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目覚めを、待っている
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短い入院後、友雪が退院の準備をしている所に、美姫の父親が現れた。優し気な顔はいつも通りだが、眠っていないのか目の下に隈が出来ていた。
「友雪、大丈夫か?」
「おじさん……僕は大丈夫……」
そこで言葉が詰まる。ポロポロと友雪の目から涙が零れ落ちる。
「ごめ、ん、なさい。僕が、川に近づかなかったら、美姫ちゃんは……」
美姫の父親、晴由は友雪の頭をぐしゃぐしゃと撫でて、少しだけ困ったような表情を浮かべていた。
「友雪が謝ることはないぞ。おじさん達がちゃんとお前たちに付いてなかったのが一番悪かったんだ」
「でも……僕が……」
うわーんと大泣きする友雪を抱きしめ、晴由はその背中を優しく撫でながら語りかける。
「気にするな、って言うのは多分、無理だろうから、それは言わないでおくな。でもな、友雪、自分を責めるなよ。幸い、美姫の怪我は命に別状はないそうだ。だから、美姫の為にもあまり自分を責めないでやってくれな」
――命に別状はない
その言葉に友雪がどれだけ安堵したか、きっと晴由は知らない。それでも大事な美姫に怪我をさせてしまった……という事実は友雪を打ちのめしていた。
友雪が退院した後も美姫は入院したままだった。頭を強く打った所為か、なかなか目を覚まさず、病室のベッドの上で眠り続けていた。
美姫が目を覚ますまでは病室にお見舞いに行くことも出来ず、友雪は毎日病院の前まで行っては美姫が目を覚ますように……と祈っていた。
その日も病室へと行けないのは判っていたが、美姫が気になり、病院の前へと友雪は来ていた。美姫の病室がある辺りを眺めて、涙がじわりと滲むのを感じた。
「友雪君?」
そう声をかけられ、友雪は驚いてその声の主の方を見た。そこにいたのは、美姫の母親、琴音である。
「あ、おばさん。美姫ちゃんは……」
「まだ寝てる。まぁ、あの子はお寝坊さんだから。その内、よく寝たーって言いながら起きるよ」
どこか明るい口調に少しだけ友雪の気持ちが軽くなる。そして、手に握りしめていた花を琴音へと差し出した。
「あの、これ……」
「これは、ワスレナグサ?」
「うん。美姫ちゃんが好きだって言ってたから」
道端に咲いているのを見て思わず手折ってしまったのだ。あの時、美姫はこの花を綺麗だと、そう言って笑っていたから。
琴音は花を受け取り笑顔を見せた。
「有難う、病室に飾っておくね」
美姫によく似た笑顔に友雪の胸がぎゅうッと苦しくなる。涙腺が刺激され、じわりと涙が出そうになるのを堪えるように、友雪は慌てて違う話題を口にした。
「あの、何でその花がワスレナグサって言うのか、おばさんは知ってる?」
「ん? この花の由来?」
あの日、この花の前で、パパに確認しようと美姫は言っていた。ならば美姫が目覚めた時に、教えてあげたいと、そう思った。
琴音がその由来を知っているかは判らなかったが、聞かずにはいられなかった。
「えーっとね。確か……恋人の為にこの花を摘もうとした騎士がいて、川岸に降りたところで、川に流されたんじゃなかったかな。その時、手に持ったこの花を岸に何とかなげて『僕を忘れないで』っていう言葉を残して亡くなっちゃったんだよね。それでその花を恋人はお墓に備えて、彼が最後に言った言葉を花の名前にした。って言うのが由来だったと思うよ」
琴音は記憶を引っ張り出し、ワスレナグサの逸話を教えてくれた。どちらかと言えば、今の状態からすると縁起でもない花なのかもしれない……。
「何だか、悲しい話だね」
「確かにそうかもね。ただ、この花を贈られた恋人は彼を生涯忘れないように、髪にこの花を飾ったって言われてるから、そう考えるとちょっとロマンチックかもね」
琴音はそう言って微笑んだ。
「ロマンチック……?」
友雪は首を傾げる。それに対して琴音は破顔して、友雪の頭に軽くポンッと手を置いた。
「まだ、友雪君には判らない感覚かもしれないね」
友雪には、忘れないように……と花をつける恋人の事を、悲しいな。と感じるだけで、琴音の言うロマンチックという言葉がピンとは来なかった。
