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レティシア・ゲイル
4話 フィリップ
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次はフィリップにしようかな。
フィリップは公爵令息。一人息子のせいか、両親に甘やかされていたからか性格が悪かった。
頭がいいこともあり、子供の頃からヴェルナー殿下のことを馬鹿にしていた。もちろん殿下は気が付いていない。殿下の前ではそんなそぶりは見せなかった。
私がいなければ殿下を傀儡し、自分が影の国王になれると思っていたみたい。私が処刑されていちばん喜んだのはフィリップかもしれない。いや、案外処刑を計画したのはフィリップだったのかもね。殿下はそんなこと思いつかないだろう。
フィリップの屋敷に行くと、軟禁どころか、屋敷の中で普通に過ごしていた。変装して街にも出ている。国王にチクってやろうかしら。
公爵夫妻も「お前は悪くない。お前は殿下と婚約者のゴタゴタに巻き込まれた被害者だ」なんて言っている。こりゃ、フィリップだけでなく、この両親も懲らしめなきゃダメだな。
私は幽霊姿を公爵夫妻に見えるように設定して屋敷の中をうろうろすることにした。もちろん、血みどろのパーティードレス。手には断首されて離れ離れになった頭を持っている。
最初に気がついたのは夫人だった。
「まさか、レティシア嬢なの?」
私は何も喋らず恨めしそうな顔をして夫人を見つめる。
「気のせいよね? 幽霊なんているわけないわ」
小さな声で呟く。よし、引っかかったな。
「気のせいじゃありません。無実の罪で処刑され、悔しくて天に上がれないのです。私は私を陥れた者達を許しません。そしてその者を野放しにしているあなたも許しません。あなたや公爵、フィリップに取り憑いて呪い殺します」
血まみれの手で夫人の頬に触れてみた。
夫人は真っ青を通り越し、真っ白な顔になった。
「フィリップは悪くないの。悪いのは殿下よ」
「お諌めするのが側近です。フィリップ様は殿下よりミランダ嬢と親密だったとか」
これはブルーノから聞いた話だ。ミランダは殿下、フィリップと深い関係にあったそうだ。殿下は気づいてなかったらしい。ブルーノはもう、私の犬みたいなものだから、なんでもペラペラ喋ってくれた。フィリップの事も色々と聞いた。
「ま、まさか、そんな」
「ミランダがフィリップの子を托卵し、ヴェルナー殿下に嫁ぎ、フィリップは側近として何食わぬ顔をして、王家を乗っ取るつもりらしいわ。これがバレたらこの公爵家はお取り潰しね。陛下の枕元に立ち、バラしてしまおうかしら。ふふふ」
夫人は色んな恐怖が重なり、固まっている。まぁ、そこまで考えていたかどうかわからないけど、冤罪には冤罪ね。陥れてあげるわ。フィリップ、ミランダ。
「あなた達がフィリップ達が無実の私を陥れたと新聞社にリークすれば許してあげる。謀反を企んでいたことは黙っていてあげるわ。フィリップを廃籍し、平民に落としなさい。さもなくば公爵家もあなた達も謀反の連帯責任で処刑よ」
夫人はブルブル震えている。幽霊も怖いけど、脅された内容はもっと怖いわよね。
夫人はとりあえずこんなものでいいか。次は公爵ね。
夫人は公爵の執務室に走って行った。公爵夫人とは思えないバタバタとした走りっぷりだ。
「あなた、あなた、大変です。一大事です」
公爵は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「また、フィリップか。もう勘弁してくれ」
「そ、それが……レティシア嬢が……来たの」
夫人は私が話したことを公爵に伝えた。
「ばかな。夢でも見ているのか? 幽霊などいるわけがない」
信用しないなら、出ちゃおうかしらね。
「閣下」
私はまたいつもの身体と頭が離れた血みどろの姿で公爵の肩をぽんと叩いた。
公爵は呼吸をするのを忘れているようで、目を見開き固まっている。
「夫人が話した事は本当です。フィリップ達が無実の私を陥れた罪を認め、公開しなければ謀反の企てを陛下にお伝えしますわ」
「幻覚だ。幽霊などいるわけがない。それに枕元に立ったところで陛下がそんな戯言を信じる訳がない」
往生際が悪い。
「幽霊はいるのですよ。陛下は小さい頃から実の娘のように私を可愛がってくれていましたもの。信じるに決まっていますわ」
頭を公爵に持たせてみた。首からは血がドクドクと流れ落ちている。公爵の手は血まみれだ。
夫人はそれを見て腰を抜かした。
「レティシア嬢、ごめんなさい。ごめんなさい」
