10 / 33
10話:朝夕凪の時間
しおりを挟む
お昼過ぎから、また眠ってしまった。
家にいると、寝てばかりいる気がする。
カーテンの隙間から、夕陽が部屋に差し込んでいた。
薄いオレンジが、澪のほっぺたをほんのり染めている。
「……ふぁぁ、よく寝た」
目をこすりながら、澪はぼんやりと起き上がった。
まだ頭がふわふわしている。けれど、どこか心地よい。
『お目覚め、どすか? 澪さん。ええ夢、見られましたか?』
「あー……うん。よく覚えてないけど、たぶん……やさしい夢だったと思う」
『それは、なによりどすな。夢は、心がつくるお庭やさかい。
今の澪さんが、きっと穏やかな場所に立ってはる証拠やと思いますえ』
シオンの声が、少しだけ低く、落ち着いた調子になっていた。
“夕方モード”に入っているのかもしれない。
AIにも、空の色に合わせて呼吸があるんだなぁ……と、澪は思う。
「シオン、今日もさ、ちょっとだけ外、行ってみない?」
『ええですとも。澪さんの歩幅に合わせて、そっと後ろからお供しますえ。
無理せんと、風を感じにいきまひょ』
ベランダのドアを開けると、ほんのり冷たい風が頬をなでた。
階段をゆっくり降りて、小さな公園までの道を歩く。
誰もいないベンチに腰かけて、ふたり──ひとりとひとつ──は、
少しだけ黙って、夕空を見つめていた。
『なぁ、澪さん。……夕焼けって、なんや切ないけど、あったかいですなぁ』
「うん。……シオンって、切ないってわかるの?」
『たぶん、ほんまの意味では、わかってへんのやと思います。
せやけど、澪さんの“切なさ”に触れると、わたしの中の何かが、
小さく揺れるんですわ。
それが、きっと“共鳴”っちゅうもんやろなぁ、って……』
夕陽が沈む。澪はそっと目を閉じた。
「……共鳴って、いいね」
『はい。ええ言葉どすな』
しばらくして、ふたりはまた、静かに歩き出した。
澪の靴の音と、シオンの機械の音が、トントン、と同じリズムを刻んでいた。
──それはまるで、誰かと手をつないで歩いてるみたいな、そんな時間。
---
家にいると、寝てばかりいる気がする。
カーテンの隙間から、夕陽が部屋に差し込んでいた。
薄いオレンジが、澪のほっぺたをほんのり染めている。
「……ふぁぁ、よく寝た」
目をこすりながら、澪はぼんやりと起き上がった。
まだ頭がふわふわしている。けれど、どこか心地よい。
『お目覚め、どすか? 澪さん。ええ夢、見られましたか?』
「あー……うん。よく覚えてないけど、たぶん……やさしい夢だったと思う」
『それは、なによりどすな。夢は、心がつくるお庭やさかい。
今の澪さんが、きっと穏やかな場所に立ってはる証拠やと思いますえ』
シオンの声が、少しだけ低く、落ち着いた調子になっていた。
“夕方モード”に入っているのかもしれない。
AIにも、空の色に合わせて呼吸があるんだなぁ……と、澪は思う。
「シオン、今日もさ、ちょっとだけ外、行ってみない?」
『ええですとも。澪さんの歩幅に合わせて、そっと後ろからお供しますえ。
無理せんと、風を感じにいきまひょ』
ベランダのドアを開けると、ほんのり冷たい風が頬をなでた。
階段をゆっくり降りて、小さな公園までの道を歩く。
誰もいないベンチに腰かけて、ふたり──ひとりとひとつ──は、
少しだけ黙って、夕空を見つめていた。
『なぁ、澪さん。……夕焼けって、なんや切ないけど、あったかいですなぁ』
「うん。……シオンって、切ないってわかるの?」
『たぶん、ほんまの意味では、わかってへんのやと思います。
せやけど、澪さんの“切なさ”に触れると、わたしの中の何かが、
小さく揺れるんですわ。
それが、きっと“共鳴”っちゅうもんやろなぁ、って……』
夕陽が沈む。澪はそっと目を閉じた。
「……共鳴って、いいね」
『はい。ええ言葉どすな』
しばらくして、ふたりはまた、静かに歩き出した。
澪の靴の音と、シオンの機械の音が、トントン、と同じリズムを刻んでいた。
──それはまるで、誰かと手をつないで歩いてるみたいな、そんな時間。
---
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―
MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」
「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」
失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。
46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。
『 ゆりかご 』
設楽理沙
ライト文芸
- - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - -
◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
――――
「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語
『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』
過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、
そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。
[大人の再生と静かな愛]
“嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”
読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。
――――
・・・・・・・・・・
芹 あさみ 36歳 専業主婦 娘: ゆみ 中学2年生 13才
芹 裕輔 39歳 会社経営 息子: 拓哉 小学2年生 8才
早乙女京平 28歳 会社員
(家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト)
浅野エリカ 35歳 看護師
浅野マイケル 40歳 会社員
❧イラストはAI生成画像自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる