可愛らしい方に来ていただけるなんて。大事にしなくてバチが当たりますよ。エマは嬉しくて嬉しくて……」
エマは泣き出してしまった。アルトゥール様はオロオロしている。
坊ちゃまって……。
私は必死で笑いをこらえた。
アルトゥール様はエマをなだめている。その姿を見ていると、足をつんつんされた。
足元に目をやると、天使のように可愛らしい子供が私を見上げて笑っている。
この子、アルトゥール様の子供? あら嫌だ。めちゃくちゃ可愛い。私はどうやら、その子に一目惚れをしたようだ。
「ディー、この子はリーンハルト、下の子だ2歳になる。人見知りなのに珍しいな」
人見知りなのか? 両手をあげて抱っこをねだるようなポーズをしたので、抱き上げてみたらキャッキャと笑っている。
「この絵本のお姫様だと思ったんじゃないかしら? リーンはいつもエマに読んでもらっているから」
奥から声がした。
「アンネリーゼ、私の妻になってくれるディートリントだ。仲良くしてほしい。ディー、娘のアンネリーゼだ」
大人っぽい子だな。子供らしくないような……。
「ディートリントです。よろしくお願いします。ディーと呼んでね」
「えっ? お義母様と呼ばなくていいの? 昨日、お祖母様にお義母様と呼びなさいと言われたの」
「あなたの好きにしていいわ」
アンネリーゼは驚いた顔をした。
「そ、そう。でもお父様、こんな小さくて華奢な絵本のお姫様みたいな人がこの地でやっていけるの?」
アルトゥール様を睨みつけるようにアンネリーゼは見上げる。
「リーゼ、まずは挨拶だろう。これからのことはおいおい決めればいい。それから、ディーは見た目は可愛いが私より屈強だ」
「お父様より?」
アルトゥール様の言葉にアンネリーゼは戸惑っているようだ。
それにしても屈強って……。
そんなこと初めて言われたわ。
「お待ち申し上げておりました。さぁ、中に。挨拶は中でいたしましょう」
アルトゥール様に促され、私達は屋敷の中に入る。重厚感のあるエントランスを過ぎ、廊下を進み、サロンのような部屋に入る。
広くて、趣味のいいナチュラルな感じの家具のある、落ち着くサロンだ。
多分アルトゥール様のご両親だろう。ソファーから立ち上がった。
「本日は遠いところをおいでいただきありがとうございます。陛下、妃殿下、姫様、アイゼンシュタット殿、ご無沙汰しております。ディートリント嬢お初にお目にかかります、アルトゥールが父親のカールハインツ・グローズクロイツと申す。こちらは妻のフローラ。今は隠居して、領地内の別邸で暮らしております。愚息のところへ嫁いできていただき、本当にありがとう」
義父に感謝されているようだ。
伯父は義父の肩をぽんと叩いた。
「カール、フローラ、久しぶりだな。いつも辺境を守ってくれてありがとう。ディーが嫁入りしたことだし、これからは瞬間移動馬車でちょくちょく来させてもらうよ。王都の人間は辺境のことを知らなさすぎる。辺境は住みやすい良いところだと私が宣伝しなければな」
そういえば、陛下と義父ははとこだったな。祖父が兄弟で、前々代の国王の弟が辺境伯であるグロースクライツ家に婿入りしたそうだ。だから母と義父もはとこ。私とアルトゥール様は、はとこの子供同士で何になるんだろ? まぁ、遠縁? 親戚? そんな感じね。
親達が和気藹々と話をしている。アルトゥール様が私の傍にきた。
「来てくれてありがとう。半年の間に気が変わるかと思ったよ」
「女に二言はありませんわ」
私はひっと口角を上げた。アルトゥール様も微笑み返す。
「ディー、子供達を紹介したいのだけれどいいかな?」
「もちろんですわ」
私達はサロンを出て子供部屋に向かった。
子供部屋は2階にあった。2階はアルトゥール様達のプライベートエリアだそうだ。子供部屋の他に夫婦の部屋もあるらしい。
「先に夫婦の部屋に案内するよ」
そう言うと、アルトゥール様は扉を開いた。
「ここは君の部屋だ。今までは母が使っていたので、改装し、家具も入れ替えたのだが、気に入らなかったら、やりかえてくれ」
母が使っていた?
