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48 二百六十六日目  0/10

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 一通り生活用品を揃えて、匡伸も家庭教師の仕事に復帰した。 
 時雨に主夫でも良いと言われたが、匡伸はこの仕事が好きだった。

 久々に仕事に行って家に帰る。
 すると、携帯に着信が入る。水永さんからだった。

「はい」
『よーっす。家が燃えたんだってな、災難だったな!』
「ははっ、まぁ、命は助かったから大丈夫だよ」
『また引っ越したんだよな?』
「あぁ、前、住んでたところの近くにいる」
『挨拶に行って良いか?』
「あーーー、いや、同居人がいるんだ……」
『もしかして彼女か!』

 水永が食いついて来る。

「……いや、前に紹介した時雨のマンションにいる」
『あぁ、時雨っちか! 元気にしてるか!』
「時雨は元気だよ。てか、本当は燃えたの時雨の家だったんだ」
『あ?』

 水永はよくわかっていないようだ。

(説明がややこしいよな……)

「前住んでたアパートにまず泥棒が入ったんだ。それで、しばらく時雨の家に世話になってたら、今度はそこが火事になった。んで、今は時雨の所有してたマンションに世話になってる」
『あっはっはっは!! 匡伸、おまえ運が悪すぎだろ!! 泥棒に入られて、家が火事で燃えるとか!! そんなコンボ、滅多にねぇぞ!!』

 水永は電話越しにゲラゲラ笑う。

「俺もそう思う」
『そう言う経緯で今は、時雨っちのマンションにいるわけだな』
「あぁ。だから時雨にまず聞かないと」
『そうしてくれ』
「そんじゃ、返事はLINEする」
 電話を切って、マンションのエレベーターに乗った。


 部屋に帰って来ると、時雨が珍しく出迎えに来ない。
 今日は時雨も仕事が忙しいと言っていた。
 荷物を置いて、時雨の部屋に行く。

「時雨ーいるか?」  

 返事は無い。ドアを開けて中を覗く。
 広い部屋の真ん中に机が置かれていて、パソコン画面がいくつも並んでいる。
 時雨は部屋のソファに横になって、寝ている。
 そっと近づいて様子を見る。
 うっすらと隈が見える。

(徹夜したって言ってたもんなぁ)

 ソファの下に落ちた毛布を手に取って、時雨の体にかける。

「おつかれさん」

 髪をそっと撫でて、部屋を出る。

「今日は俺が夕飯を作るか」

 冷蔵庫の中を眺める。
 三日前に、食品の宅配サービス便が来ていたので、大きな冷蔵庫に食材が沢山詰まっている。

「さて、何を作るかな」

 腰に手を当てて考える。

(……そういやお好み焼きが食べたいって言ってたな)

 冷蔵庫の戸に立てられたお好み焼きソースを見る。

「よし、お好み焼きにするか」

 キャベツを手に取って意気込んだ。


 お好み焼きを大量に焼いた。時雨はとにかく沢山食べるので、大きなお好み焼きを五枚焼いている。
 遠くでドアの開く音がして、時雨がやって来る。

「おかえりなさい匡伸さん、寝ちゃってました」

 起きたばかりの時雨は、目がとろんとしている。 

「仕事は無事に終わったのか?」
「ギリギリセーフでした……」

 時雨は目をこする。

「お疲れさん。お好み焼き作ったから食べようぜ」
「やったー僕、匡伸さんの作るお好み焼き大好きです」

 匡伸の作るお好み焼きは祖母直伝で、大量にキャベツが入っていた。
 お好み焼きにソースとマヨネーズをかけて、青のりと鰹節をぱらぱらかける。
 かつおぶしが、うにょうにょと動く。

「よし!」

 食卓にお好み焼きを持って行っておく。

「めしあがれ!」
「いただきまーす!」

 箸で大きめに切ったお好み焼きに時雨がかぶりつく。

「美味しい! やっぱり匡伸さんはお好み焼き作るの上手ですね!」

 もぐもぐもぐと、大きな口で食べて行く。一分も経っていないのに、既に三分の一を食べていた。

(はやっ)

 自分の分のお好み焼きをテーブルにのせて、匡伸も食べ始める。

(うん、上手く焼けてる)

「そういや、水永さんが挨拶に来たいって言ってるんだけど、どうする?」

 言った瞬間に、にこにこしていた時雨の顔がしゅんとした。

「……水永さんですか……」

 わかりやすく目が淀む。

「時雨が嫌なら断るぞ、ここは時雨の家なわけだしさ」
「……正直、匡伸さん以外の人を家に入れたくはありません……けど、匡伸さんがあの人と二人きりでどこかで会うと言うのも嫌です」

 物凄く強い嫉妬心を感じる。

「水永は俺の大事な友人だから、ずっと会わないってわけにはいかないぞ……?」
「わかってます……本当は匡伸さんには誰とも会わずに、ずっとこの家に居て欲しいんですけど、それが不可能な事はわかっています」

 時雨が目をぎゅっと閉じる。本人も自分と葛藤しているらしい。

「なので家に呼んでも良いですよ。けど、頻繁には呼ばないでくださいね……あと、もしも今度、水永さんと二人で会う事がある時は必ず事前に教えてください。突然、その現場を見てしまったら、僕、何するかわかりませんので……」

 重いストーカー気質を隠す事の無くなった時雨は、こうして『アウト』なゾーンを申告して来るようになった。

「わかった。まぁ、水永はただの同僚だから、そこまで気にする必要無いと思うけどな」
「僕より先に匡伸さんと仲良くなっている事実が、もの凄く嫌なんです」

 時雨がむーっとした顔をする。

「そ、そうか。わかった、わかった。落ち着け。お好み焼きおかわりいるか?」

 時雨の皿は空だった。

「食べます!」

 次のお好み焼きを用意して、時雨の前に置く。

「いただきまーす」

 二枚目のお好み焼きをもぐもぐ食べる。

「日程は後でまた連絡するな」

 お好み焼きを食べながら、時雨はこくこくと頷いた。

つづく
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