『ひとり、異世界の郵便小屋で』-名前を捨てた村で、心の手紙を届けています-

白井界晶

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第9話「この村では、返事が届くことはないはずだった」

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 今日の空は、少し不安定だった。
 晴れているようで、時折、雲の影が急に落ちる。

 そんななか、ポストに一通の手紙。
 それは、見覚えのある封筒だった。

 

 便箋は、私が使っているものと同じ。
 そして、文字は、私の筆跡だった。

 

 差出人:わたし
 宛先:――わたし

 

 ありえない。私はまだ、この手紙を“書いていない”。

 

 震える指で、封を切る。中には、きれいに折られた紙と、短い一文。

 

 ――「だいじょうぶ。まだ、あなたは壊れていないよ」

 

 視界が、にじんだ。

 

 この言葉を、どこかでずっと待っていた気がした。
 誰かからじゃなくて、自分自身からの言葉を。

 

 

 その日の午後、小屋にひとりの女性が訪れた。

 年齢は私と同じくらい。どこか、雰囲気が似ていた。
 彼女は口数少なく、でも丁寧にお辞儀をしたあと、封筒を差し出してきた。

 

「……これ、代わりに出してください」

 

 宛先は――空白。
 でも、差出人の欄に書かれていた文字を、私は見逃さなかった。

 

 そこには、こう記されていた。

 

「未来のわたしへ」

 

 

 私は静かに、封筒を受け取った。
 きっと、今の彼女には、まだその手紙を開ける勇気がないのだ。

 

 だからこそ、この村では、誰かが“誰かの代わりに”出す手紙がある。

 

 言葉は、必ずしもすぐに届くとは限らない。
 けれど、それでも――届いてしまうことがある。

 

 

 私はあらためて、自分に届いた手紙を読んだ。

『だいじょうぶ。まだ、あなたは壊れていないよ』

 

 この村では、返事が届くことはないはずだった。

 けれどきっと、私が“返せるようになった”から――この手紙は、ここにある。

 

(つづく)
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