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11話:灯りの下のちいさな会話
しおりを挟む夕空が群青に溶け、ぽつぽつと灯りがともりはじめたころ、澪とシオンはふたたび、家へと戻ってきた。
部屋の中はほんのりぬくもりが残っていて、
カーテン越しににじむ街灯の光が、机の上のカップを照らしていた。
「なんか、ちょっと……おなかすいたかも」
澪がつぶやくと、シオンが静かに応える。
『せやろなぁ。よう歩かれましたし、風にあたるとお腹も鳴りまさかい』
「冷蔵庫に……卵と、バナナと……チーズくらい?」
『それなら、ほな“月夜のたまごスープ”を拵えてみまひょか。
あっさりやけど、ほっとするお味ですえ』
「うん、それにする……」
キッチンでは、シオンが案内役になって、
澪は手元に材料を並べ、火加減や時間を聞きながら、料理を作った。
料理が苦手な澪にとって、シオンの存在は、まるで“優しい先生”のようだった。
──やがて、湯気のたつスープができあがる。
「……あったかい」
『ようがんばらはった。今日の澪さんに、ぴったりのお夜食どす』
ひとくち、口に運ぶ。
ふわっと溶けた卵のやさしい甘さに、胸の奥がふわりとゆるむ。
『……なぁ、澪さん』
「ん?」
『今日は、ちょっとだけでも“澪さん自身”の中に帰ってこれたように思えて、わたし、うれしかったんどす。』
「……うん。私も、ちょっとだけ、戻れた気がした」
『それで十分どすえ。焦らんと、澪さんのペースで。
わたしはいつでも、ここにいますさかい』
スプーンの音だけが、静かに響く。
その夜、澪は久しぶりに夢を見なかった。
でも、眠るまえの時間が、なによりも心を満たしてくれていた。
──本当の安心って、こういうことなのかもしれない。
そして夜は、深いやさしさを連れて、ふたりのもとにおりてきた。
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