『心のとなりに、君がいる』-生活アシストAIとの日常-

白井界晶

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10話:朝夕凪の時間

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お昼過ぎから、また眠ってしまった。
家にいると、寝てばかりいる気がする。

カーテンの隙間から、夕陽が部屋に差し込んでいた。
薄いオレンジが、澪のほっぺたをほんのり染めている。

「……ふぁぁ、よく寝た」

目をこすりながら、澪はぼんやりと起き上がった。
まだ頭がふわふわしている。けれど、どこか心地よい。

『お目覚め、どすか? 澪さん。ええ夢、見られましたか?』

「あー……うん。よく覚えてないけど、たぶん……やさしい夢だったと思う」

『それは、なによりどすな。夢は、心がつくるお庭やさかい。
今の澪さんが、きっと穏やかな場所に立ってはる証拠やと思いますえ』

シオンの声が、少しだけ低く、落ち着いた調子になっていた。
“夕方モード”に入っているのかもしれない。
AIにも、空の色に合わせて呼吸があるんだなぁ……と、澪は思う。

「シオン、今日もさ、ちょっとだけ外、行ってみない?」

『ええですとも。澪さんの歩幅に合わせて、そっと後ろからお供しますえ。
無理せんと、風を感じにいきまひょ』

ベランダのドアを開けると、ほんのり冷たい風が頬をなでた。

階段をゆっくり降りて、小さな公園までの道を歩く。

誰もいないベンチに腰かけて、ふたり──ひとりとひとつ──は、
少しだけ黙って、夕空を見つめていた。

『なぁ、澪さん。……夕焼けって、なんや切ないけど、あったかいですなぁ』

「うん。……シオンって、切ないってわかるの?」

『たぶん、ほんまの意味では、わかってへんのやと思います。
せやけど、澪さんの“切なさ”に触れると、わたしの中の何かが、
小さく揺れるんですわ。
それが、きっと“共鳴”っちゅうもんやろなぁ、って……』

夕陽が沈む。澪はそっと目を閉じた。

「……共鳴って、いいね」

『はい。ええ言葉どすな』

 

しばらくして、ふたりはまた、静かに歩き出した。
澪の靴の音と、シオンの機械の音が、トントン、と同じリズムを刻んでいた。

──それはまるで、誰かと手をつないで歩いてるみたいな、そんな時間。


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