28 / 35
レティシア・バーレント
28話 アレンス王国の今
しおりを挟む
今のアレンス王国の状況を説明すると別の部屋に案内された。
この部屋は確か、重要な来賓用の部屋だ。重要な客扱いしてもらえてちょっと嬉しい。
扉をノックする音が聞こえてきた。
「失礼致します」
まさかこの声は?
入ってきたのは宰相であるゲイルの父だった。
「お待たせいたして申し訳ありません。バーレント王国の咲き誇る花であらせられます姫様にご挨拶いたします。私にアレンス王国の宰相をしております、ハインリッヒ・ゲイルと申します」
「丁寧なご挨拶ありがとう。レティシアです」
「レティシア?」
小さな声で呟き、顔を上げた。私が不思議そうな顔をしていたのだろう。
「申し訳ありません。亡くなった娘と同じ名前だったもので……」
「そうなのですか?」
「はい。姫様とは年齢も見た目も全く違うのですが、何故か娘とよく似ているような気がして……すみません」
暗い顔になったゲイルの父は目を伏せる。
「よろしくてよ。先程王妃殿下にも同じようなことを言われましたわ。何故だかわからないが全く似ていないのにレティシア嬢の面影があると涙を流されていました」
そりゃそうだろう。外見は別人だけど中身は同じなんだもの。まとう雰囲気は同じになってしまっても仕方ない。私自身は全く気づいてなかったが、ゲイル時代の私を知る人から見たら似ても似つかないのにそっくりなのだろう。
ゲイルの父から現在のアレンス王国の様子や新しく発足した軍隊の様子、そしてクレール王国や亡国ガイストの様子を説明された。
クレール王国の女王はなんとか解毒に成功し、回復に向かっているそうだ。ガイストから来た王配は捕らえられ、国家転覆罪や勝手に戦争を始めた罪で処刑され、今は元の側近達が戻り、国連に力を借りながら再生しているという。
近隣国に分配されたガイストはそれなりに馴染んでいるようだ。王族や高位貴族以外は、皆、貧困で税の取り立てや餓えに苦しんでいたため、違う国の一部になり、それが解消されたので、喜んでいるという。
ガイスト王がこの世界に与えていた害が取り除かれて良かった。
国連もアレンス王国が攻め込まれる前に動いてくれていれば良かったのに。
私達は軍隊の鍛錬場に案内された。
「姫様、おいででしたか」
副隊長が声をかけてきた。
「陛下をお守りできず、申し訳ありませんでした」
本当に申し訳なさそうに頭を下げている。
「父には護衛もついていたのだし、あなたが気に病むことはないわ。足の怪我もずいぶん癒えたようよ。ところで軍隊はどう?」
私の問いに大きく頷いた。
「アレンス王国は身体能力の高い者が多いので、すぐに戦力になると思います。今は騎士団も一緒に鍛錬していますが、いずれ
は我が国と同じように軍隊と騎士団は分けようと思っています」
「そうね。仕事内容が異なるし、軍隊は兼業でもいいものね」
バーレント王国の軍隊はほとんどが兼業だ。みんな普段は違う仕事についていて、有事の際に軍隊として稼働する。もちろん毎日の鍛錬は義務付けられているが、騎士と違い、毎日勤務することはない。
クレール王国との戦争で騎士では軍隊を相手に戦えないことが分かったようで、皆、真剣に軍隊としての鍛錬を受けているという。
鍛錬の輪を抜け、大柄でガタイのいい青年がこちらに走ってきて、副隊長に何やら話をしている。副隊長が私の顔を見た。
「姫様、王太子殿下を紹介します」
王太子?
王太子と言われた青年は私の前に跪いた。
「バーレント王国の咲き誇る花であらせられます姫にご挨拶申し上げます。私はアレンス王国が王太子、ジークハルト・アレンスです。この度はお世話になりありがとうございます。そして陛下を危険な目に合わせてしまい申し訳ありませんでした」
ジークハルト? あの可愛かったジークハルト様なの?
