Restaurant labyrinthe

竜胆 秋紫

文字の大きさ
1 / 1

彼の料理【前編】

しおりを挟む
地方の会社員の僕は、結婚したばかりの妻を家に残し一人、出張で東京に来ていた。
取引先の方に誘われ、上司と共に雰囲気だけでも気圧されてしまいそうな洒落たレストラン街へ足を運ぶ。
案内されたのは看板に不思議な雰囲気を醸し出す字体で【Restaurant labyrinthe】と書かれた店。
店内に入るため重厚な扉を開けると同時に、ぶわっと強い風が正面から襲い来る。
思わず目を瞑り、風が止んだのを感じて目を開けるとそこには取引先の方も上司も居なかった。
僕を置いて先に行ってしまったのかと慌てて中へと向かう。


入口でうろついていると、スラリと背の高い“影”が現れる。
シルクハットに燕尾服、手には白い手袋をはめていた。
レストランの従業員とは思えない風貌をしている。
時折チラリと袖口から覗く肌は、影の名に相応しく真っ黒だ。
シルクハットの乗った頭もこれまた黒く、形を留めない闇が渦巻いていた。

『やぁ、お客人。当店へようこそ』

不思議な光景に状況を飲み込めていない僕が呆然としていると、その“影”が姿に見合わない飄々とした声音で言葉を発する。
シルクハットを取り会釈をするが、やはりそこに頭は無い。

『お客人、お一人ですか?』

“影”は首を傾げる。
僕は首を横に振り、先に上司二人が来ているはずだと伝えた。

『そのようなお客は来ていませんよ?
 冗談はさておき、お席に案内します』

僕の言葉に耳も貸さず、影は席の方へ向かっていく。
テーブルがいくつも並んだフロアは静まり返り、誰の気配もしない。
一番奥のテーブルに案内されると、影が再び口を開く。

『当店にメニューはございません。
 お客人には我々が厳選したフルコースを味わって頂きます』

影がシステムの説明を始める。

『料理のご用意が出来るまで、少々お時間がございます。
 一つ、小話でも語りましょうか』

状況が飲み込めず、不思議そうな顔をする僕を差し置いて、影が悠々と語り始めた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?

荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。 突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。 「あと、三ヶ月だったのに…」 *「小説家になろう」にも掲載しています。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

処理中です...