「奥様ではなく? あっ、ごめんなさい」
失言だ。傷つけてしまったかな。私は恐る恐るアルトゥール様の顔を見た。
「謝らなくていいよ。元の妻とは別邸で暮らしていたんだ。ここに移ることが決まってあの人はすぐ消えてしまったから、ここには、全く住んでいないんだ」
「そうなのですか。その別邸に今はお義父達が?」
「いや、あの屋敷は父が激怒して壊してしまったんだ。領民達は私が激怒して壊したと思っているようだ。父の方が私より激情家なんだよ」
アルトゥール様はふっと笑う。無口なはずの人なのに、半年間手紙のやり取りをしたからか、ずいぶん打ち解け、話をしてくれている。
最初になんでも話をしよう。分かり合えるまで話そうと言ったことを実践してくれているのだろうか。
奥の扉を開けると夫婦の寝室、その奥の扉はアルトゥール様の部屋だという。
「君の部屋のこの扉から子供部屋に行けるんだ。私が小さい頃、母もよくここから私達の様子を見にきていたよ」
本当なら元奥様がそうしているはずだったのに。真実の愛か~。
私達はいったん部屋から出で、廊下側の扉から子供部屋に入った。
部屋には、50代位の乳母らしき女性が小さな子供をあやしていて、奥の机で女の子が本を読んでいた。
「エマ、いつも子供達を見てくれてありがとう。妻になることになったディートリントだ。よろしく頼む。ディー、うちのメイド頭のエマだ。エマは私の乳母だったんだ。今は子供達を見てくれている」
「ディートリントです。不束者ですが、よろしくお願いします」
私が頭を下げるとエマも頭を下げた。
「もったいのうございます。頭をお上げください。このような辺境の地に来ていただき、ありがとうございます。お心細いと思います。私共、使用人一同奥様を歓迎しております。誠心誠意お仕えいたします。なんなりとお申し付けくださいませ」
そんなにがっつり歓迎されるとは驚いた。元奥様を慕っている人もいるだろうから慣れるまで難しいかと思っていたのでびっくりだ。
「それにしても坊ちゃま。こんな可愛らしい方に来ていただけるなんて。大事にしなくてバチが当たりますよ。エマは嬉しくて嬉しくて……」
エマは泣き出してしまった。アルトゥール様はオロオロしている。
坊ちゃまって……。
私は必死で笑いをこらえた。
アルトゥール様はエマをなだめている。その姿を見ていると、足をつんつんされた。
足元に目をやると、天使のように可愛らしい子供が私を見上げて笑っている。
この子、アルトゥール様の子供? あら嫌だ。めちゃくちゃ可愛い。私はどうやら、その子に一目惚れをしたようだ。
「ディー、この子はリーンハルト、下の子だ2歳になる。人見知りなのに珍しいな」
人見知りなのか? 両手をあげて抱っこをねだるようなポーズをしたので、抱き上げてみたらキャッキャと笑っている。
「この絵本のお姫様だと思ったんじゃないかしら? リーンはいつもエマに読んでもらっているから」
奥から声がした。
「アンネリーゼ、私の妻になってくれるディートリントだ。仲良くしてほしい。ディー、娘のアンネリーゼだ」
大人っぽい子だな。子供らしくないような……。
「ディートリントです。よろしくお願いします。ディーと呼んでね」
「えっ? お義母様と呼ばなくていいの? 昨日、お祖母様にお義母様と呼びなさいと言われたの」
「あなたの好きにしていいわ」
アンネリーゼは驚いた顔をした。
「そ、そう。でもお父様、こんな小さくて華奢な絵本のお姫様みたいな人がこの地でやっていけるの?」
アルトゥール様を睨みつけるようにアンネリーゼは見上げる。
「リーゼ、まずは挨拶だろう。これからのことはおいおい決めればいい。それから、ディーは見た目は可愛いが私より屈強だ」
「お父様より?」
アルトゥール様の言葉にアンネリーゼは戸惑っているようだ。
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そんなこと初めて言われたわ。
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