「謝罪より、ご子息が私を陥れたとリークしてください。そうすれば公爵家は助かります。あなた方が口をつぐんで、フィリップを野放しにしていたら、私は陛下に謀反をお伝えするし、あなた方に取り憑いて呪います。家を潰し、重い病? それとも四肢欠損の大怪我がいいかしら? あっ、そうね。そんなことしなくても処刑されるわね。まぁ、お好きな方を選んで下さいね」
それからしばらく、姿を見せるだけで何も言わずに公爵夫妻をじっと見つめることにした。
夫人はとうとう寝込んでしまい、公爵も精神的なストレスからか、食事が摂れなくなったようで随分痩せた。大切な息子を切り捨てるか、それとも謀反の罪で捕まるか? ふたりはどちらを選ぶのだろう。
公爵夫妻はフィリップを捨てた。
フィリップがミランダのハニートラップに引っかかり、深い関係になり、ミランダに言われて私を陥れたて新聞社にリークしたのだ。
その上で、フィリップを廃籍し、平民に落とした。
ただ、「息子はミランダに騙された。息子も被害者なのだが、レティシア嬢があんなことになったのも息子が馬鹿だったからだ。あんな息子、もう公爵家とは関係ない」と言ったようだ。
フィリップの私財はわが公爵家に慰謝料として渡すと言ったが父は断った。父は私財の代わりにフィリップの身柄を預からせて欲しいと言い、夫妻は二つ返事で簡単にフィリップを手放した。
溺愛していた息子より家を取った貴族らしい公爵夫妻だった。
「父上、母上、なぜ私を捨てるのです。私は悪くないと言っていたではありませんか! 廃籍など、どうして! 悪いのはレティシアです!」
「ええぃ、うるさい! お前があの女と共謀しなければ、私達もこんなことをせずとも済んだのだ。王家に弓引くような息子はいらん。お前のせいでこの歴史ある公爵家を失うわけにはいかんのだ。もう、お前は息子でもなんでもない。さらばだ」
父に足蹴にされ、フィリップは夫人に縋りつこうとした。
「母上……」
「大切に育てたのに、恩を仇で返すような息子は要りません。どこへでも行きなさい」
冷たい顔で、ピシャリと扉を閉めた。
フィリップは我が家が用意した馬車に乗せられ、王宮の地下牢に入れられた。私が入れられていた牢だ。
「くそっ、父上、母上、裏切りやがって。ブルーノだ。あいつがチクリやがった」
悔しがっているが、もう全てがあとの祭りだ。フィリップには姿は見せないでおこう。
さぁ、次はコンラートのところに行こうかしらね。
⭐︎明日も21時更新予定です。よろしくお願いします。
フィリップは公爵令息。一人息子のせいか、両親に甘やかされていたからか性格が悪かった。
頭がいいこともあり、子供の頃からヴェルナー殿下のことを馬鹿にしていた。もちろん殿下は気が付いていない。殿下の前ではそんなそぶりは見せなかった。
私がいなければ殿下を傀儡し、自分が影の国王になれると思っていたみたい。私が処刑されていちばん喜んだのはフィリップかもしれない。いや、案外処刑を計画したのはフィリップだったのかもね。殿下はそんなこと思いつかないだろう。
フィリップの屋敷に行くと、軟禁どころか、屋敷の中で普通に過ごしていた。変装して街にも出ている。国王にチクってやろうかしら。
公爵夫妻も「お前は悪くない。お前は殿下と婚約者のゴタゴタに巻き込まれた被害者だ」なんて言っている。こりゃ、フィリップだけでなく、この両親も懲らしめなきゃダメだな。
私は幽霊姿を公爵夫妻に見えるように設定して屋敷の中をうろうろすることにした。もちろん、血みどろのパーティードレス。手には断首されて離れ離れになった頭を持っている。
最初に気がついたのは夫人だった。
「まさか、レティシア嬢なの?」
私は何も喋らず恨めしそうな顔をして夫人を見つめる。
「気のせいよね? 幽霊なんているわけないわ」
小さな声で呟く。よし、引っかかったな。
「気のせいじゃありません。無実の罪で処刑され、悔しくて天に上がれないのです。私は私を陥れた者達を許しません。そしてその者を野放しにしているあなたも許しません。あなたや公爵、フィリップに取り憑いて呪い殺します」
血まみれの手で夫人の頬に触れてみた。
夫人は真っ青を通り越し、真っ白な顔になった。
「フィリップは悪くないの。悪いのは殿下よ」
「お諌めするのが側近です。フィリップ様は殿下よりミランダ嬢と親密だったとか」
これはブルーノから聞いた話だ。ミランダは殿下、フィリップと深い関係にあったそうだ。殿下は気づいてなかったらしい。ブルーノはもう、私の犬みたいなものだから、なんでもペラペラ喋ってくれた。フィリップの事も色々と聞いた。
「ま、まさか、そんな」