まだ小学生の男の子に、そこにある愛の深さを問いても仕方ないと琴音は笑みを深めた。
「友雪、大丈夫か?」
「おじさん……僕は大丈夫……」
そこで言葉が詰まる。ポロポロと友雪の目から涙が零れ落ちる。
「ごめ、ん、なさい。僕が、川に近づかなかったら、美姫ちゃんは……」
美姫の父親、晴由は友雪の頭をぐしゃぐしゃと撫でて、少しだけ困ったような表情を浮かべていた。
「友雪が謝ることはないぞ。おじさん達がちゃんとお前たちに付いてなかったのが一番悪かったんだ」
「でも……僕が……」
うわーんと大泣きする友雪を抱きしめ、晴由はその背中を優しく撫でながら語りかける。
「気にするな、って言うのは多分、無理だろうから、それは言わないでおくな。でもな、友雪、自分を責めるなよ。幸い、美姫の怪我は命に別状はないそうだ。だから、美姫の為にもあまり自分を責めないでやってくれな」
――命に別状はない
その言葉に友雪がどれだけ安堵したか、きっと晴由は知らない。それでも大事な美姫に怪我をさせてしまった……という事実は友雪を打ちのめしていた。
友雪が退院した後も美姫は入院したままだった。頭を強く打った所為か、なかなか目を覚まさず、病室のベッドの上で眠り続けていた。
美姫が目を覚ますまでは病室にお見舞いに行くことも出来ず、友雪は毎日病院の前まで行っては美姫が目を覚ますように……と祈っていた。
その日も病室へと行けないのは判っていたが、美姫が気になり、病院の前へと友雪は来ていた。美姫の病室がある辺りを眺めて、涙がじわりと滲むのを感じた。
「友雪君?」
そう声をかけられ、友雪は驚いてその声の主の方を見た。そこにいたのは、美姫の母親、琴音である。
「あ、おばさん。美姫ちゃんは……」
「まだ寝てる。まぁ、あの子はお寝坊さんだから。その内、よく寝たーって言いながら起きるよ」
どこか明るい口調に少しだけ友雪の気持ちが軽くなる。そして、手に握りしめていた花を琴音へと差し出した。
「あの、これ……」
「これは、ワスレナグサ?」
「うん。美姫ちゃんが好きだって言ってたから」
道端に咲いているのを見て思わず手折ってしまったのだ。あの時、美姫はこの花を綺麗だと、そう言って笑っていたから。
琴音は花を受け取り笑顔を見せた。
「有難う、病室に飾っておくね」
美姫によく似た笑顔に友雪の胸がぎゅうッと苦しくなる。涙腺が刺激され、じわりと涙が出そうになるのを堪えるように、友雪は慌てて違う話題を口にした。
「あの、何でその花がワスレナグサって言うのか、おばさんは知ってる?」
「ん? この花の由来?」
あの日、この花の前で、パパに確認しようと美姫は言っていた。ならば美姫が目覚めた時に、教えてあげたいと、そう思った。
琴音がその由来を知っているかは判らなかったが、聞かずにはいられなかった。
「えーっとね。確か……恋人の為にこの花を摘もうとした騎士がいて、川岸に降りたところで、川に流されたんじゃなかったかな。その時、手に持ったこの花を岸に何とかなげて『僕を忘れないで』っていう言葉を残して亡くなっちゃったんだよね。それでその花を恋人はお墓に備えて、彼が最後に言った言葉を花の名前にした。って言うのが由来だったと思うよ」
琴音は記憶を引っ張り出し、ワスレナグサの逸話を教えてくれた。どちらかと言えば、今の状態からすると縁起でもない花なのかもしれない……。
「何だか、悲しい話だね」
「確かにそうかもね。ただ、この花を贈られた恋人は彼を生涯忘れないように、髪にこの花を飾ったって言われてるから、そう考えるとちょっとロマンチックかもね」
琴音はそう言って微笑んだ。
「ロマンチック……?」
友雪は首を傾げる。それに対して琴音は破顔して、友雪の頭に軽くポンッと手を置いた。
「まだ、友雪君には判らない感覚かもしれないね」
友雪には、忘れないように……と花をつける恋人の事を、悲しいな。と感じるだけで、琴音の言うロマンチックという言葉がピンとは来なかった。
まだ小学生の男の子に、そこにある愛の深さを問いても仕方ないと琴音は笑みを深めた。
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