私の記憶の中にあるジークハルト様と、今目の前にいるジークハルト様があまりにも違いすぎて驚いてしまった。確か最後に会ったのは彼が留学する前だった。あれから7年位経ったのか。それにしても大きく育ったものだ。
「ご挨拶ありがとうございます。バーレント王国、国王が次女、レティシアでございます」
身体に染みついたカーテシーをしてみた。
「レ、レティシア?」
おっ、ジークハルト様もレティシアに反応したようだ。
「先程から妃殿下や宰相閣下もレティシアという名前に反応しておられました。皆様亡くなったレティシア嬢に思い入れがおありのようですね」
かまをかけたわけではないが。口からそんな言葉が飛び出していた。
「あぁ、そうでしたか。そうですね。レティシア嬢は大輪の真紅の薔薇のような人でした。強く、華やかで、しかし思慮深く、頭のいい。国中の皆に慕われていました。あの人が生きていたらクレール王国に攻め込まれることはなかったと思います。武芸に秀で戦略にも秀でていました。私達は国の宝を失ってしまった……」
ジークハルト様は辛そうな表情で目を伏せた。
あの、ジークハルト様、それはかなり過大評価しすぎよ。あんな死に方だったから良いイメージを持ちすぎだわ。
私はそこまで素晴らしくないわよ。持ち上げられすぎてむず痒くなる。
しかも国の宝って? いつから宝になったのよ。
よくよく聞けば私は神のような扱いを受けているらしい。
亡くなってから3年。神格化されていた以前の自分に驚き、戸惑ってしまった。
この部屋は確か、重要な来賓用の部屋だ。重要な客扱いしてもらえてちょっと嬉しい。
扉をノックする音が聞こえてきた。
「失礼致します」
まさかこの声は?
入ってきたのは宰相であるゲイルの父だった。
「お待たせいたして申し訳ありません。バーレント王国の咲き誇る花であらせられます姫様にご挨拶いたします。私にアレンス王国の宰相をしております、ハインリッヒ・ゲイルと申します」
「丁寧なご挨拶ありがとう。レティシアです」
「レティシア?」
小さな声で呟き、顔を上げた。私が不思議そうな顔をしていたのだろう。
「申し訳ありません。亡くなった娘と同じ名前だったもので……」
「そうなのですか?」
「はい。姫様とは年齢も見た目も全く違うのですが、何故か娘とよく似ているような気がして……すみません」
暗い顔になったゲイルの父は目を伏せる。
「よろしくてよ。先程王妃殿下にも同じようなことを言われましたわ。何故だかわからないが全く似ていないのにレティシア嬢の面影があると涙を流されていました」
そりゃそうだろう。外見は別人だけど中身は同じなんだもの。まとう雰囲気は同じになってしまっても仕方ない。私自身は全く気づいてなかったが、ゲイル時代の私を知る人から見たら似ても似つかないのにそっくりなのだろう。
ゲイルの父から現在のアレンス王国の様子や新しく発足した軍隊の様子、そしてクレール王国や亡国ガイストの様子を説明された。
クレール王国の女王はなんとか解毒に成功し、回復に向かっているそうだ。ガイストから来た王配は捕らえられ、国家転覆罪や勝手に戦争を始めた罪で処刑され、今は元の側近達が戻り、国連に力を借りながら再生しているという。
近隣国に分配されたガイストはそれなりに馴染んでいるようだ。王族や高位貴族以外は、皆、貧困で税の取り立てや餓えに苦しんでいたため、違う国の一部になり、それが解消されたので、喜んでいるという。
ガイスト王がこの世界に与えていた害が取り除かれて良かった。
国連もアレンス王国が攻め込まれる前に動いてくれていれば良かったのに。
私達は軍隊の鍛錬場に案内された。
「姫様、おいででしたか」
副隊長が声をかけてきた。
「陛下をお守りできず、申し訳ありませんでした」
本当に申し訳なさそうに頭を下げている。
「父には護衛もついていたのだし、あなたが気に病むことはないわ。足の怪我もずいぶん癒えたようよ。ところで軍隊はどう?」
私の問いに大きく頷いた。
「アレンス王国は身体能力の高い者が多いので、すぐに戦力になると思います。今は騎士団も一緒に鍛錬していますが、いずれ
は我が国と同じように軍隊と騎士団は分けようと思っています」
「そうね。仕事内容が異なるし、軍隊は兼業でもいいものね」
バーレント王国の軍隊はほとんどが兼業だ。みんな普段は違う仕事についていて、有事の際に軍隊として稼働する。もちろん毎日の鍛錬は義務付けられているが、騎士と違い、毎日勤務することはない。
クレール王国との戦争で騎士では軍隊を相手に戦えないことが分かったようで、皆、真剣に軍隊としての鍛錬を受けているという。
鍛錬の輪を抜け、大柄でガタイのいい青年がこちらに走ってきて、副隊長に何やら話をしている。副隊長が私の顔を見た。
「姫様、王太子殿下を紹介します」
王太子?
王太子と言われた青年は私の前に跪いた。
「バーレント王国の咲き誇る花であらせられます姫にご挨拶申し上げます。私はアレンス王国が王太子、ジークハルト・アレンスです。この度はお世話になりありがとうございます。そして陛下を危険な目に合わせてしまい申し訳ありませんでした」
ジークハルト? あの可愛かったジークハルト様なの?
私の記憶の中にあるジークハルト様と、今目の前にいるジークハルト様があまりにも違いすぎて驚いてしまった。確か最後に会ったのは彼が留学する前だった。あれから7年位経ったのか。それにしても大きく育ったものだ。
「ご挨拶ありがとうございます。バーレント王国、国王が次女、レティシアでございます」
身体に染みついたカーテシーをしてみた。
「レ、レティシア?」
おっ、ジークハルト様もレティシアに反応したようだ。
「先程から妃殿下や宰相閣下もレティシアという名前に反応しておられました。皆様亡くなったレティシア嬢に思い入れがおありのようですね」
かまをかけたわけではないが。口からそんな言葉が飛び出していた。
「あぁ、そうでしたか。そうですね。レティシア嬢は大輪の真紅の薔薇のような人でした。強く、華やかで、しかし思慮深く、頭のいい。国中の皆に慕われていました。あの人が生きていたらクレール王国に攻め込まれることはなかったと思います。武芸に秀で戦略にも秀でていました。私達は国の宝を失ってしまった……」
ジークハルト様は辛そうな表情で目を伏せた。
あの、ジークハルト様、それはかなり過大評価しすぎよ。あんな死に方だったから良いイメージを持ちすぎだわ。
私はそこまで素晴らしくないわよ。持ち上げられすぎてむず痒くなる。
しかも国の宝って? いつから宝になったのよ。
よくよく聞けば私は神のような扱いを受けているらしい。
亡くなってから3年。神格化されていた以前の自分に驚き、戸惑ってしまった。
570
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
婚約破棄された地味令嬢は、無能と呼ばれた伯爵令息と政略結婚する ~あなたが捨てたのは宝石でした~
新川 さとし
恋愛
「地味で可愛げがない」と婚約破棄された侯爵令嬢クリスティーヌ。
王子の政務を陰で支え続けた功績は、すべて無かったことにされた。
居場所を失った彼女に差し出されたのは、“無能”と噂される伯爵令息ノエルとの政略結婚。
しかし彼の正体は、顔と名前を覚えられない代わりに、圧倒的な知識と判断力を持つ天才だった。
「あなたの価値は、私が覚えています」
そう言って彼の“索引(インデックス)”となることを選んだクリスティーヌ。
二人が手を取り合ったとき、社交界も、王家も、やがて後悔することになる。
これは、不遇な二人が“最良の政略結婚”を選び取り、
静かに、確実に、幸せと評価を積み上げていく物語。
※本作は完結済み(全11話)です。
安心して最後までお楽しみください。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します
112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。
三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。
やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。
するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。
王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる