零れ落ちる想いの花

花霞

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不運な事故、だった

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 橋の上を歩いている所で、2人の前を一匹のトンボが飛んで行った。川辺に生息する羽が茶色く、ヒラヒラと舞うように飛ぶトンボだった。

「あ、美姫ちゃん、トンボだよ」

美姫の手を握ったまま、友雪は思わずそのトンボを追いかけた。美姫は友雪に引っ張られるように橋を渡り切り、小さな土手をおりて川べりに立っていた。

「友雪、泳げないんだから、それ以上前に行ったらダメだよ」
「うん」

 川辺を小ぶりなトンボ達がひらひらと飛んでいる光景は、とても面白く、茜色になってきた空が川面に映り、幻想的に見えた。
 暫く2人でそれを眺め、薄暗くなり始めてきた事に気付き、コテージに戻ろうとした所で、友雪が足を滑らせ川に尻もちをついてしまった。

「うわぁ」
「友雪、大丈夫? 手、引っ張るから立てる?」

 美姫は友雪が泳げないことを思い出し、慌てて握っていた手を自分のほうへと引き寄せた……が、自分と同じかそれよりも重たい男子を引き寄せるだけの力は美姫にはなかった。


 バッシャーン!!


 大きな水音と共に2人が川に倒れこむ。日中は温かかったとはいえ、陽が落ちてしまえば川の水は冷たかった。

「服が重たい……友雪、大丈夫?」

 寒さの為なのか、恐怖の為なのか、カタカタと震える友雪を励まし、美姫は流れに足を取られながら立ち上がろうとする。

 しかし水を吸った服は重く、上手く起き上がれなかった。

 それでも美姫の励ましが功を奏したのか、何とか2人で支えあい立ち上がった所で、水の重さと冷たさでふらりとした友雪が再び転んでしまい、川の深い所にはまってしまった。泳げずに半ばパニックになって身動きが取れなくなった友雪を美姫は落ち着けるように話しかける。

「友雪、大丈夫。身体の力抜いて、そうしたら私が岸まで運ぶから」

 明らかに溺れている友雪を引き戻そうと美姫は友雪を引っ張るが、それも叶わず2人一緒に流されてしまった。
 その時美姫は、咄嗟に友雪を庇うように抱きしめ、出来るだけ身体を浮かせるように心がけていた。

 ただ、視界が暗かったのと、友雪に意識を向け過ぎていたのがいけなかった。


 ガン!!!と美姫の頭にとてつもない衝撃が襲う。


 流れていた先にあった岩に気付かず思いきりぶつけてしまったのだ。美姫はそこで意識を失ってしまった。

「み、き、ちゃん……?」

 自分を抱えてくれていた美姫の身体の力抜けたのを感じ、友雪は必死に美姫を抱きしめる。友雪の目には映っていなかったが、川の水がぶわりと赤く染まっていた。

「美姫ちゃん、美姫ちゃん、大丈夫? ねぇ。美姫ちゃん」

 ガボガボと水を幾らかの見ながら、友雪は懸命に美姫に声をかける。


――何とか、何とかしなきゃ……


 そう思っていた所で、友雪と美姫を呼ぶ美姫の父親の声が聞こえてきた。

「ぉじ、……、ぉ……」

 身体が冷え切り上手く口が回らない。ガチガチと歯が鳴る。友雪は動かない美姫をぎゅうっと抱きしめ、お腹に力を入れた。


 ――今、僕がここで頑張らなきゃ、美姫ちゃんがいなくなるかもしれないんだぞ!


 そう自分を叱咤し、ぐっと唇を噛み、震えを無理やり抑え込む。そしてその時出せるだけの精一杯の声を出した。

「おじさん!!! 助けて!!!」

 そこからはあっという間だった。2人は速攻で川から救出され、救急車に乗せられて病院へと運ばれた。
 友雪は怪我らしい怪我はしていなかったが、念のため検査をすることになった。だが特に異常はなく。1泊だけ入院してすぐに自宅に戻ることになった。
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