【完結】妻に逃げられた辺境伯に嫁ぐことになりました

金峯蓮華

文字の大きさ
6 / 50

6話 使用人達

しおりを挟む
 夕食の後、使用人全てがホールに集められた。

 ほとんどの使用人はこの要塞のような屋敷の中の使用人住居棟で暮らしているそうだ。通いの人も近くに住んでいる。皆さん辺境の地、グローズクロイツ領出身の人だそうだ。

 義両親やさっき会ったエマ、家令らしき紳士も大柄だなと思ったが、使用人達も皆、やたら大きい。騎士団の人達と思われる塊はアルトゥール様までとは言わないが王都ではなかなかいないようなゴリマッチョ揃いだ。

 皆が揃ったところで、アルトゥール様が声を上げた。

「皆に紹介する。こちらは私に嫁いで来てくれることになったディートリントだ。明日、領地の教会で婚姻式を挙げる。そのあと、この屋敷で領地の皆を招待し、披露パーティーを行う。皆、忙しい中、用意をしてくれて有難う。ディートリントは辺境の地は初めてで慣れないことも多いと思う。皆、助けてやってほしい。よろしく頼む」

 みんながざわざわしている。きっと出戻りの令嬢が嫁いでくると聞いていたはず。イメージと違ったのだろう。私、見た目は妖精だからね。

「皆さん、よろしくお願いします」

 さっきエマに挨拶したのと同じように頭を下げた。

 なんだかキャーキャーと黄色い声が上がっている。

「頭を下げられたぞ」「なんと謙虚な」
「可愛い」「小さい」「妖精みたい」「デッカいアルトゥール様と大丈夫か?」とか、みんな口々に言ってくれている。

 誰も中身を知らないからね。ここでは猫を被る気はないからすぐにわかっちゃうわね。きっと。みんな幻滅しちゃうかな。

 アルトゥール様が話を続ける。

「そちらにいるのはディートリントについてきてくれた侍女のメアリーだ。皆、この辺境の地について色々教えてやってほしい」

 メアリーを見た。メアリーはまさか自分の紹介があるとは思っていなかったようでドギマギしているみたいだ。

「メ、メアリーでございます。ディー様とは子供の頃からのご縁でお仕えいたしております。ディー様と共にこの辺境の地に骨を埋めるつもりで参りました。皆様、よろしくお願いいたします」

 メアリー、そんな気持ちでついてきてくれたのね。嬉しくて泣いちゃうわ。

「では、解散。持ち場に戻ってくれ。ディーと顔を合わせた時にそれぞれ自己紹介をしてやってくれ」

「「「「「はい!」」」」

 お~ホールに声が響く。凄い!

 皆が解散したあと、私も部屋に下がろうしたが、アルトゥール様に声をかけられた。

「ディー、紹介しておく、うちの家令のヨハンだ。エマの夫なんだ。ふたりは若い頃からずっと我が家を支えてくれている。私にとっては使用人というより、叔父、叔母のような人達だ」

「奥様、ヨハンとお呼び下さい。こんな可愛らしい方が坊ちゃまの元に来てくださるなんて夢のようです。坊ちゃまに不満があればいつでもヨハンやエマにお伝えください。坊ちゃまにお灸を据えさせていただきます」

 ヨハンはくすりと笑う。

「有難うございます。ディートリントです。よろしくお願いします」

 アルトゥール様は少し困ったような顔をした。どうしたのかしら?

「そろそろ坊ちゃまはやめてくれないか。お前もエマもいつまでも坊ちゃま呼ばわりだ」

「申し訳ございません。善処いたします」

 あの顔は善処する気はないな。

 アルトゥール様は小さくため息を付き、傍にいる男性達の紹介を始めた。

「これはブルーノとコンラート。ブルーノは主に事務方の仕事をしてもらっている。コンラートは騎士団の団長で身体を動かす方の仕事をしてもらっている。どちらも私とは生まれた時から一緒にいる信頼できる奴らだ」

 二人ともかなり長身だ。さすがに事務方のブルート様は細身だが、身体は鍛えている感じだ。顔も綺麗だし王都に行ったらめちゃくちゃモテるだろう。コンラート様はゴリマッチョだが、顔は丸顔で可愛い。人が良さそうだ。

「ディートリントでございます。よろしくお願いします」

 私が礼を取り微笑むと、二人ともガチガチに固まっている。不思議に思いコテンと小首を傾げると、コンラート様が膝から崩れ落ちた。

「可愛い……妖精だ……」

 ヤバいわこの人。完全に誤解してる。

「ラート、明後日からディーが鍛錬に参加したいそうだ。初日は私も参加するが、これからはディーだけの日もあるだろうからよろしく頼む」

「へ? 鍛錬?」

 コンラート様は目をぱちくりしている。

「辺境の地の騎士団の鍛錬は実戦形式のものが多いとアル様から伺っております。王都ではなかなか実戦がないので最初は足手纏いになると思いますが、一生懸命がんばりますのでよろしくお願いします」

 私がそう言うと、コンラート様は真顔になった。

「な、何をおっしゃっているのか? こんなに華奢で可愛い姫様は私達に守られて下さい。アル! まさかお前、この妖精姫様に戦わせるつもりか!」

「本人の希望だからな。まぁ、頼むわ」

 コンラート様は納得がいかないような顔でアルトゥール様を睨んでいる。

 アルトゥール様は話を続ける。

「ブルーノとヨハンは領地経営のことを教えてやってほしい。女主人の仕事は母が教えるから……」

「アル、いきなりそんなに沢山は無理だろう。まずはこの地に慣れてもらう。家の仕事はそれからゆっくりでいいんじゃないか? 無理して姫様が壊れてしまったらどうする!」

 ブルーノ様もなんだかお怒りだわ。それに姫様って。私は姫じゃないんだけどなぁ。

 アルトゥール様は私の顔を見て微笑む。

「ディー、こいつらはそう言っているが、どうする?」

「コンラート様、ブルーノ様、大丈夫ですわ。私は見かけはこんなですが、体力はあります。やらせてみて下さい。ダメなら大人しく守られていますわ」

「ぷっ」

 メアリーが私の言葉に吹き出した。

「皆様、ご心配はごもっともでございますが、ディー様は見掛け倒しでございます。心配には及びません」

 メアリーの言葉にふたりは固まった。

「み、見掛け倒し?」

「はい。見掛け倒しでございます」

 メアリーは胸を張り、ふんと鼻を鳴らした。

 まぁ、そう言う事で、私の明後日からの鍛錬と執務も決まり、明日の婚姻式を待つばかりとなった。









しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

処理中です...