「ミランダがフィリップの子を托卵し、ヴェルナー殿下に嫁ぎ、フィリップは側近として何食わぬ顔をして、王家を乗っ取るつもりらしいわ。これがバレたらこの公爵家はお取り潰しね。陛下の枕元に立ち、バラしてしまおうかしら。ふふふ」
夫人は色んな恐怖が重なり、固まっている。まぁ、そこまで考えていたかどうかわからないけど、冤罪には冤罪ね。陥れてあげるわ。フィリップ、ミランダ。
「あなた達がフィリップ達が無実の私を陥れたと新聞社にリークすれば許してあげる。謀反を企んでいたことは黙っていてあげるわ。フィリップを廃籍し、平民に落としなさい。さもなくば公爵家もあなた達も謀反の連帯責任で処刑よ」
夫人はブルブル震えている。幽霊も怖いけど、脅された内容はもっと怖いわよね。
夫人はとりあえずこんなものでいいか。次は公爵ね。
夫人は公爵の執務室に走って行った。公爵夫人とは思えないバタバタとした走りっぷりだ。
「あなた、あなた、大変です。一大事です」
公爵は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「また、フィリップか。もう勘弁してくれ」
「そ、それが……レティシア嬢が……来たの」
夫人は私が話したことを公爵に伝えた。
「ばかな。夢でも見ているのか? 幽霊などいるわけがない」
信用しないなら、出ちゃおうかしらね。
「閣下」
私はまたいつもの身体と頭が離れた血みどろの姿で公爵の肩をぽんと叩いた。
公爵は呼吸をするのを忘れているようで、目を見開き固まっている。
「夫人が話した事は本当です。フィリップ達が無実の私を陥れた罪を認め、公開しなければ謀反の企てを陛下にお伝えしますわ」
「幻覚だ。幽霊などいるわけがない。それに枕元に立ったところで陛下がそんな戯言を信じる訳がない」
往生際が悪い。
「幽霊はいるのですよ。陛下は小さい頃から実の娘のように私を可愛がってくれていましたもの。信じるに決まっていますわ」
頭を公爵に持たせてみた。首からは血がドクドクと流れ落ちている。公爵の手は血まみれだ。
夫人はそれを見て腰を抜かした。
「レティシア嬢、ごめんなさい。ごめんなさい」
「謝罪より、ご子息が私を陥れたとリークしてください。そうすれば公爵家は助かります。あなた方が口をつぐんで、フィリップを野放しにしていたら、私は陛下に謀反をお伝えするし、あなた方に取り憑いて呪います。家を潰し、重い病? それとも四肢欠損の大怪我がいいかしら? あっ、そうね。そんなことしなくても処刑されるわね。まぁ、お好きな方を選んで下さいね」
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夫人はとうとう寝込んでしまい、公爵も精神的なストレスからか、食事が摂れなくなったようで随分痩せた。大切な息子を切り捨てるか、それとも謀反の罪で捕まるか? ふたりはどちらを選ぶのだろう。
公爵夫妻はフィリップを捨てた。
フィリップがミランダのハニートラップに引っかかり、深い関係になり、ミランダに言われて私を陥れたて新聞社にリークしたのだ。
その上で、フィリップを廃籍し、平民に落とした。
ただ、「息子はミランダに騙された。息子も被害者なのだが、レティシア嬢があんなことになったのも息子が馬鹿だったからだ。あんな息子、もう公爵家とは関係ない」と言ったようだ。
フィリップの私財はわが公爵家に慰謝料として渡すと言ったが父は断った。父は私財の代わりにフィリップの身柄を預からせて欲しいと言い、夫妻は二つ返事で簡単にフィリップを手放した。
溺愛していた息子より家を取った貴族らしい公爵夫妻だった。
「父上、母上、なぜ私を捨てるのです。私は悪くないと言っていたではありませんか! 廃籍など、どうして! 悪いのはレティシアです!」
「ええぃ、うるさい! お前があの女と共謀しなければ、私達もこんなことをせずとも済んだのだ。王家に弓引くような息子はいらん。お前のせいでこの歴史ある公爵家を失うわけにはいかんのだ。もう、お前は息子でもなんでもない。さらばだ」
父に足蹴にされ、フィリップは夫人に縋りつこうとした。
「母上……」
「大切に育てたのに、恩を仇で返すような息子は要りません。どこへでも行きなさい」
冷たい顔で、ピシャリと扉を閉めた。
フィリップは我が家が用意した馬車に乗せられ、王宮の地下牢に入れられた。私が入れられていた牢だ。
「くそっ、父上、母上、裏切りやがって。ブルーノだ。あいつがチクリやがった」
悔しがっているが、もう全てがあとの祭りだ。フィリップには姿は見せないでおこう。
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